【これは酷い】草舟で古代人の航海を再現するプロジェクト、海を渡れないので竹舟に変更するかも?!

始まる前から散々突っ込んできたけど、案の定すごい勢いでボロが出てきて呆れるしかない。

ルーツ探る草舟航海、台湾発は延期…竹製船案も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160828-00050005-yom-sci

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要約:

「何の根拠もなく草で舟を作ったけど、海を渡れなかったので

  根拠は無いけど竹に変えて渡りまーす★」



何スかこれ(笑)
これで考古学名乗るんスか? 実験考古学ってこんな素人の思いつきレベルでいいんでしたっけ(笑)

もうね怒りを通り越して呆れて溜息しか出てこないんです。キッツいわ…。




というわけで、あんまりにもあんまりなので、以下は「あれ、これ何かおかしくね」と思った一般人と若い学生さんのために書いておきます。


 「何かおかしくね?」

はい、おかしいです。



本来であれば、素材は厳密に検証された上で実験されないといけないです。海を渡れないから素材変ーえち、なんてありえないです。根拠を積み上げて、素材や道具の形状を厳密に規定した上で実験し、その結果を"ひとつの参考に"、説を組み上げるから意味があるんですよ。

例えば、ダマスカス剣の再現実験とか、NOVAのピラミッド建造実験、あと先日紹介したヴァイキング・シップの航海実験なんかがまともな"実験考古学"。

*ダマスカス剣の再現実験の概要は、↓日サイの特集雑誌で読めます。

古代文明の輝き (別冊日経サイエンス 210)
日本経済新聞出版社
2015-12-12


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今回のプロジェクトがこうなってしまったのは、「海を渡る」ことが第一目的だからと思われます。つまり通常とは方向が逆。海を渡るために素材や舟の形状を規定してます。古代っぽいテイストの舟で海を渡れた、という事実と映像が手に入ればそれでいいわけです。

これは実験考古学ではないどころか、考古学者にとっては敵であるはずのオカルト支持者や、金目的でデッチあげも平気でする発掘業者、サルベージャー、ロマン詐欺師などと同様の手法ですね。根拠も理論もどうでもいいが自分の説は正しいに違いない、資金を集められれば何でもいい、という前提のもとで動いてるわけですから。(中の人がブチ切れモードに入ったのはそのためですが…)



そして、三万年前ですと氷河期はまだ終わっておりません。
植生は現在と全く異なります。

というか、現在より寒いので、竹は台湾に自生してません

調べてみたけど、最終氷期の自生地は、もっと南の、当時一塊になっててスンダランドと呼ばれる、ボルネオとかインドネシアとかのあたりまで南下しないと無いですよ…。(´・ω・`)

なので「素材を台湾に自生する竹に変更する」という選択は間違い。でも、現代のその場所に生えてる植物を使って三万年前の環境を再現しようって話がそもそも意味不明なので、ぶっちゃけこの程度のツッコミは瑣末なものですね。もっと根本的なところから、やってることがそもそもおかしいので。


というわけで!
どこかどうおかしいのか、今までと別の角度からも説明するために、氷河期の本を探してきました!!

*以下、出典は全て↓の本からとなります
*複数名で記述している本のため、図の出典元論文の担当者は異なります

琉球弧の成立と生物の渡来
沖縄タイムス社


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三万年前の沖縄付近の地形は現在と大きく違う

やっぱりなぁ、という感じ。
このへんの図は人によって出してくるものが違う(完全には再現出来ない)ので海の幅はそれぞれ違うけど、どれも現在より島の大きさが大きく、必然的に海の幅は狭い。つまりわざわざ200kmも航海する必要はない。そして、そもそも台湾から与那国島に向かう航路を選定する理由が分からない。

島伝いに移動するならもっと手前に島があるよ…。
いやーこれで「再現」実験って言われてもさぁ…。


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こちらの図だと、今回のお題となっているプロジェクトが再現しようとしている時代は2.5万年前となっているあたりで、2.8万年くらい前から寒冷な時代があったはずという説に基づいている。

前後の図と見比べると、陸地が拡大してるのがわかると思います。そう、この時代、一時的に気候が変動して海面が下がって、陸地面積が拡大してる可能性があるんですよ。氷河期っていっても寒冷な時期と温暖な時期を繰り返すので、その時々で条件は変わるはずですよ。

