日本における鯨食の歴史と環境問題を考える本「鯨を生きる」

鯨食の「歴史」の本というよりは、「社会学」や「環境学」に近い内容の本。



捕鯨に対する国際世論(※)の風当たりの強さもあり、それに対する反論ももちろんあるが、それよりも従来にはない物の味方を教えてくれる興味深い内容になっていた。


一般に「国際世論」と言ったとき、それは世界の大半という意味ではなく「一部列強の中での主要な見解」であることには留意する必要がある。なぜなら、弱小国の意見など抹殺されるのが国際社会というものだからだ。「世界中のみんなが言ってる!」などと素直に解釈するのは、よほど純真な人か、現実を見なくても生きていける人だろう。

最初は、鯨に関わる人生を送ってきた「鯨人」たちの語りが書かれている。
鯨をとる船に乗っていたとか、解体はどうやるのかとか、どこの部位が美味しいのか、とか。実際に関わって来た人たちだからこそ語れる内容になっている。まさに「鯨とともに生きる」という内容だ。
そして、鯨人たちが語るクジラが、決して一種類ではなく、セミクジラだったりマッコウクジラだったりミンククジラだったり、クジラごとに「どうやってとるか」「どう解体するか」「どこか美味いか」などの知識が違っていることに気づく。

それを読んだあと、解説パートで「実は世間の多くで言われているクジラは実在しない神格化されたクジラなのだ」という説明を読むと、なるほどとしか言いようが無くなる。

"かれの説明はこうだ。環境保護運動家と動物愛護活動家は、クジラを単数で語りたがる。「クジラは世界最大の動物であり、大きな脳を持ち、群れ(社会)のなかで生活し、人なつっこくもある。歌も歌えば、子どもたちの世話もする。そんなクジラが人間によって脅かされている」と。しかし、そのようなマルチなクジラなど、存在しない。


<中略>

世界最大の動物はシロナガスクジラだし、大きな脳をもつのはマッコウクジラだし(体重との割合で比較すると、もっとも大きな脳を持つのは水族館でおなじみのハンドウイルカとなる)、人なつっこいのはコククジラだし、歌を歌うとされるのはザトウクジラだ。絶滅の危機にさらされているのは、セミクジラであろう。たしかにそれぞれのクジラは、それぞれに固有な特徴を有している。しかし、これらの特徴をすべてそなえた単一の鯨は存在しない。"



これを詭弁だと笑う人がいるかもしれないが、たとえば蝶で考えてほしい。「世にも珍しく美しく儚い存在であり無害な蝶が人間によって消滅の危機にさらされている。蝶を守ろう!」というキャンペーンを張ったとして、そのキャンペーンに謳われるような蝶は実際にはどこにいるのか、という話である。密林に住むモルフォ蝶ならともかく、ご近所でひらひらしているシジミチョウやモンシロチョウは違うと思うはずだ。

クジラにも、蝶ほどではないにしろ、同じように多くの種類がいる。それらの違いをイマイチ理解しないまま、実在しない都合いいアイコンを仕立て上げて保護をうたうのは意味があるのか。やるのなら、実在しないクジラではなく、クジラの種類と特徴に応じた保護策なり水産資源の管理なりを行うのが妥当だろう、という意見はもっともだ。

また、近代の日本人は言うほど鯨を食べてなかった、という話も、実は鯨油や魚肉ソーセージなど鯨をもとにした加工品としては大量に消費していたというデータが示されているのは面白かった。日本以外の国も、かつては鯨油メインで鯨をとっていた。アメリカなどは、鯨油のかわりにパーム油や大豆油を使用するようになって用済みになったから、クジラをとらなくてもいいのだ。

現在の一人あたり33g/年しか消費されない状況を少なすぎると称するのも、文化として考えた場合は量の問題ではないという話もあった。ほかの国で考えてみると、スウェーデンの「伝統食」であるシュールストレミングなんか一人頭の消費量でいったらそんな多くないし、ぶっちゃけ食べてる地域も限定的だ。それでも伝統食なわけだし。
食の文化は確かに消費量では決められない。


そしてもう一つ重要なことが、鯨油を使わなくなったとしても、結局、食用油は必要とされ続けているという事実。
パーム油や大豆油を使えば、鯨油が無くても問題ない。だが、そのために大規模なプランテーションが作られるようになり、森林が消え、オランウータンをはじめとする動物たちが追いやられていく。
「クジラを守れ」と言いながら、オランウータンを追い詰めているという話。
世界は繋がっているし、我々は経済活動を止めることは出来ない。であれば、一方だけを守ろうとするのではなく、バランスよく持続可能な資源利用を考えるのがベストな選択だろう。はっきり言えば、使えるものを何で使おうとしないのかという話である。

自分も、鯨は利用可能な水産資源の一つとして管理すればいいものだと思う。というかIWCの本来の役目はそこだったはずなのだが…。空想上のクジラを仕立て上げて感情的に騒ぐのは、いかにもショボい。

もっとも、日本も商業捕鯨でちょっと取りすぎてただろ的な過去は反省したほうがいいと思う。
うなぎの件もそうだけど、乱獲すれば減るのは当たり前なので。持続可能な管理をして適切に捕獲するのが大事。