学術書に見せかけたトンデモ本らしいトンデモ本「古代パレスティナの宗教」

手に取ってぱらっと見たとき「…うん?」と引っかかるところがあり、じっくり読んでみようかとじっくり読みはじめたらとんでもない代物だったぜ…。久しぶりに出会った、非常によく出来たトンデモ本である。一瞥して荒唐無稽なつくりでは意味がないのである。タイトル、表紙、体裁、文体などすべて学術書らしさをしっかり保っている。が、中身がヤバい。

古代パレスティナの宗教―ヤハウェとカナァンの神々
古代パレスティナの宗教―ヤハウェとカナァンの神々

この本が言わんとしていることを簡単にまとめると、

「聖書はメソポタミアやフェニキアやエジプトの伝承から影響を受けたのではなく、それより古い時代の伝承から直接派生している。文章として成立する以前の口伝の形は1万2千年前くらいまでさかのぼるはず。」

という感じだ。

なんか、二千年ちょっと前のアレキサンドリアでこういう感じの人に逢ったことあるな。エジプトやフェニキアの文化・宗教に劣るものではないとパクリでもない、むしろヘブライ人の伝えているものこそ最も古い形なのだ。みたいなオリジナリティ主張してた人たち…。


随所随所で何かとそれっぽく資料を羅列しているのだが、話をはじめる前提部分がおかしいかったり、途中いきなり論旨ぶっとばしたり、結論でいきなり断定しはじめるという状態なので、まず文章の意味が分かりづらい。分かりづらいせいでぱっと見は学術的に記載しているようなのだが、意味が分かってしまえばただの電波である…。

序盤の流れでお茶吹いたのは、たとえばこういう部分。

・旧約聖書の中の伝承は文章としては新しいものだが、それ以前に口伝があったはずである ←わかる

・詩の文体は一定のスピードで変化するものではなく、急激に変化する時代もある ←わかる

・エジプトとメソポタミアは紀元前3,200年ごろには既に交易していた ←うーん直接の交易関係ではないんだけど…

・エジプトへはバビロンから物資が流れていったはずだ ←なぜバビロン?

・王名表の中にのちの伝承で失われた士族になってる名前に似ているものが入ってるからヘブライ人がバビロン第一王朝を築いたのは間違いない ←??

・アブラハムはカルデアのウル出身である ←あのさぁ…。

<<このへんでツッコむのが面倒くさくなった>>


言ってる内容の2つめあたりまではまぁわかる。そこで詩の内容の検証や言語の変遷について検証するのではなく、なぜか話をエジプトにぶっとばした上に歴史的事実と神話の内容をイイかんじにごっちゃにしている。「記録されたこと」と「実際にあったこと」の区別がつけられていないのでは、史料をいくらあさっても混乱するだけだ。あとエジプトとかアナトリアとか周辺地域の資料を自分の説にあうように、いいように変形させすぎ。

秘儀司祭タアウトはエジプトの知恵の神トトと同じものである、とか言われてもさぁ…。
実在しない神話上の存在を、名前の音が似てるだけで比較するって…。

ヒクソスはエジプト全土を支配した、とかどの資料にそんなアホなこと書いてありますかね…。
上エジプトだけなんですけど…。

1ページあたり10か所くらいずつツッコみどころがあり、同時に10か所くらい注釈がつけられており、巻末は膨大な索引となっている。体裁は確かに学術書なのであるが、内容を理解するとあたまおかしい。実にトンデモ本らしいトンデモ本に仕上がっていた。しかし第一章でバレてしまったのがまだまだ。何かおかしいなと思わせながら最後の章まで読ませられるよう擬態できれば、さらに上のトンデモを目指せるはず…!