世界三大高地と人類の高地順応~高地の人々の高度順応戦略とその代償

世界には、標高が高いところに暮らす人々が数多くいる。
世界の三大高地、エチオピア高地、チベット高地、アンデス高地。実はそれぞれに暮らす人たちには、高地に適応した遺伝子の変異が見られる。しかも調べていくと、その変異、生存戦略の方法は、それぞれに異なっていることが分かって来た。

まず前提として、血液の中にあり、酸素と結合して体内の細胞に酸素を運ぶのがヘモグロビンだ。
それぞれの高地に行くと、標高が高いため酸素が薄く、平地の2/3程度になってしまう。そうすると、普通に平地と同じように呼吸していても、体内に巡る酸素の量が減ってしまう。これが高山病の原因となり、また酸素が少ないため少し運動しても息が切れてしまう。

ここで、血管を道路、ヘモグロビンをトラック、酸素を荷物と考えてみよう。
酸素量が2/3しかない場所では、作業効率が2/3以下になる。平地と同じだけの荷物を運ぶには、この3つのうちどれを変更すればいいのか。


エチオピア高地民の選んだ方法
「酸素飽和度増加方式」

ヘモグロビンの、酸素と結合できる量を増やす。つまり、1つのヘモグロビンで運べる酸素が多い。
言ってみれば「トラックへの荷物の積み方を工夫して積載量を増やす」戦略。

チベット高地民の選んだ方法
「血流増加方式」

肺活量を大きくするとともに、低酸素状態でも体内に流せる血液を増やす。
言ってみれば、「トラックの数は増やさないが、道路を広くして一度に沢山のトラックを走らせる」戦略。

アンデス高地民の選んだ方法
「ヘモグロビン増加方式」

血中に含まれるヘモグロビンの数を増やすが、そのままでは血管の負荷が上がるため、負荷軽減の機能もつける。
言ってみれば、「道幅は変わらないがトラックの数は増やす」戦略。

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※参考
https://www.yunnan-k.jp/yunnan-k/attachments/article/801/20141220-31-04-okumiya-slide.pdf


うん。まあ、どれも「チートじゃん?!」って感じである…。
もちろん、そこに住む人の100%が持っているわけではないらしいのだが、これらの遺伝的な変異は他の地域に比べ飛躍的に高く、明らかに高地に順応した特殊進化を遂げていると言える。ただ、チベットとアンデスの方式には、罠がある。

 血流を増やす=高血圧(肺高血圧症、心不全)になりやすい
 ヘモグロビンを増やす=多血症になりやすい

血流に多さに血管が耐えられなかったり、度を越してヘモグロビンが増えすぎたりすると、健康障害に繋がるのだ。近年では、食生活などの変化によって、かつて保たれていた身体のバランスを崩す人もいるという。特殊な環境に適応してしまうと、その環境が一部でも変わった時に不利になる。これは、人間以外のほかの動植物を見ていても判る。

※参考
https://www.kyoto-bhutan.org/pdf/Himalayan/013/Himalayan-13-011.pdf

しかし、この三種類の高地順応の戦略の中で、エチオピアの高度順応方式については、どうも副作用らしきものが見受けられない。
3,530 mという高地においても、血中の酸素飽和度が95%以上あるというから、ほぼ平地と同等。まだ研究の途上のようなのだが、エチオピア人が長距離走に有利なのって、このへんも関係しているんじゃ…。

An Ethiopian pattern of human adaptation to high-altitude hypoxia
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12471159


おそらく、この高地順応の方式の違いと副作用は、その地域の人類が高地に上がった時からの時間の長さに関連している。

 エチオピア高地に人類が住むようになったのは、10 万年以上前。
 チベット高地は 2 ~3 万年前。
 アンデス高地は1 万 3 千年前~。

高地に住むようになってからの時間が長いほど、適応のために身体につけるオプション機能がより優れたものになっている、と考えることが出来る。実際、いくつかの研究を見てみても、チベット高地の自由人ややアンデスの住人には一定数、高山病を発症する人がいる、となっているのに、エチオピアでは報告されていない。地球上でもっとも高地に、つまり低酸素状態に適応した人々、と言えるのではないだろうか。


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ちょっとした興味から調べ始めた人類の高地順応の戦略だけど、意外と奥が深かった…。
そしてエチオピア人さぁ、あのさぁ、チートじゃん!! 単純にヘモグロビン増やすだけならうちら低地人にも機能ついてますけどさ、血中飽和濃度を高めるって何やねん。まず身体機能からして違うんじゃ勝ち目ねーな、ってしみじみ思いました。