チベット高地と人類の高地順応~高地の人々はいつから高地に適応したのか

昨年は、エチオピア北部、チベット高地と、やたら高いところばかり回って来た。
エチオピアは全然余裕だったが、チベットはさすがにキツかった。ていうか、どうも3,000mと4,500mがそれぞれ壁になっていて、3,000mを越えると「体が重い」、4,500mを越えると「息するのに必死」という感じ。これは人によるというよりは、おそらく日本人の身体のスペック的にそこが限界なのだと思う。

実は高地順応については、人間の体の「そもそもの」スペックに差異がある。
そしてどうもそれは、遺伝的な差異から来ているようなのだ。

高地と遺伝子ー山での悲劇を防ぐためにー
http://www.jac.or.jp/info/iinkai/iryou/page-03-058.html


"一般にエチオピア民族には赤血球増多症、動脈低酸素血症がみられず、一方、チベット民族には低酸素血症のみが、アンデス民族には両者とも認められます。その結果から、エチオピア民族が最も高地順化に成功し、チベット民族が中間に位置し、アンデス民族は、実際にモンゲ病(慢性高山病)の発症が稀ではないように、順化途上といえるでしょう。"



高いところに行くと酸素が薄いので、体にいきわたる酸素が足りなくなりがちだ。そのため赤血球が一時的に増える現象が「赤血球増多症」。そして過剰に赤血球を増やしてしまうと、血がドロドロになりかえって効率が落ち、循環器系の異常を起こしやすくなる、という悪影響が出る。
赤血球が増えたかどうかは自分では分からないが、脈拍が早くなり、必死で血液を送り出そうとしていることは、高地に行くと自覚として分かる。これが起きないのがエチオピアとチベットの高地の人で、赤血球の生産を抑制しても高山病を発症せずにいらわれる、ということ。

これはおそらく、高いところに住んだ時間に起因する。人類発祥の地アフリカの一部であるエチオピアは、人類が住み始めてからの時間が最も長く、次にチベット高地、アンデスという順なので、高地に長く暮らしているほど適応度が高い。チベットに人が住み始めたのは2万3千前年くらい前とされているから、2万年くらいひとところで暮らしていれば、環境に適応して進化するんだろうと考えられていたのが今までのところ。


だが、最近になってこの説に、一つの可能性が浮上した。
「そもそも高地に最初に適応したのはデニソワ人で、ホモ・サピエンスは混血によって高地順応の能力を獲得したのではないか」というのだ。

デニソワ人のDNAの謎解明か 16万年前にチベット高地に適応
https://www.afpbb.com/articles/-/3223362

" 研究者らは2015年、高地に住むチベット人と漢人には、血液に酸素を行き渡らせるヘモグロビンの生成量を調整する遺伝子「EPAS1」に変異がみられることを発見した。

 チベット人から見つかった変異は、ヘモグロビンと赤血球の生成量を大幅に抑制し、標高4000メートルを超える高地に行ったときに多くの人が経験する低酸素症の問題を防いでいる。この変異は、標高700メートル未満のシベリアで発見されたデニソワ人のDNAで見つかったものとほぼ同じだった。"



【解説】驚きの発見、チベットにデニソワ人化石
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/050800262/

" デニソワ人が残した痕跡のひとつが、現代のチベット民族とネパールを中心に暮らす少数民族シェルパが持つ、高地環境への適応力と言われている。過去に唯一、デニソワ人の化石が発見されていたデニソワ洞窟は標高700メートルだったが、夏河は3280メートル。デニソワ人が、低酸素環境に適応するDNAを持つ現代チベット人と同じ高地まで到達していたことを示す初めての証拠だ。"


デニソワ人の持っていた高地に優位な遺伝情報が、今のチベット高地やヒマラヤに住む人に受け継がれていたというこ。
つまり彼らは、単純に「生まれた時から高地に住んでいるから平気」なのではなく、「はるか何万年という昔から受け継がれた高地に適応した遺伝的変異を持っているから平気」なのだ。


少なくとも確実に言えることは、低地生まれで遺伝的変異を持っていない日本人がチベット高地に行っても、現地人と同じように暮らせる日は来ないということ。たぶんこの変異がないと、いくら高地順応したとしても心臓や体に負担がかかるんだと思う。自分もチベット高地にいる間はパルスオキシメーターで血中酸素濃度とか計っていたのだが、ラサに着いた初日は 75%/脈拍120 とかヤバめの数値で、4日目になっても 89%/脈拍80 くらいにしかならなかった。(平地では 96~99%/脈拍70程度 が普通) 高地にいる間、体にかなり負担がかかっていたことになる。

たぶんこれ、解明されてないだけで現地の人ならではの変異とか特性とか他にも色々あるパターンでしょ。昔からそこに住んでた一族じゃないと早死にするって話もあったけど、ほんとにそうなんだろうなと…。


というわけなので、人間には様々な環境に適応して生存する生物学的なポテンシャルがあるが、適応するには何万年かかけないとムリな場合もある。 
逆に言えば、何万年かかければ標高4,000m以上の場所で自在に走り回れる能力さえ身につけられるので、まずはそこ、生き延びるところからだね。


(中国さん、チベットへの移民を推奨してるけど、有利な遺伝的変異を持たない低地生まれの人を送り込んでも死亡リスクが高いだけで定着しないような…。)
(死んでもいいから次々送り込む、って戦略だとするといかにも中国さんらしいよね。まぁなんだ、ゴニョゴニョ)