マダガスカル島への哺乳類の移住方法とは/人間とそれ以外

マダガスカル島は、「人類最後のフロンティア」と言われてきた島である。イースター島と同じく、わりと最近まで人が定住していなかったと考えられていたからだ。定住の証拠は古く見積もっても1,000年前からだとされてきた。

また、現在の定住者たちの祖先はミトコンドリアDNAや言語の分析から、南アジアから到達したオーストロネシア語族だと判っている。
何故、アフリカからではなく南アジアからはるばるやって来た人々が最初の定住者となったのか。アフリカから人が到達出来なかった理由は何なのか。これがずっと気になっていた。

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かつての説では、約2,300年前の痕跡が最古で、おそらくアフリカに住む人々は航海技術がなく、海流の関係もあってそもそも「到達出来なかった」のだとされてきた。それなら答えはめっちゃ簡単なんである。別に悩まない。

しかし厄介なことに最近の研究では、最古の人間の痕跡は1万年を遡ることが明らかになってきている。

(たとえばこのへんの研究。

Researchers Confirm Timeline Of Human Presence On Madagascar
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2019/10/researchers-confirm-timeline-of-human.html#0BxTXoY0FxA4WIRO.99)

問題は、この痕跡が散発的で定住したように見えないこと。また、複数の時代に跨っているため、到達したのは一回ではないらしいことである。定住したかどうかは、遺跡の状態で判る。定住していれば何百年にも渡って蓄積された生活の痕跡が残るし、壊れた道具などの遺物も沢山出てくる。しかし、移動中に道具を作ったり。短期間住んでいただけだと、道具や食べカスの量が少なく、厚みも薄くなる。今見つかっている遺跡の状況からして、かつて島に辿り着いた人々はすぐに立ち去ったか、定住はせず島内を少人数で移住する生活をしていたか、途中で全滅してしまったように見える。

というわけで、問題は、航海技術を持たないアフリカ人と航海技術のあったオーストロネシア人、という対比ではない。

 過去にたどり着いた人々は、なぜ定住出来なかったのか
 (または)
 定住していたとすれば、なぜ数が少ないままだったのか

である。

ちなみに定住に成功する条件は、結果から見れば、おそらく「農耕」「牧畜」である。現在、マダガスカル島に定住している人々は、農耕の技術と家畜を持って来た。それが1000年前以降。ということは、狩猟・採集では生存が難しい環境だったと考えられる。
狩猟できる動物は山ほどいたにも関わらず、である。

面積の小さな島の場合、島にいる動物を狩りつくしてしまうこともある。しかしマダガスカル島では、大型の動物の絶滅はここ1000年~500年位の間に起きている。これは新たな定住者が訪れて人間の数が増えた時期に一致する。それ以前に島にたどり着いた人々は、途中で全滅したか、数が少なかったため、島の環境にそれほど影響を与えなかったらしい。

島にいた動物はそんなに狩りづらかったのか。
食べられるものが少なかったとか、気候が厳しかったとか何か理由があるのか。
何しろ、少数にしろ「1万年前から人はちょくちょく島に来てた」のである。絶海の孤島・イースター島と違って、マダガスカルはアフリカから400km、しかも間に足掛かりになる島が幾つもある。来てたんなら住み着く奴がいたっていいだろう。


手がかりを探すため、マダガスカル島に生息する大型哺乳類がどうやって海を渡ったのかを調べることにした。そして判ったことは、人間以外の飛べない哺乳類たちも、「どうやって島に来たのか、よくわからない」という状況だということである。

マダガスカル島の自然史: 分子系統学が解き明かした巨鳥進化の謎 - 政美, 長谷川
マダガスカル島の自然史: 分子系統学が解き明かした巨鳥進化の謎 - 政美, 長谷川

マダガスカル島は、一度もアフリカと陸橋で繋がったことはないと考えられている。インドとは約7,500万年前までに完全に分離した。インドはそのまま北上を続けてユーラシア大陸の一部となったが、マダガスカルはアフリカの側に留まり続けた。海水面の上下や時代によってアフリカとの距離は若干異なるだろうが、常に一定の幅の海があったと考えられる。

そんな中で、アフリカ起源と考えられるコビトカバやツチブタ、サル、ジャコウネコなど様々な動物が島に暮らしている。彼らが島にたどり着いたのは、大陸が分離してからの時代だと考えられている。つまり、どうにかして海を渡ってきたのだ。

この時点で、人間も偶然の事故などで海に流されてたどり着くことが出来るんだなという可能性は見える。しかし、「どうにかしてたどり着いた」から現実にそこにいるのだが、どうやってたどり着いたのかは不明のままだ。具体的に辿り着ける方法は判らず、実証も出来ていない。

ただ言えることは、たどり着いた種は多かったけれど、生き残れたのはおそらくごく一部だっただろうということ。おそらく人間もまた、生き残れなかった種のうちの一つだ。

マダガスカル島の何が定住を拒む理由だったのか、今はまだ見えていない。もしかしたらそれは、はっきりした理由ではなく、「たまたま流れ着いたのが男ばかりだった」「まとめて疫病にかかって全滅した」等の、不幸な偶然の積み重ねなのかもしれない。