「派遣SEばかりだからダメなんだ」という誤った風潮: 技術者派遣の理想と現実

なんか「SEなんて派遣ばっかりで責任感ゼロじゃないか」「だから技術力が足りない」みたいなことを言ってる人がいたので、あーまぁそう思っちゃうヒトもいるんだけど、実際は違うんやで…という話をしたい。

最初にザックリとまとめておく。


●本来の「技術者派遣」

システム開発には様々な種類があるため、その内容に応じて、必要な技術に秀でた技術者を、必要なだけ雇うこと。雇われてくるのは他社の社員。いわば「プロ傭兵」

●現実の多くの「技術者派遣」

あまりスキルもない(ヘタすると仕様書どおりのコーディングすら難しいレベルの)初心者に毛が生えた程度の技術者もどきを買い叩いて数あわせに連れて来る。「徴兵された農民」か「山賊くずれの傭兵」。


↑ダメだダメだといわれる派遣SEは後者。

技術者派遣をやっている会社でも、ある一定規模以下の中小はほぼ例外なく後者のほうである。なんでかというと、中小企業には社員を育成する金銭・人員の余裕がなく、技術者を人月単価で売りに出すことを商売にしていながら、その技術者を育てられず、スキルアップもさせられないからだ。

そしてまた、中小は、どこの戦場(プロジェクト)にも参加していない待機人員を抱えたままにして、タダ飯を食わせる余裕もない。
勢い、炎上案件とか、ほとんど実入りのない二次請け三次請け案件とかに手を出しやすく、送られた傭兵のほうは生き残るのに必死で自らの責任だのスキル上げだのやってる余裕がなない。ひどいところだと、スキルがマッチングしない技術者を無理やり戦場に送り込んでそのまま戦死させる。(それでも会社にカネが入ればいいという考え。社員は使い捨てだ…)

これが、超ザックリとしたシステム屋業界の理想と現実の差である。

プロ傭兵を育てて、その人のスキルの活きる戦場を選んで派遣できるのは、豊富な案件を持ち、スキルアップ支援が出来、待機人員を抱えても倒れない一定規模以上の大手に限られる。逆に言えば、そうした大手の「派遣SE」は、自社の看板を背負ってやってくるので責任感はあるし、技術もしっかりしていることが多い。本来は、派遣だからダメというわけではないのだ。本来はね。


…というわけで、「理想はこうだったんだよ…」という話をしたい。




そもそもシステム屋業界で派遣が多いのには、

 ・工程によって必要人数が増えたり減ったりする
 ・作る対象によって求められるスキルが異なる

という、2つの大きな理由からだ。


●必要人数の増減

システム構築という作業は、ビルなどの建築業に例えられることが多いが、工程は建築とほぼ同じだ。

 まず最初は企画や予算決め。
 発注先の決定。
 要件をまとめて設計。
 設計が終わったら実際の構築。
 構築終わったもののテストや運用手順の作成。
 引渡し。
   ↓
 運用フェーズへ

という流れなのだが、建築業と同じで、工程ごとに必要な人手の量が変わる。
代表例として以下のブログに載っていた図が分かりやすい。

http://si-yasan.hatenablog.com/entry/2015/06/14/222441

すべてのシステムで人数比がこうなるわけではないが、大雑把な流れとしてはだいたいこんな感じだ。
プログラマさんの部分が分かりやすいと思う。プログラマが参加してくるのは詳細設計の段階から。(つまり、大雑把につくるものが決まって、ゴールが決まってから。) そのプログラマさんも、製造~テストのあたりで人数がピークとなり、工程が進むにつれて減っていく。

この人数の差をどうしているかというと、

 人数のピーク時には足りないぶんを他社から借りてきて
 必要なくなるとリリースする。

  = 派遣契約で雇う


ということ。

要するに、システム屋でいう「派遣」というのは、よっぽどアレな事情(※1)がない限り、他社の社員なのだ。ちょろっと派遣会社に登録しただけの一般派遣とは「派遣」の中身が違う(※2)のだ。


