クリスティーズのオークションにツタンカーメン像の頭部出品、エジプトさんが物言い

オークションにツタンカーメンの頭部が出る、ということでエジプトさんが物言いをつけているというニュースが流れていた。

エジプト、「ツタンカーメン胸像」の競売中止を要請 盗品と主張
https://www.cnn.co.jp/fringe/35138365.html

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このニュースだけ見ると、「こんなもん売っちゃだめでしょ」と思うかもしれないが、そうでもない。

 古代エジプトの像がオークションに出品されるのは珍しいことではない。

 ファラオの像や副葬品が出品されることもわりとよくある。


ニュースにならないから知られてないだけです、本物の遺物の売買は日常茶飯事。
たまに「これ博物館の目玉に出来る一級品じゃね?」と思うようなものまで売られている。

たとえばサザビーズだとこんなかんじ

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アメンホテプ3世の頭部も売られている。
これなんてスルーですよ、世の中に全く騒がれてませんからね。

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ちなみに世界各地に「なぜか」存在するツタンカーメン由来の遺物も、今のところノーマーク。(日本にもある)

なので今回に限ってエジプトさんが騒ぐのは、「ツタンカーメン」というネームバリューと「5億円を超えるのでは」という他のオークションに比べて高い売り値予想のせいというのがあるんだと思う。

もちろん、全ての遺物に対して物言いをつける手間暇が大きいので出来ないというのもあるけれど、違法ではない遺物の取引も在り得るということは一つ覚えておいてほしい。また、オークションに参加するのは必ずしも個人コレクターだけではなく、博物館や美術館もこういったところで競り落としたものを所蔵していることがある。

だから問題となるのは、「ツタンカーメンの頭部だから」でも「本物の遺物だから」でもなく、その遺物が「いつ」「どのような経緯で」持ち出されたのか、ということと、それが合法か違法かということ。
端的に言うと、遺物の持ち出しに関する制度が出来る前にエジプトから持ちだされたものか、それ以降にこっそり持ち出されたものか、という部分が重要になってくる。だからこそオークションページには、その品の元の持ち主や来歴が詳しく記載されている。



というわけで、クリスティーズの今回の遺物のページを確認してみた。

https://www.christies.com/lotfinder/Ancient-Art-Antiquities/an-egyptian-brown-quartzite-head-of-the-6217589-details.aspx?lid=1&from=relatedlot&intobjectid=6217589

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来歴はこうなっている。

"Understood to have been in the collection of Prinz Wilhelm von Thurn und Taxis (1919-2004) by the 1960s.
with Josef Messina, Galerie Kokorian & Co, Vienna, acquired from the above in 1973 or 1974.
with Arnulf Rohsmann, Klagenfurt, acquired from the above in 1982 or 1983.
with Heinz Herzer, Munich, acquired from the above in June 1985.
The Resandro collection, Germany, acquired from the above in July 1985."


1960年に個人のコレクションに入り、そこから持ち主を転々としたことになっている。
この1960年というのがわりとミソ。なぜなら、ユネスコの「文化財の不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の禁止及び防止に関する条約」の採択が1970年、発効が1972年だから。エジプトさんがユネスコにオークション差し止めを依頼しているのは、このへんも絡むはずだ。

実際は1970年以降に持ち出されたものだと証明できれば、確かにこの遺物の所有や売買は不法なので対処しなければならない。しかしそれ以前であれば、法的な根拠は無くなる。ちなみにエジプトさんが返還を求めているロゼッタ・ストーンやネフェルティティの胸像もそれ以前に持ち出されているので、ユネスコのこの協定に基づいた返還要求は出来ないので、イギリスもドイツも「べつに不法に持ち出したわけじゃないもん」と開き直れるわけである。


…つまりこの件は、像を売ろうとしているクリスティーズが不法というわけではなく、現時点ではエジプトさんの主張が正しいとは言い切れない。


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ちなみにエジプトさんがクリスティーズのオークションに物言いをつけたのは、今回が初めてではない。
以前こんな事件もあった。

Lord Northampton had 'interest' in Sekhemka statue purchase
https://www.bbc.co.uk/news/amp/uk-england-northamptonshire-46747177

これはイギリスのノーサンプトン博物館が、改装費用の捻出のために所蔵していたエジプトの書記座像をオークションで売り飛ばしてしまったという話。この件はしばらく追っていたので以下に記事を書いてある。

さらば、セケムカーの書記座像。イギリスで競売にかけられた一級品のエジプト・コレクション輸出される
https://55096962.at.webry.info/201605/article_15.html

この件では、エジプトは猛抗議をしたけれど結局差し止めはならず像は落札した個人コレクターの手に渡ってしまっている。なので抗議した = オークションの差し止めが出来る、というわけではない。



また、売買される遺物の来歴が誤魔化されていることは決して少なくはなく、審査にひっかからずに購入されたけれどのちに盗掘品と発覚して返還された品も存在する。近年ではメトロポリタン美術館という超大手までが引っかかっていた。

メトロポリタン美術館、詐欺に遭う。
https://55096962.at.webry.info/201902/article_23.html


なので現時点では、エジプトの抗議が的外れである可能性も、オークションハウスが来歴を誤っている可能性も、どっちもあり得る。

以上、ご参考までに。