サンゴ礁の島に隠された数千年の歴史。「南太平洋のサンゴ島を掘る」

オセアニア考古学の本である。
発掘地はファイスという島で、ミクロネシアの範囲内にある。一番近い友人の島ウルシーまで80km、定期的に交易していたヤップ島まで180km。
サンゴ島だが環礁(リーフ)の中のサンゴは死んでおり、リーフ内は干潮の時には干上がってしまう。海抜は18mしかないが、これでもサンゴ島の中では標高があるほうなのだという。その18mしかない中に、島に人が住み始めてから二千年近くに及ぶ歴史が埋もれている。土なんて無さそうなサンゴで出来た島でも陸地と同じ発掘は出来る。そして、そこに隠された知られざる歴史には多くの謎が眠っている。

南太平洋のサンゴ島を掘る: 女性考古学者の謎解き (フィールドワーク選書 4)
南太平洋のサンゴ島を掘る: 女性考古学者の謎解き (フィールドワーク選書 4)

完全な考古学の本というよりフィールドワークの本でもあるので、2/3くらいは島でのホームステイの話題だ。どのようにして発掘地を選んだのか、どのように許可を取り、現地に住む人々とどのように折り合いをつけていったのか。島での毎日の暮らしや、その中でどのように発掘作業を進めていったのかもわかる。

考古学といっても、発掘だけしてりゃいいという話ではない。ファイス島は小さな島で基本的に自給自足なので、発掘のために人が大勢おしかけると、食料や水が足りなくなる。特に水は死活問題で、言うなれば「水があるだけ」しか人が住めない。水は雨で賄う。現在はトタン屋根とドラム缶の組み合わせで雨水を溜められる。しかし昔はそんなものはなく、ココヤシのジュースをすするなどして渇きを凌いでいたらしい。また、雨水が地下に染み込んでたまった水をくみ上げて利用することもあったらしい。離島での暮らしは、水が確保できるかどうかが生存の大きな分かれ目となる。現地でまとまった期間を暮らしてみないと見えてこない部分だ。

また島での暮らしは、使える資源に限りがある。サンゴ島は土が無いから、土器はヤップ島まで行って交易してくる。かわりに現在、島で生産されているのはタバコ。もちろん近代になって伝来したものだ。他には織物などが昔から取引に使われているらしい。釣り針はウミガメの甲羅を削って使う。独特の資源の利用方法だ。

それとブタやイヌ、ニワトリの骨の分析についての話も出ていた。ファイス島では初期から犬とブタが飼育されていたという。これはオセアニアの全ての島に共通する特徴ではない。最初からブタを連れて移住していたとすると、彼らは一体どこからやって来たのか。ちなみにニワトリは、イースター島、ハワイ、チリでしか見つかっていないDNA型だとか。このあたりは、まだデータが少ないため「謎解き」の解けない謎の部分になっている。

オセアニアの島々は、島によって条件が違う。
同じような文化レベルの人々で条件が違う大小さまざまな島のそれぞれが独自の進化をしていくため、文化に差異が生まれるのだ。たとえば、最初はブタを連れていたけれど、とてもブタにやる余剰の植物を育てられそうにない島に移住したとすると、ブタを飼う文化はそこで途切れてしまう。以降、その島から移住する人々はブタを持たない。

言語や、移住時に連れていた家畜の違いからして、オセアニアへの人類の拡散は一方向ではなく、一度きりでもないのかもしれない。いったん移住に失敗して無人になった島に何度も移住の波が押し寄せた島もあるかもしれない。あるいは、先に住んでいた人々に、あとから来た人々が混じることもあったかもしれない。広大な海に点在する島々の歴史をひもとく研究は、まだ始まったばかりだ。

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あと、フィールドワークのパートで興味深かったのは、かつて日本軍に占領されていたことのあるファイスでは、米を食べる習慣があり、年配者は日本語が喋れる、ということだ。米は島では栽培できないので現金収入のある人が輸入する。米をたいたものにツナ缶をのっけて醤油かけるのがご馳走だとか。また、かつてココヤシのジュースを飲んでいたところが、今では砂糖たっぷりのお茶を飲むほうが好まれるとか。米とお醤油って地元の昔からの食べものより美味しいんだ…。みたいな意外な気分になった。

これは日本が占領した場所に限らない。フランスが占領していた島ではクロワッサンを焼いて食べる習慣が根付いているというから、占領時代に覚えた習慣は案外、長生きするものらしい。

このように、絶海の島といっても全く文明を知らないわけでもなく、今や現代のグローバル経済の末端に繋がっているものらしい。
島外に出て出稼ぎをする者からの仕送りで、島の外のぜいたく品を買う。すこしずつ、彼らの暮らしは変わりつつある。きっといつかは、浜辺で寝そべりながらスマホゲームいじったりするようにもなるのだろう。…かつて見た、アマゾンの先住民がそうなっていたように。