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※1アレな事情…

「ええい、人手が足りなさすぎる! 新卒でも未経験でもいいから借り集めろ!」 とか、「こんなテストはシロートでもできる、単価を安く抑えたいから人だけ集めろ!」みたいなプロジェクトマネージャーが仕切ってる地獄のようなプロジェクトでは、二次請け三次請けで身元不明のズブの素人がどこからともなく集められてきたりします。


※2「派遣」の中身が違う…

ここがいわゆる「特定派遣」と「一般派遣」の違い。システム屋の派遣は、例外を除けば前者の「特定派遣」になっている。派遣形態の違いは厚生労働省とかでググってくらはい。

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●必要とされるスキルの違い

他社の社員を借りてくるもう一つの理由は、その現場に必要なスキルを持っている要員が必ずいるとは限らない、ということ。

システム屋といっても、得意ジャンルは個人個人で違う。プログラマならコーディング可能な言語(C++とかPHPとかJAVAとかいうやつ)の違いもあるし、DB設計の得意な技術者・Web設計の得意な技術者、設計からできる上級SEと、指示書に従って構築しか出来ないSEの違い、とか種類はいろいろだ。つくるシステムによって必要な人材が異なる。これは、建築業でいうと塗装業と木工大工は全然違う、というようなもの。単にSEがいればいい、というわけではないのだ。

自社に必要人材が常に余っているとは限らない。(というか、余ってることのほうが少ない) だから、足りない人材は余ってる会社から派遣契約で借りてくる。会社によっても得意ジャンルが違ってたりするので、特定の製品を使いたい場合は、その製品に強い会社に声かけたり。




というわけで、システム屋の業界において「派遣だからダメ」ということはないことはお分かりいただけただろうか。派遣といっても、自社の看板を背負ってプロ傭兵としてその現場に招かれている人も多いのだ。

しかし最初に述べたように、現実には、責任感がなく、スキルも足りない、どうしようもない人が数合わせのようにねじ込まれている現場も少なくない。


 ・とりあえず書いてあるとおりにコマンドが打てれば何とかなるような低レベルの仕事もある
 ・そうした仕事ばかりを渡り歩いて全くスキルが向上しないままのシステム屋も残念ながらいる
 ・それを容認してしまう会社もある


システム屋は、技術レベルによって一人あたりの「単価」が決まる世界だ。持ってるスキルが低ければ安い値段で借りられる。そのため、「とにかくデバックだけ出来ればいい」「物理構築の期間だけ短期間で人手が欲しい」みたいな感じの時は、より安い派遣SEを大量に借りる、ということが起こり得る。

そうした安く大量に買われる現場ばかりを渡り歩いてしまったシステム屋は、確かに、世間で叩かれる「派遣ばっかりで責任感ゼロ」「技術力が足りない」という状態である。

だがこれは、本人の向上心の問題のこともあるけれど、「下請けを買い叩いてやろう」っていう業界の構造のせいでもあると思うんだ。単価が安いほうが売りに出しやすいってんで、スキルが上がっても給料を上げてくれない、むしろスキル上げなんかせずに安いままでいい、みたいな会社もある。(特に社員数百人以下の中小ITはそんな感じ)

人を育てられない会社が多いんだよ…。



システム屋ってのは、常に最新技術を追っかけて勉強し続けないと金が稼げないわりとハードな職業だと思う。そしてシステム作りは「モノ作り」の一種。にも拘らず買い叩かれ、出来て当たり前と言われ、冷遇されてる業界だと思う。雇っている側は、自社の社員の給料のために買い叩かれるような現場にはNOと言えなきゃダメだと思うし、雇われてる側は、自分の将来のためにならなさそうな仕事を強要される待遇にNOと言っていいと思う。
ちゃんとしたスキルとやる気さえあれば、会社辞めても食ってける業界だから。

少なくとも、本来の特定人材派遣、そして派遣SEは、特定ジャンルの技術スキルを高いレベルで持っているプロ傭兵だ。どうせ下請けだから…と元請けの言いなりになって流される駒ではない。

胸張ってやれない仕事で食うメシが美味いはずもない。そうだろう?