大聖堂とピラミッド ~宗教建築の発展

唐突だが大聖堂とピラミッドは、いくつかの興味深い類似を持つ。

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大聖堂もピラミッドも、天を目指し、高さを求めて技術の粋を尽くしていったこと。
大聖堂もピラミッドも、権力者によって作られたこと。
ともに内部に死者を内包し(大聖堂は聖者の遺体の一部や聖遺物を所有する)、内部は聖なる空間として原則閉ざされている(聖堂の内陣には一般人は入れない)。

大聖堂も、ピラミッドも、宗教を起因として、宗教建築として発達した。
ともに最初はごくシンプルな形からスタートし、あとになるほど、より複雑で高度な形態へと進化していくことも同じである。

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しかしもっと興味高いのは、双方とも「石の」建造物であるということかもしれない。
片方は無骨な石の山、もう片方は内外に装飾を施した建物、という意味では方向性が違うのだが、石を使って高く積み上げるからには、必要な工程の大まかなところは同じなはずなのである。設計図をかき、用地を定め、資金を調達し、人手を集め…、石を切る職人、積み上げる職人、外装を施す職人、職人たちの指揮を執る親方などの要員を配置し適切に動かさなくてはならない。

そして大聖堂については、建造の過程が細かくわかっている。


工事最盛期の石工の数は、コンポステラあるいはウェストミンスターで、平均して40から50であった。
ウェストミンスターの場合、この王立大修道院(つまりは大聖堂ではないが、工事規模はほぼ等しい)建設のための1253年の帳簿を見てまず気づくのは、職人数が冬と夏とで大きく違っているということであるが、建設工事であることを考えれば、驚くには当たらないだろう。延べ人数でそれぞれの職種の最小値と最大値である。石切職人(29/78)、石工(4/35)、大工(9/33)、やすり磨き工(13/16)、鍛冶職人(13/20)、ガラス職人(2/15)、屋根職人(1/6)、一般作業員(20/220)。一般作業員は、資材を運んだり、廃材を片づけたり、機械を動かしたりする。一般作業員も給与は悪くなかったが、それは彼らの仕事がきつかったからである。

<中略>

この種の仕事ではもともと女は少ないが、しっくい塗りの女工や昼食を作る料理女を見かけることはめずらしくなかった。とくにイタリアでは、夏の酷暑から職人たちを守る日よけを作ったり、修繕したりするお針子がいた。そんなわけで、大聖堂の建築現場が職人や労働者でごったがえすというようなことはなかった。

大聖堂/白水社



これは、そっくりそのままでないにしてもピラミッド建設にも当てはまるのではないかと思う。

もちろん規模は違う。ピラミッドに携わった人間の数は最大で1万人とも見積もられているから、せめて各人数を100倍すべきなのかもしれないが、職人の種類や比率はおそらく似たようなものだろう。職人の中では石切職人が一番数が多く、切りだされた石を運ぶ一般作業員は石切職人の倍以上も居る。
雪の降るヨーロッパの冬を、エジプトで言う酷暑の夏と置き換えるなら、大聖堂建築と同じくピラミッド作業員も夏と冬で人数が大きく違っていた可能性はあるだろう。

違うのは、大聖堂の建設資金に「寄付」という調達方法があること、資金を提供していたパトロンの死などによって長期間中断される可能性があるところか。もっとも、ピラミッドの場合も、いったん中断されたものを後の王が引き継ぐことはあったようだが。


さて、唐突にこんなことを言い出した理由なのだが、先ほど引用した本の中で何かにつけて大聖堂とピラミッドが比較されていたこともあるが(※)、孫引きされている以下の文章が、まんまピラミッドだなと思うと同時に、ピラミッドと大聖堂の決定的な違いだと思ったからだ。


たしかに大聖堂は宗教施設ではあるが、それ以上に国家的建造物なのである。
<中略>
ほとんどすべての大聖堂が破壊を免れたのも、民衆の心の中に、大聖堂がフランス統合の象徴であるという国民感情がそのまま残っていたためである。


「宗教建築ではあるが、それ以上に国家的建造物」。
まさにピラミッドはそれである。

しかし二文目の内包する意味はどうだろうか。
国王主導で作られるピラミッドと、国民が望んで"寄付"をして作られる大聖堂では、「国のシンボル」の意味が全く異なるのだ。

思えば、フランス国民は国王や貴族といった権力者たちにひたすら抗い、権利を主張して頻繁に革命を引き起こした。対して古代エジプト人は重労働を課せられてもろくに文句も言わず、黙々と巨大な建造物を作り続けた。フランス以外の国民についてどうだったかはさておき、同じく天を目指した高度な石の建造物でありながら、大聖堂とピラミッドに込められた「作り手の思い」は全く違うものであったのかなあ、とか、考えてみた次第。


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※この本は大聖堂についての本なので、エジプトに関する記述は必ずしも適切ではない。たとえば、ピラミッドを作った職人が奴隷だったということはなく、大聖堂を作った職人と同じように給料はちゃんと支払われていた。