アフリカの大地に生きるサン族の物語「ブッシュマンの神話」

アフリカの神話、と一口にいっても、どの地域のどの部族のものかによってテイストは大きく変わる。それはアジアの神話、と言った時にアジアのどの地域を想定するかによるのと同じことだ。インド神話と中国の神話と、タイの神話と日本の神話では大きく異なるように、アフリカといっても、エジプトの神話(古代のものを除けばイスラム寄り)とエチオピアの神話(ギリシャ神話に聖書と東アフリカ要素をミックスした感じ)とヨルバ族の神話(西アフリカの農耕・漁労文化)は全然違う。今回の神話は、中央南部で少し前まで移住生活をしていた、「ブッシュマン」と他称される狩猟民族の神話だ。正確にはコイコイ族とサン族を合わせてコイサンと呼びならわされている。

ブッシュマンの民話 - 二郎, 田中
ブッシュマンの民話 - 二郎, 田中

彼らの住んでいる場所は、カラハリ砂漠。
ここは最近、定住化政策が行われているため、おそらくこの本の中に出てくる写真も、採集された民話も、何十年か昔のものだろう。

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世界の創造に関する神話的なものも多いが、イソップ物語を思わせる動物どうしの騙し合い的な話も多い。しょっちゅう登場するのは、いたずらもののピーシツォアゴ。これは「創造主」と著者がカッコつきで書いている。動物たちを生み出し、太陽と月を妻にしているが、太陽と性交しようとすると熱くて男根が焼けてしまうので、冷たい月のほうと交わったという。なんていうか、うん、沙漠の民だし涼しい夜のほうがいいよねやっぱ…。
動物たちが人間のように振る舞っているのが可笑しいと言って、動物たちを動物らしくさせようとする。そのくせイボイノシシに騙されて焼かれたりもしている。トリックスター的な存在なのは間違いない。
面白いことに、最初は火を持っておらず、ダチョウから火を盗んで手に入れたという。同じような民話はアラスカにもあるので、神話の中で鳥と火が結び付けられる例はもしかしたら珍しくないのかもしれない。

他によく出てくるのはゲムズボックという動物。これはカラハリでよく狩猟される動物で、要するにオリックスのこと。
ブッシュマンの大好物らしく、脂が乗っていてとても美味しいらしい。そのせいか、お話の中ではいつも食べられている。ゲムズボックの肉をたっぷり食べて太って美しくなる女性の話が出てくるところからして、サン族の中では女性も脂が乗って肉付きが良い方が魅力的らしい。

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好かれる動物No,1がゲムズボックなら、嫌われているのはウサギで、他の動物をだますとか、口が裂けていて不吉だとか散々な言われようだ。ウサギをずるがしこく不吉なものと扱うのは、ヨーロッパの神話だけではないらしい。他にもたくさんのお話が集められていて、独特の世界観がとても面白かった。

あと、この本に載っているお話のいくつかは、採取した際の「オリジナル音声」をyoutubeで公開している。
本の中にQRコードとURLが記載されていて、アクセスするとサン族の語り部が物語を語る音声を聞くことができる。文字に起こされている中で歌っているように見えるところがあるが、本当に歌いながら語っているのがわかる。おそらく韻を踏んでるところもあるんだと思うが、独特の言語なので全体が歌のようにも聞こえる。日本にも、いろんなことを研究している人がいるものである。


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なお、サン族の暮らしについては、こんな本も出ている。
水の乏しいカラハリ砂漠でなぜ人々が移住生活出来ているかというと、野生のスイカを利用しているからなのだという。

人間にとってスイカとは何か: カラハリ狩猟民と考える (フィールドワーク選書5) - 和信, 池谷, 道子, 印東, 雄二, 関, 千尋, 白川
人間にとってスイカとは何か: カラハリ狩猟民と考える (フィールドワーク選書5) - 和信, 池谷, 道子, 印東, 雄二, 関, 千尋, 白川

「ブッシュマンの民話」の中に出てくるスイカ・ダンスや、カーン・メロンについての詳しい記述もあるし、近年では狩りに馬や銃を使うようになっていたこと、その後の政府の定住政策で生活が大きく変わってしまったことなども判る。