アジス・アベバの国立博物館/考古学遺物に足りない説明を加えてみた

エチオピア首都アジス・アベバの国立博物館は、「国立…?」と疑問符がつけられるくらいの規模と設備で、冗談抜きに1時間もあれば見終わるくらいの規模しかない。しかも隣に廃墟ビル建ってるし。公認ガイドは地下階と1Fの皇帝コレクションだけ説明して出ようとするし。

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とはいえ、地下1F、地上3Fもある充実した博物館と見せかけて、2Fはよく分からない前衛的な芸術、3Fは民俗学っぽいコーナー。そのへんは、あまり時間を割く意義が感じられなかった…。
いちばん重要なの考古学資料の1Fじゃないのかなここ。実は。

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ガイドブックなどでは、人類の遠い祖先(と言っても直接系譜が繋がっているわけではない)、アウストラロピテクス・アファレンシスなど旧人の展示を見どころとして紹介していることが多いのだが、そこの部分はぶっちゃけ、説明ちゃんと書いてあるからいいんだよ。それ以外の考古学展示の説明があまりにも不足し過ぎてて何がなんだかわからんのだよ!!


というわけで解説を付け足して自分用の目録作っておくことにしたよ!!
エチオピア~エリトリアの主要遺跡Mapは以下!

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https://link.springer.com/article/10.1007/s10437-009-9063-3



●アンフォラ壺

4-7世紀 アクスム王国。ティグレ地方出土
いわずと知れた、東地中海の交易でワインやオリーブオイルを入れて船便で運んでいた壺。東地中海世界と繋がっていたという証拠品。アンフォラ壺はアクスム石柱メインフィールドの後ろにある博物館でも見られるが、そちらは撮影禁止だったため写真がない。

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●アクスム~紅海の交易路上にある遺跡 マタラの出土品

アクスム王朝時代のマタラ
アクスムから75kmほど離れたところにあり、6世紀にカレブ王によって破壊されたという伝説がある町らしい
エリトリアとエチオピアのほぼ境界線上。エリトリアは遺物の「返還」を求めているというが今のところエチオピアは応じていないとか

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3-8世紀
これもアクスム王朝時代のものと書かれている

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マタラについてはwikipediaにもすこし情報がある
https://en.wikipedia.org/wiki/Matara,_Eritrea

このへんは紀元前5世紀くらいまでDʿmt王国という小国が存在したらしく、あまり調査はされていないようだが、サバ語や南アラビア語が入ってきていたようで、アラビア半島からの影響を濃く受けていたようだ。土着民が成立させた王国なのか、アラビア半島からの移住者が作ったのかは不明。また、のちにアクスム王国に併合されるまでの間どうだったのかや、アクスム王国との関連についてもはっきりしていないようだ。

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●Hawulti(マタラの一部)の南の物置からの遺物

Hawltiが何か判らずに探していたら論文が引っかかってきて正体が分かった。これも書き方を変えただけでマタラの遺跡。エリトリアとエチオピアの国境だ。ティグレって書いてあるけどエチオピアのティグレ地方のことじゃなくて、エリトリア側にで含めた「歴史上の」ティグレなんだね…。
アクスム王国以前の遺跡だが、アクスムとよく似た石柱群が作られている。ていうか、こっちの石柱の上部に月のシンボルマークがあるから、アクスムの石柱も「月の神を祀ったものかも」と言われているわけだね? アクスムの石柱には月のシンボルなんて一切刻まれてないのに良く分かったなと思ってたら。

…エチオピアのガイドさん、エリトリアの遺跡の話は一言も言わなかったな。
このへんは自力で調べないと分からないのか…。

https://en.wikipedia.org/wiki/Hawulti_(monument)

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遺物の中にエジプト南部~ヌビアで見かけるブラックトップ(縁の黒い壺)に似たものがあるのが面白い。

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これも同じ遺跡から出たものらしい。
粘土像で人間や動物などの形が作られている焼き物。あまり洗練された感じはなく、素朴な習作という雰囲気。
手前の小さな護符らしきものは「エジプシャンブルー」と書かれているけどファイアンスに見える…ファイアンスじゃない? 小さすぎてよくわからんけど、エジプトのベス神のようなのと、ハルポクラテスっぽいのがある。ただ、奥の女性像はイラン高原の豊穣像に似たおっぱいの作り方をしていて不思議。

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●イェハ付近(?) 紀元前の墓(?)からの発掘品

紀元前2世紀半ば~1世紀、ティグレ地方の、たぶんイェハ近辺のどこかの墓の副葬品。
墓の番号6とだけあり詳細不明。品を見るとそれなりの品のようなので、墓の持ち主は貴族か王かも。ブラックトップの壺や、エジプト風味のちいさい壺もありつつ、おっぱいみたいな突起のついた謎の壺もある。あと鎌。

