「ただ一度きり」の出来事が歴史を作る可能性について

「ただ一度きりの出来事」と聞いて、2011年の東日本大震災のような出来事を思い浮かべる人は多いと思う。
確かに千年周期という長い時間は、およそ人間の記憶と記録の保持できる許容範囲を越えている。従って、出くわした人間は「今までに一度もない、初めての出来事だ」と認識するだろう。しかし大地震も大津波も、それ単体で言うならば、地球の歴史において過去何度も繰り返されてきた、ありふれた出来事にすぎない。

「21世紀の日本」で、「千年周期の地震が起き」、「1万6千人近い死者を出し」たのが、「ただ1度きり」なのだ。
ここまで条件が揃うことは、もう二度と無い。

だからここでいう「ただ一度きり」というのは、滅多にない災害や特殊な気象条件が、「ある特定の時代に」「ある特定の場所で」起きることを指している。



例えば、モーセがエジプトを脱出するときに海が割れた、という、よく知られた聖書の物語。 神話がそのまま史実ではないだろうが、元ネタになった出来事は史実の可能性がある。ある特定の条件を満たせば、実際に「海が割れた」ように見えなくもないからだ。
東地中海では100年に一度くらい地震が発生している。エジプト北岸も定期的に津波の被害に遭っている。海に面したアレクサンドリアの街では、かつてクレオパトラが暮らしていた宮殿跡が現在は海底に沈んでいるが、これも津波被害が原因の一つだと考えられている。
津波が来る前には海の水が引く。
もしモーセたちがエジプトを出ようとしていた時、たまたま津波が発生しようとしていたとしたら、「海が割れ」て「また戻る」という、神の業にも等しい奇跡を実際に目の当たりにすることになる。

…というところから、「モーセがエジプトから脱出するときに辿ったのはエジプト北部の海岸で、海が割れたのは津波の話じゃない?」という説が既に昔から言われていたりするのだが、残念ながら証明することは出来ないし、それじゃ「海を渡った」ことにはならないんじゃないかと言う人もいる。
しかし、説としては面白いし、事実、可能性としてありそうな話ではあるのだ。残っている伝承は、そのままの出来事が起きたのではなく、何がしかを元ネタにして話を膨らませた結果なのだと考えたほうが無難である。

このケースの場合、「エジプトの北岸で津波が起きる」まではよくある出来事だが、「エジプトから脱出したい人が近くにいる」時に「その人たちに有利なタイミングで潮が引く」ことは滅多にあるまい。また、もし引いた潮が戻ってくる津波のタイミングで追っ手がうまくそこに巻き込まれたりしたのなら、それはもう奇跡のようなもので、「ただ一度きりの出来事」、津波という現象を見慣れない古代の人からしたら「神の奇跡」そのものに映るだろう。


他に想像しやすい現象としては、日食や月食など。それ単体ではありふれた天文現象だし、現代ではいつ起きるか正確に推測も出来るショーのようなものだが、あるタイミングでそれが起きたために戦争の引き金となったり、民族大移動の原因となったり、のちに歴史をつくる指導者の即位を促したりするかもしれない。
真夏の雹、異常な積雪、連続した旱魃などもまた然り。

そして、さらに言うならば、「ただ一度きり」のタイミングが、もしかしたら人類を含む生物の拡散にも関係するかもしれない。
たとえば台風を想像してほしい。台風によって山が崩れ、山から木が大量に流れ出したとする。その木に住んでいた爬虫類や昆虫が、木と一緒に固まって沖合に流され、島に流れ着く。島にその木から落ちた種が根付き、爬虫類や虫も繁殖しはじめる。

普段は東にしか流れていない海流が、エルニーニョのような異常気象によって反転し、西へ向かうようになる。
そうすると、漂流者はいつもの場所に流れ着かず、逆方向へと向かってしまう。

満月と大潮が重なったタイミングで川の上流へと押し流された貝が、そのまま内陸の湖へとたどり着き、海へ戻れないままそこで独自の生態系を築く。

こうした「偶然」が、種の拡散に関わっているとすれば、その偶然は証明が難しいため何故なのか分からないまま終わることのほうが多いと思う。
しかし、おそらく今までの地球の歴史の中で、「一度きり」は何度も起きていて、その偶然が今の世界を作っていると思うのだ。アフリカから現代人の祖先が旅に出た「出アフリカ」も一度きりの出来事で、しかも人数もそう多くはなかっただろうというのが現在の研究だ。だとすると、一度きり、その時だけの何かの条件が重なった結果が、今の我々に繋がっているかもしれない。

「ただ一度きり」の出来事が神話や歴史を作る可能性については、過大評価しすぎるのもいけないけれど、無かったことにしてしまうのもよくないと思うのだ。起きうるものとして、可能性の計算をするくらいはしてもいいと思う。


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おまけ

ついにデスバレーの「動く石」の謎が解明。GPSを仕込んだ石を観察し続けた男たち
https://55096962.at.webry.info/201408/article_31.html

少し違うけれど、これも、ある特定の気象条件が重なった年にしか起きない現象だった、というオチ。
何年も観察しつづけて、たまたまその現象が起きた年に記録することが出来たから解明された。もしこの気象現象が10年に一度しか起きなくて、観察している期間中に起きていなかったら、今も謎のままだったはず…。