来年は子年なので。古代エジプト鳥獣戯画「ネコとネズミ」シリーズ

古代エジプトには、動物を擬人化した鳥獣戯画みたいなシリーズがある。
その中でも人気なのがネコとネズミの立場逆転シリーズで、これは古代エジプトにおいて「神の化身」としても崇め讃えられていたお猫様が、本来は猫に狩られる存在であるネズミにかしづいている、というものだ。どういうものかは見れば一発なのでとりあえず例を出してみる。

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https://www.brooklynmuseum.org/opencollection/objects/3952

こちらはブルックリン・ミュージアム所蔵、第19-20王朝に、王家の谷に付属する墓作り職人の町デイル・エル・メディーナで見つかったもの。
パピルスではなく、ライムストーンの破片に書かれた「ラクガキ」である。墓の壁画を描く職人さんがヒマな時(?)に描いたのがそのまま残っちゃったやつ。正装してすまし顔で椅子に腰を下ろす貴族ネズミを、召使役の猫が扇で仰いでいる。

こうした「ネズミが貴族」「ネコが召使」という立場逆転シリーズが庶民の文化として幾つか見つかっているところから、古代エジプトではこのテーマはある程度、人気だったのではないかと考えられる。ネコとネズミに対比させた、貴族と庶民の立場を逆にした風刺画だったという説もある。


こちらも同じく、椅子に腰かけたネズミと、召使いネコ。さらにはカバがビールを作っているなど動物の種類が多く、より鳥獣戯画っぽいテイストになったパピルス。墓の壁画のパロディになっている。
これもデイル・エル・メディーナからの出土品。墓作り職人さん、遊びすぎィ!

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https://research.britishmuseum.org/research/collection_online/collection_object_details.aspx?assetId=1058479001&objectId=114991&partId=1


古代エジプトは小麦が主食で、麦の栽培で暮らしていた。その麦を食い荒らすネズミは最悪の存在なので、それ自体が崇められることは決してなかった。対して猫は、そのネズミを狩る救世主である。多くのネコの墓やミイラが見つかっていることからも判るように、とても大切にされていた。そもそも野生の猫を飼い猫として飼育化に成功したのも古代エジプト人だったとも考えられている。

ネズミと猫の、絶対に覆ることのない重要性、価値観。それを逆転させる奇妙さが、絶対に覆ることのない庶民と支配者の体制の暗喩という説は、確かに在り得なくはないと思う。しかし他の動物たちも含めて描かれた擬人化の世界観を見ていると、もっとコミカルで楽し気な、明るい印象を受ける。というかむしろ何かぶっ壊れた感すらある…。

果たして、これらを描いた絵師さんは、何か政治的な意図を込めてマジメに描いたのか。
それとも、ただ墓の絵の締め切りに追われて煮詰まった脳で現実逃避として描いたのか。

真実は…歴史の闇の彼方に…。