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●Sobeaの出土品 1世紀ごろ

エリトリアとのギリギリ国境近くにある遺跡。1世紀くらいのものらしい。
パレスチナっぽい雰囲気の壺もありつつ、エジプトの墓に入ってそうなのもあり見た目にバラエティがある。このへんも何も説明とかはない。

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●イェハの出土品 紀元前2世紀半ば~1世紀

イェハはアクスムのすぐ東のあたりにある町。
アフリカの国らしく象牙製品がある一方、さりげなくスカラベが入っている。スカラベ…。エジプトと繋がってる遺物ですかね。

青銅のうねうねしたものは文字を組み合わせたシンボルマークのようなものらしい。
焼き印か何かに使ったのかも。

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●イェハで見つかった南アラビア文字の碑文

紀元前5-4世紀のもの。まだゲエズ文字が作られていない時代なので南アラビア文字使用。
説明文の碑文の内容の部分、フォントが欠けまくってて読めないのだが、だれかの息子の何々さんが神に祈ってる? とかそういう感じの文章っぽい

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●KuhiとMedoguweの遺物

展示ではMedogueとなっているけど、ググると報告資料っぽいものが出て来て写真が一致したのであってると思う。
この遺物は、紀元前2世紀~紀元後2世紀のものとなっている。

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また、補足となる説明が以下。

アクスムの北西にある聖ギョルギスの丘で見つかっている、キリスト教時代以前のエリートの屋敷から出た遺物と、これらの遺物が似ていることから、アクスム王朝開始前後の紀元前4世紀~紀元後150年あたりの文化が伺える、とのこと。

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●Addi-GelamoとGoboshelaの遺物

目立つ座像はAddi-Gelemoから出土の紀元前5世紀のもの、南アラビア文字で神への祈りが記載されているとのこと。ということは、メソポタミアの祈願者像と似た姿をしているのは偶然ではなく、本当に祈願者像なのだと思う。
また、Addiのあたりではメロエ文化由来の遺物も見つかっているようで、内陸のナイル川沿いの交易網も存在したんだろうなと。

Goboshelaのほうは紀元前6世紀。

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●Goboshelaで見つかった台

紀元前5-4世紀、台座の部分に奉納者の名前と神の名前が記されているアラバスターとライムストーンの台。供物台か、上に神像を乗せる台あたりだろうか。

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●紅海沿岸 海洋交易港Adulisの遺物

Adulisは現在エリトリア領となっている紅海沿岸の遺跡。
かつてアクスム王国が東地中海世界とつながるために持っていた貿易港と考えられていたが、実際はアクスム王国成立以前から人は住んでいたらしい。
この遺物自体はアクスム王国時代のもので、7世紀から9世紀とやや遅め。イスラム教勢に押されてアクスム王国が勢いを失っていくあたりの時代のものだ。
壺に十字架の模様が描かれているのが目を引く。

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●東部イスラム教地域の遺物

Hararはハラルまたはハラリ州で、アジスアベバから東にある。州都はハラール。
エチオピア東部は紅海を渡って伝わったイスラム教が優勢で、今でもイスラム教徒が多い地域。時代的にイスラム教が伝わって勢力を伸ばしていくあたりのはずなので、それ関連の遺物だと思う。

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だいたいこんな感じ、これで地上階の1/3くらいの展示物です…。
あと奥のほうに、アクスムの回で紹介したエジプト風美術の祠堂もあるよ。

説明があまりにもシンプルなのだけど、それぞれの見つかった遺跡を紐解いていくととても興味深いことが見えてくる。プレ・アクスム時代と、アクスム王国時代の遺物がとても多いこと。そのどちらも、近隣の色んな文化圏の影響が交錯して見えること。紀元前5世紀から8世紀ごろまでのこの時代、エチオピア北部が、東地中海からインドまでつながる大きな交易網の一部で、「文明の交わる場所」だったことを感じることが出来る。

ただ惜しむらくは、これらの遺跡の発掘された年代が、1940年だの50年だのやたら昔だったり、最近だったとしても資料があまり揃っていなかったり、よく分からないことが多い…。日本語でもあまり資料出てこないから、研究してる人も少ないのかも。

いやでも面白いよここ、エジプトかメソポタミア知ってるだけでも「ああっ、ここにちょっとだけ成分混じってる!!」って気が付けるから。祈願者像のカウナケスが模様いりの地元風の腰布に変えられてるだけでフフってなれるから…!


あんま見る価値もないと言われてしまうアジス・アベバの国立博物館。
展示と説明がイマイチなだけで、分かれば楽しい。はず。多分。


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