プリニウスの「博物誌」に描かれるエジプト

掲示板のほうに来ていた質問について調べるために、プリニウスの「博物誌」を読んでみた。
近所の図書館になく、借りるにはデカすぎるということもあり、あまりしげしげと読んだことがない本なのだが、これが意外と面白い。もちろん数時間で全部読みきれる分量ではないのだが。



プリニウスは紀元後1世紀に活躍した人で、博物学にかかわる様々なことがらについてまとめた大著を成したが、その中にエジプトにふれている部分が多くある。
訳の問題もあるかもしれないが、同時代のほかのギリシャの学者よりはるかに読みやすく、簡潔。たとえばタキトゥスなんかとくらべてみるといい。

読んでいて面白いのは、「大正解」の部分もあるのだが、「大間違い」の部分もある、ということである。
植生や鉱産資源については、詳細に、当時の貴重なデータを伝えているのに、世界地図はむちゃくちゃ、行ったことのない地域の描写は伝聞のためかファンタジー。リビア砂漠にサテュロスが住んでることになってたりしてかなり笑える。エジプトの地理は正確なんだがなァ…。

エジプトは「アフリカとアジアの境目」にされている。つまりエジプトはアフリカではない。
エジプトの西と南はアフリカで、東に隣接するシリア・パレスティナはアジア。シナイ半島はアラビアで、その先にインドがあることになっている。

天文学はもちろん天動説。ただし日食では「太陽と地球の間に月が割り込む」と正確に表現している。

ジャンルによって正確さの割合がことなり、例えば地球全体に関わる地理になってくるともうめちゃくちゃ。世界の形に始まり、世界を構成する要素(四大元素+エーテルとかありがちなネタが大真面目に語られる)、さらに神による世界創造の顛末などに至るといかにも古代である。ゲームやファンタジー小説である程度馴染んでいても、事細かに正確に記された物事の隙間に、現代的な感覚で「ファンタジー」と認識される要素が差し込まれているのは、いささか場違いに思えてしまうものだ。




さて、調べにいったのは「天体」の項なのだが、特に面白かったのは薬物と食べられる野草に関する項目だった。

薬物については、エジプト語で書かれた「エーベルス・パピルス」などの医学パピルスシリーズと突き合せると面白いだろうと思える。細かく「この薬草はこういう効能で使われる」と書き並べてあるので、この本を資料に古代の薬剤調合ゲームなんか作ったら楽しそう。

しかしとくに食物、食べられる野草に関する項目は驚きの連続だった。「エジプト人はそんなもん食ってたの?!」と。エジプトは穀物生産量が非常に高く、ローマ支配時代にはローマの穀倉地帯として大いに役立ったものだが、穀物がなくても野草で生きていけるくらい草が豊かだったという。

中でもよく食べられたのが「ナイルからとってきたヒツジグサ」だという。
なんだろうと思って調べたらこんなものが出てきた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%84%E3%82%B8%E3%82%B0%E3%82%B5

画像


あるあるある、こんなん見たことあるわ。
あれ食えるんだったのか…

パピルスが食えるのは知ってたけど、スイレンも食えるのか…。(調理方法はパピルスと同じく煮込むらしい)


ほかには、「アンタリウム」「オエトゥム」「アラキドナ」「アラコス」「コンドリュラ」などよく分からない名前が並び、馴染みのある名前としてはチコリ、オランダゼリ、オオバコ、ゼニアオイなどが並ぶ。古代エジプト版の「七草」が出来そうだ。

見ていて思うのは、古代人の生活は壁画や壷の表面やパピルスの上だけの無味乾燥で色あせたものではないということ。プリニウスの記述からは、実に色とりどりで四季折々の、生の営みを感じられる。遠い北アフリカの地で、砂漠のへりにナイルが作った緑地にしゃがみこんで、野草を摘んでいる人々を想像するととても楽しいではないか。煮込みヒツジグサは、どんな味がするものであろうか…。






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↑図書館で読んだのはこっち。

プリニウス博物誌 植物篇
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一部だけのものも売ってるみたい。
うーーーん、植物篇買おうかなあ、どうしようかな…(悩