ファンタジー作品で使われる「古代エジプト」はほとんど新王国時代だよという話

「中世ヨーロッパ」は幅が1,000年ほどある区分の仕方である。時代/場所による差が大きすぎて、中世ヨーロッパって言うといつの時代のどのへんだよ?!みたいな感じになってしまう。だが、その三倍の幅、3,000年ほどある「古代エジプト」という区分は、時代による差が大きすぎて逆に、キーアイテムがある程度出て来た時点で時代が特定されてしまう。

たとえば王の墓が大規模なピラミッドだったら、ピラミッドを作っていたのは古王国時代~中王国のはじめまでなので、その500年くらいの間に限定される。さらにピラミッドが石造りだったらピラミッドを作っていた時代の中でも前の方、第四王朝あたりと特定できる。

王家の谷が出てくるなら、王家の谷が使われ始めるのが新王国時代なのでそのへん。
王家の谷でなくて、その近くのテーベ西岸に墓を作っているなら前後の時代も含めて中王国時代~末期王朝あたりか。

馬が出てくるなら、馬が飼育化されるのが紀元前2,000年~なので、それ以降。
ラクダが出てくるなら、ラクダが飼育化されるのが紀元前1,000年~なので、それ以降。

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各要素の登場した時代を見てみると、黄金キラキラの家財道具、ゴージャスな王宮、宰相など官僚制度がバッチリ出来上がっており、首都がテーベ付近、王家の谷がある、王女様や女王がキラキラしたアクセサリーをつけている、など、多くの人がイメージする「古代エジプト」は、だいたい新王国時代の半ば、第18王朝~第19王朝あたりになる。これは、ツタンカーメンやハトシェプストの人気で、そのへんの時代に絞った本がたくさん出ているためだと思う。あとはクレオパトラのいた古代エジプト終焉に近い時代だ。
なので、想像されている範囲はピンポイントだし、そうそう間違ってもいない。

では逆に、この「よくある古代エジプト」の時代を外すとどうなるのか。

面白いところだと、中王国時代より前には、古代エジプトといえば真っ先に想像されるだろう人型の棺がまだない。
しかもミイラの作り方がまだ発達しておらず、かなり不格好なミイラになっている。

[>参考
もしもクフ王のミイラが無事だったら: そのミイラは、ほぼ確実に我々の知る姿ではない
https://55096962.at.webry.info/201610/article_11.html

こんな感じ。

また、色付きガラスの技術がエジプトに入るのはトトメス3世の時代からなので、それ以前にはガラス製品がない。
アクセサリーに使える石は希少な宝石だけ。
シースルーのような薄い布を織る技術(あるいは衣類のトレンド)もだいたい新王国時代くらいから。それ以前の衣類だとちょっと野暮ったくて、エジプトというより近東に近い感じの衣類だ。そして王族と平民の間にほぼ差がない。 キラキラ着飾ったお姫様とかが出てくると、もうその時点で時代が特定されてしまうのだ。

それから、ピラミッドを作っていた時代の官僚は原則として王族が就く役職だった。えらい人はみんな王族。一族による支配という体制だ。
役職が増えて支配制度が複雑化していくと一族以外の支配階級も増えていく。それにより神官が権力を持ち始めたり、貴族や豪族が登場して実権を握るようになったりするわけだ。



ヒエログリフや大規模建築、神話体系などエジプト独自の要素が出そろうのは古王国時代と言われているが、こうして見てみると、イメージしやすく、見栄えもするのは、新王国時代以降だなというのが改めて実感できた。で、末期王朝までいってしまうと、ギリシャやペルシアなど異文化からの影響も大きくなっていくので、古代エジプト独自、という意味では新王国時代がいちばん分かりやすい。

ある意味「最も"古代エジプト"っぽい時代」が新王国時代なのかもしれない。