長期スパンで見る山の生態。山岳の生態学について読んでみた

同じジャンルで日本の山の生態学の本を読んだことがあったのだが、こちらはロッキー山脈のカナダ部分、「カナディアンロッキー」を舞台にした本。山全体の広範囲な生態学を扱った内容だ。

カナディアンロッキー: 山岳生態学のすすめ (学術選書) - 大園 享司
カナディアンロッキー: 山岳生態学のすすめ (学術選書) - 大園 享司

山の生態学というと、高山植物とか、山に住む動物とかをイメージしやすいが、この本の扱っている範囲はもう少し広い。たとえば森自体を一つの生命体と見なした場合、森が誕生してから森に生える木々が変遷していき、やがて世代交代が停止して「死」に至るまでの流れが扱う内容になる。

たとえばこのへんの「植生の遷移」という概念が基礎知識としてあると入りやすい。
https://www.shinrin-ringyou.com/shinrin_seitai/seni.php

カナディアンロッキーにおいては、最終氷期が終わり、氷河が後退しはじめたところからスタートしている。氷河が後退すると地面が現れる。重たい氷に削られていて土も何もないただの岩地だ。そこに最初に入って来るのが苔。苔が地面を覆い、しだいに草が生えるようになり、草から低い灌木の林になり、長い年月をかけて木が生えるような土壌が形成されていく。
最近では木のDNAを分析することで、どのように木が広がっていったのかが分かるようで、それも氷河の消えていった動きと連動するという。

ひとたび森が出来たあとも、森を形成する木々は変化する。
カナディアンロッキーの場合は、雷などによる天然の火災で森が焼けたあと最初に再生するのはマツらしい。まず最初にマツが発生して、そのあとトウヒやモミの林に遷移していくという。

マツは土壌が貧しいところでは強いが、豊かだと他の木に負けてしまう。かつて日本の里山でマツが多かったのは、炊きつけの燃料にするために人間が落ち葉や枝を拾い集めて腐葉土が作られず、里の近くの山ほど土壌が貧しかったからだと言われる。山里の近くがマツだらけなのでマツタケもたくさん採れたのだが、電気窯が普及してかまどが無くなると炊きつけの燃料を集めなくなり、次第にマツが他の木に負けるようになってしまった。日本の山もカナダの山も、基本のメカニズムは似通っている。

また、カナダならではだなぁと思ったのは、冬季の雪崩で木の世代交代が起こると言う話。雪崩が起きても若い木はやんわりしなるだけなので生き残るが、ある程度の大きさに育った老木はしなれことが出来ずにポッキリ折れるかひっくり返るかして枯れてしまうのだという。木の死亡率、という概念はなかなか面白いものがある。あと、落ち葉が腐って重量が減っていくのを「半減期」と呼んでいるのも面白かった。微生物や昆虫が落ち葉を分解して半分くらいまで減る「半減期」。これは条件次第だが、意外と長い。どうせ自然に還るでしょ、とか山で果物の皮をポイ捨てしちゃう人はぜひ読んでください…そのミカンの皮、半減するまで何カ月もかかりますよ…。

それから火災や、温暖な冬が生み出す害虫など。人間が自然に影響しなくても、森は常に変化していく。変化するからこそ生きているとも言える。土壌に住む生物も、その上に生える植物も、山という一つの生命体を構成する要素だ。山の寿命はとても長いので、人間の一生のうちに見える変化はほんの僅かなのだが。



この本は、山歩きの好きな人が読むとより面白い本だと思った。