Nスペ「アイアンロード」を見てみた。鉄の東方への伝播としてはよくまとまってる感じ

わりと評判良かったみたいなので、アイアンロード~知られざる古代文明の道 を見てみた。
1時間枠でまとめるには無難なつくりで、映像は相変わらず綺麗。

https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586175/index.html

「シルクロードより古い東西の道」という触れ込みだが、扱っている時代がスキタイ以降なので紀元前9世紀~、まぁ確かに古い。
出発点を、最初に鉄器が開発されたとされるヒッタイトにして、そこから「東方向」への製鉄技術の伝播を取り扱っている。

ai_008.jpg

ai_018.jpg

なぜステップ地帯を通ったのか、については、製鉄に必要な木材がある地域に近いルートを選んだから、という説明だったが、鉄の産地とそう遠くないことも重要な条件だったはず。地図上に鉄の産地(鉱山)の位置もマッピングしてあれば完璧だった。

ai_021.png

中央アジアも乾燥した地域なので、湿気で腐食してしまう鉄の残りがいい。
あまり発掘されていない地域でもあり、発見や報告が相次ぐようになったのは近年になってから。このへんは、なるほどと思いながら見ていた。

ai_019.png


ただ、少し誤解を生むところもあるなぁと思っている。
製鉄技術の伝播によって鉄のハミが作られるようになり、馬に乗って移動することが容易になり、「移動革命」が起きる。これは正解なのだが、鉄器がなくても人類は馬は飼ってた。単にハミの材料が違っていただけ。

また青銅を作る技術と鉄をつくる技術が全く別モノとして扱われていたのもちょっと違う。
青銅をつくる過程で鉄器も作れる、というか青銅を作る炉から鉄滓も出る可能性がある。これは、以前聞いてきた講演会の記録を参照してほしい。

製鉄技術の伝播・北へ、東へ編 ~鉄と銅が同居していた時代の中央アジア
https://55096962.at.webry.info/201801/article_15.html

ポイントは「銅を製錬する際に融点を下げる目的で鉄鉱石を入れていた」というところ。
そして実用に足る青銅を作るのに必要な温度と、鉄器を作るのに必要に温度には、実は差がない。少なくとも現在では、単純に「鉄滓が出たから鉄を作っていた炉の跡だ!」とは、言えなくなっていると思う。

また、ヒッタイト帝国が滅亡して以降、製鉄技術はすぐには広まっていない。紀元前1,200年に帝国が崩壊したあと、周辺地域で鉄器がそれなりの頻度で出土するようになるのが紀元前10世紀くらい。量産技術の確立は、ヒッタイトではなくそれ以降に東地中海のどこかで行われた可能性もある。これには、のちに広まりはじめる鉄器と、ヒッタイトで製造されていた鉄器とで、作り方が違いそうだという研究がある。


鉄器が広まり始めた理由と技術の変遷/ヒッタイト崩壊後、真の鉄器時代に至るまで
https://55096962.at.webry.info/201805/article_10.html

いずれにしても、中央アジアでスキタイが鉄器を量産し始めたのは、東地中海でも鉄器が一般的になり始める紀元前10世紀以降のこと。
鉄の道が、ヒッタイトを含むアナトリア半島を通っていっただろうことは確かなので(もしかしたらイラン経由の可能性もあるが…)、大筋では問題ないと思った。

あと細かいところでちょっと気になったのは、鉄を使って帝国を築いたアッシリアやパルティアの扱いがちょっと小さかったかなぁ、ってこと。東のスキタイや匈奴に対応する(時代的にも)、西の一大勢力だから。でもまあ、番組的に東への伝播がメインだったから、時間配分で省かれてもしょうがない。ただ、同時代に別の場所でも同じように鉄を使っていた勢力はいたんだよって話はあっても良かったかな…

ai_022.png

番組内では、見慣れた(?)匈奴の武器なども出てくる。
また、中国を経由した製鉄技術が日本に伝播してくるあたりからは、お馴染みの風景になる。

番組の作りとして面白かったのは、日本人が作る番組はやはり匈奴と漢の戦いを経由して、日本がゴールになるんだなぁというところだ。
ヨーロッパ系の人々、たとえばBBCが同じようなテーマで番組を作ると、スキタイまで行った鉄器がその後、フン族とともにヨーロッパに入って来てローマと敵対し、ブリテン島に鉄が渡来して現代のシーンに繋がるはずだ。アイアン・ロードは東西に同じように広がっていくのに、両方を同時に取り扱う本や番組を滅多に見かけない。それは尺の問題というよりも、専門分野という壁や、意識の問題のようにも思う。

もし機会があって、2時間枠くらい取れるのであれば、もっと広い範囲での「人と鉄の関わり」とか、扱っているのを見てみたい。


***
おまけ

鉄オタ(Fe)による鉄オタのための本。

人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理 (ブルーバックス)
人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理 (ブルーバックス)