韓国へのビール輸出が大幅減、どのくらいの影響度なのか推定してみた

数年前、ロンドンのヒースロー空港に行ったとき、免税品店のウィスキーコーナーで日本の「知多」がばばんと上段に積み上げられているのを見て衝撃を受けた。日本のウィスキーがブームらしいとは聞いていたものの、まさか地元のウィスキーより目立つ場所に大量に置かれてるとは思わなかったからだ。

lon.jpg

同じように、EU各国のスーパーでは日本ブランドの酒を見かけることがあったし、日本料理屋でもない店の看板に「コウベ(ステーキ)、アサヒ(ビール)」などとローマ字で書かれていて、それらブランド名が定着していることを感じたこともある。

そんな中での、最近のこうした報道。

韓国へのビール輸出が大幅減
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190927/k10012102291000.html

"先月の日本から韓国への輸出額は4226億円で、去年の同じ月に比べて9.4%減少しました。このうち食品や飲料の輸出額は40.6%減少し、中でも「ビール」の落ち込みが目立っています。

韓国は、これまでビールの最大の輸出先でしたが、先月の韓国向け輸出額は前の月に比べて92.1%減り、6億3943万円から5009万円に減少しました。"



おとなり韓国で不買運動をやっているからで、この数字だけ見るといかにも影響は大きそうに見える。
だが、EUでは日本の酒が沢山売れている。果たして、韓国の需要は全体から見てどのくらいなのか。
ちょっと気になったので調べてみた。

結論を先に書いておくと…

 ・酒の輸出全体に占める韓国の割合は第二位だが、距離が近いので日本で生産して送っているせいもある
 ・現地生産している分は輸出額に載ってこない
 ・日本の酒の輸出量自体は伸びており、たぶん来年も伸びる

まずはこちらの資料を見てもらいたい。

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/sake_yushutsu/01.pdf

冒頭のグラフにある「平成 29 年の酒類の輸出金額は、約 545 億円(対前年比 126.8%)となり、6年連続で過去最高額を記録しました。」
そのうち対韓国は19.7%で108億。
韓国以外の残りの国への輸出が平成29年と同じように前年度比126.8%になるとすると、555.384億となる。
ちなみに、対韓国の輸出が不買運動により今年の8月~12月は9割減になると計算すると、今年の対韓国の輸出は67.5億となり、これを足し合わせると622.884億。

韓国分が減っても輸出額は伸びるという計算になる。

ちなみに韓国以外の部分が1.1倍までしか伸びなかったと計算しても、548.2億。来年以降がどうなるか不明だが、ここ何年かのグラフを見る限り、来年いきなり酒の取引量が減るとは思えない。よって、韓国以外への輸出規模がいきなり縮小されない限り、計算上、影響は限定的という結論になる。

sake1.PNG


それと、韓国への輸出で減っている「ビール」「清酒」は黄色いラインを入れた部分なのだが、何か気づくことはないだろうか。…市場規模として大きいはずの中国への輸出量がやけに少ない。

sake2.PNG

そう、実は、現地生産している分は輸出統計に載ってこないんである。
現地で生産して現地で売ってるから。

アサヒビールの海外事業所を見てみると、中国には「生産、販売」をしている拠点があるが、韓国と台湾は「輸入、販売」となっている。現地で作って売るか、日本で作って売るかの違いだ。ちなみにヨーロッパにも製造拠点はある。お酒はほぼ水なので、積み荷の体積に対する利益率が低い。製造条件的に海外拠点を持つことの難しい清酒ならともかく、ビールを作るなら、消費地に近い場所に拠点を置いたほうが有利だ。

https://www.asahigroup-holdings.com/company/business/overseas.html

で、アサヒビールの去年の決算資料も見てみると、売り上げ収益トップが圧倒的に欧州事業なんだよね。伸びそうなのは中国市場か。結論は今年の決算の内容で出るだろうが、影響はあるけど致命的ではない、というレベルに縮まりそうだ。

https://www.asahigroup-holdings.com/ir/event/pdf/kessan/2018_4q_presentation02.pdf



というわけで、自分でデータを確認した範囲でも、不買運動の影響は限定的になる、という、どこぞの偉い人の言ってたのと同じ結論にたどり着いた。ていうか、日本からの酒の輸出がこんなに膨らんでたのは調べてみるまで気づかなかった。
韓国さんの不買運動や旅行自粛は、たぶん、ごく一部にしか影響を出していない、ほんとに自己満足的な範囲の話にしかなってないと思う…。

また、この酒の話と同じように「韓国からの旅行客が激減していて観光地に打撃」という話を調べてみると、他の国からの観光客がそれ以上に増えているため、全体としては増加傾向にあることが分かる。来年のオリンピックを控え、この傾向はまだしばらく続くだろう。

たぶん今回の話の根本って、国交の話とか偉い人同士の不仲とか以前に、日本の市場が変化しつつあるからだと思う。グローバル経済の世に従い、多くの国や地域と取引するようになると、想定的に近場の国の占めるウェイトは下がっていく。マーケティングの面においても、日本にとって韓国の重要度が下がりつつあるのを統計データから感じた…。