実際、この時期の前後に沖縄を含む島嶼に、大陸から大型・中型の哺乳類が陸伝いに移住したという説があります。なんとゾウの化石まで出てる! ゾウが渡れて人間が渡れないわけないよな、つまりそういうことだ。海路で移住したという結論を主張する以前に、先行研究の検討が必要なんだ。

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古生物学者の視点からいくとこのような図になる。今は絶滅してしまったが、2万年前くらいまでは沖縄以南の島嶼には、大陸から渡ってきたシカの仲間が生息していたんですね。シカが渡れて人間が(ry
陸橋がある時代に渡ってそのまま置き去りにされた説のほうがまだ自然だと思う。

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「ケラマ・ギャップ」「トカラ・ギャップ」という言葉が出てきますが、これは海底が割けてる部分で、海面が上がっても陸化してない断絶部分。ただし図を見て分かるとおりトカラ・ギャップはかなり早い時代から存在するのに対し、ケラマ・ギャップの沈降は2万年前から開始。そして最終氷期のここの部分は、幅数キロ程度の海だったとのこと。(P146参照) なので、この条件ならシカは渡れなくても人間は渡れます。


いずれにせよ、大陸から陸路で渡ってきた哺乳類の化石がそのへんで出ている以上、条件は時代ごとに大きく変化していたことは真っ先に想定すべき内容なんですよ…。

とどのつまり、「三万年前の航海再現プロジェクト」なるものは、そもそもその航海ほんとに必要なの? 何をもって航海が存在したと考えるの? という出発点の部分から疑わしいという、何なんだかよく分からないプロジェクトなんです。ここまでくると詐欺の一種と呼んでいい気がする。




…スンダランドから移住してきた人たちの航海を再現するんなら、まぁ、分かるんだけどさぁ。。
(その場合は確実に道具使ってアウトトリガーカヌーを作ってるわけだが)



念のため、沖縄で出土している人骨の年代一覧も。

古くて3万年ちょい、陸橋が存在したと考えられてる時代に多いので、まさに徒歩で大陸から渡って来た組だと思います。。 陸橋が存在していない時代だったとしても、地形がいきなり変わるわけではないので、浅い海をちょっと渡るだけで済んだ可能性が高い。少なくとも、現代の地形を航海しても何の意味もないのは確実です。条件が違いすぎます。

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参考までに、環境省が出している資料からも、「沖縄までなら大陸から陸路で移住できる」補足をしておきます。
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h23/html/hj11010202.html

この中で、「切れ込みの深いトカラ構造海峡にはばまれて、この海峡以北と以南で全く異なる種が生息する」という部分がポイント。逆に言えば、九州以南、トカラ海峡までは種族の差異があまりない、つまり一つの大きな島に繋がっていたということ。
島と島の間の海は、あったとしても飛べない哺乳類が移住できるくらいの幅しか無かった証拠です。
わざわざクッソ荒れてる現代の海を航海しても、そんなことは全然分からないでしょうね…。

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陸地が完全に繋がっていたわけではない可能性もあるし、数キロ程度の海が行く手を阻んでた時代もありそうなので、舟を使った可能性を考えるのは、そこはまぁ、アリでもいいかなと思うんですよ。

ただ、

 ・舟を使った証拠がない
 ・材質不明
 ・形状不明
 ・そもそも3万年前は現在とは全く地形が違う

これでは何も再現出来ないです(笑) なのに再現しようとしたことと、再現することによって「証明」できると考えたこと、これがもう致命的な誤り。ありえない。

こちらの切り口については、先に別の記事で書いたとおり。

 海を渡る人類、史上最初に南アメリカに到達した人々の話をしたい
 http://55096962.at.webry.info/201607/article_13.html

このプロジェクトは残念ながら予測どおり漂流しているわけですが、これ以上ファンや学生さんたちが呆れる前に、誰かマトモな本職の人に落とし前をつけてほしい。


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前から言ってますが、このブログがやりたいことは「マトモなファンを育てる」ということです。

人を叩いてへこませたところで、何の得にもなりません。私も人に嫌われるだけで良いことありません(笑) が、おかしいものはおかしいって言わないとファンのレベルは上がらないし、学者の卵も育たないし、それってとどのつまり業界が死ぬってことですよ。