考古学の再現実験のやり方をチャート化しておいた。

考古学の「再現実験」と称するものには、それなりに妥当性のあるものから、参考にはなるけど再現とまでは言えないもの、そもそも論外のものなど様々なレベルのものがある。有名な学者のやってるものが妥当な内容なわけではなく、テレビや雑誌で宣伝されるからといってやり方が正しいわけでもない。ここでは、実験の妥当性がどこで見分けられるのか、という手がかりを案内する。

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まず「ある結果」は、「環境」+「条件」によって発生する。
再現したいのは通常「結果」であるから、結果をもたらす「環境」と「条件」が分かっていれば、結果を再現することは出来るはずだ。

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たとえば、実際に行われた「グリーンランド北部に定住したヴァイキングの航路を再現する」という航海実験をこれに当て嵌めてみよう。

 濃いオレンジ色=条件が全く違う
 薄いオレンジ色=やや条件が違う

で記載した。


ヴァイキングシップでグリーンランド北部を目指せ! チャレンジ航海、間もなくゴール
https://55096962.at.webry.info/201608/article_6.html

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この実験では、1,000年前の気候と全く同じ条件は再現出来ない。しかし大幅に気候が違うわけではないので、ある程度近い環境は用意できている。ヴァイキングの航海が夏に行われた記録もあるため、同じ夏で挑戦。使用するのは現存する同時代の船のレプレカだが、実際にグリーンランドで使われたものが同じ型かどうかは分からない、と注釈がついている。また、船員の知識は現代のもので、非常用の携帯電話や寝袋、ストーブなど現代の道具も持ち込まれているのでここも当時とは条件が違う。

見ての通り、完全に同じにすることは不可能でも、合わせられる条件は合わせて実験を行っている。条件が近い部分については、再現度も高いと見做してよい。ただしこの場合でも、条件が異なる部分はあるので、「完全な再現」とは言えない。あくまで参考的な再現である。

この実験については、前提となる環境と条件の考察が十分に出来ていると思われるので、手法として妥当だと思う。



次に同じようにして、こちらの「三万年前の沖縄への航海を再現する」を検討してみる。

【まとめ用】これは実験考古学でも真っ当な学問でも無いです…。「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
https://55096962.at.webry.info/201704/article_14.html

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まず「環境」は全て再現不可。季節は不明、地形は現在とかなり違っていた、ということしか分からない。
「条件」についても、船はあったのか、あったとしたらどういう形状なのか、材質は何か、など全く不明。道具も、航路も…。そして船員はもちろん現代人なので持っている知識も異なる。

状況を再現するために必要な環境がそろわず、条件も一つも判明していないのでは、出て来た結果が妥当かどうかの検証は出来ない。「再現」という意味では再現率は0%となる。



この極端な二例からも判るように、「再現」を名乗っていても、実際の再現率は異なる。
何かの「再現実験」をしている場合、再現したい事象に対してどの程度まで条件を似せているのかが重要となってくる。

環境や条件を似せていればある程度似た結果になるだろうし、環境も条件も全く異なるなら、出てくる結果も違う、という当たり前の話。結果だけ見ずに、まず前提条件をどのくらい揃えているかを確認して欲しい。


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さて、今度は逆に、「結果」が確定している場合に、その結果を出すための「環境」や「条件」の一部を確認するために行われる再現実験について検討してみよう。

例として、ダマスカス剣の再現実験を挙げる。
この例の場合は、実際の「剣」という物的な「結果」が確定しており、現物の成分分析や断面のスキャンなどで詳細に確認することが出来る状態で、その結果を生む条件の一部が分からなかった。そのため、「結果」+一部分かっていた「条件」で再現実験を行って、欠けていた「条件」を探り出している。

かつて「失われた技術」と言われたダマスカス鋼の秘密と、その顛末
https://55096962.at.webry.info/201907/article_26.html

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結果からいえば、ダマスカス剣を再現するのに重要なのは「作り方」ではなく「素材選び」のほうであった、という話なのだが、「条件」の中で再現のために必要最低限なものを絞り込めたのも、何度も条件を変えて結果を確認したからだ。
再現実験で作られた「結果」と、再現しようとした「結果」を比較して、成分や断面の構造、見た目などが同じであれば、再現に成功した可能性が高い、と判断することが出来る。


では、「結果」があくまで仮定であり、前提となる条件も分からないか、異なる場合はどうなるだろう。
さきほども例に挙げた「三万年前の沖縄への航海を再現する」で考えてみよう。

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見ての通り、再現しているというよりは何か全然別のことをやっているようにしか見えない状態になる。
この実験と称するものは「三万年前の人間は海を渡って沖縄に行けたはずだ」という結果を仮定するところから始まっているが、「結果」を証明することが出来ないため、実験を行った結果と比較することは出来ない。

ダマスカス剣の例で分かるように、「結果」から「条件」を逆算するためには、結果が物質など比較可能なものか、詳細が判明しており、「条件」がある程度まで判明している必要がある。しかし、このケースでは「結果」が妥当かどうかわからず、「条件」は全て不明の状態となっている。

結論として、「条件」を探るための再現実験を行えるケースではない。


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これは考え方のフレームワークの一つだが、考古学の再現実験と称するものについては多くのケースで使えるものだと思う。
何かを「再現した」と称する実験や研究があった場合は、まずこの枠でイメージして、それが本当に再現と呼べるレベルのものなのか、再現率はどのくらいなのかを検討してみてほしい。

たとえば、古代エジプトのミイラづくりを再現しました! という研究があったとして、使っている道具が現代の医療器具だったら、道具という「条件」か違うことになる。また、現代技術で精製されたナトロンや油が使われていれば、それも「条件」の違いになる。色々数え上げていくと、「作り方の手順は確かに同じだけど、ほかの条件がだいぶ違うから、それほど再現率は高くないな…」ということが分かってくるだろう。古代と同じ道具を再現して、古代に似た品質の素材を使ってエジプトの気候で再現しはじめたらだいぶガチな再現だと思うけど、さすがにそこまでやる人には近づきたくなy(


世の中には、不確かなものが沢山あふれている。
テレビで流れる内容が正しいとは限らず、肩書のついてる偉い人や、専門家の言うことが必ずしも正しいとは限らず、とはいえネットでググった内容が正しい確率も高くはなく…と、判断に困ることは多いと思う。

そんな時、理屈に当て嵌めて判断できるロジック(方程式のようなもの)があれば大抵の地雷は避けられるよ。
まぁ杓子定規な方程式に頼りすぎるのもダメな時はあるんだけども。