ジャン・ピエール・ウーダン氏による「クフ王のピラミッド建設法の新説」に対する他専門家の反応

今年の夏、NHK特集の「エジプト発掘」第一集として放映され、一躍世間に広まった、フランス人建築家、ジャン・ピエール・ウーダン(Jean-Pierre Houdin)氏によるピラミッド建築方法の新説について、業界ではどんな反応なのかをちょいと探してみました。

新説って何やねん? という方はこちらからご覧ください。
http://khufu.3ds.com/introduction/(Flashには日本語版もあります)

ウーダン氏はエジプトの専門家ではありません。ピラミッドの調査申請や論文については、もっぱら彼と組んでいるボブ・ブライアー(Bob Brier)という別のエジプト専門家が出しています。なので、検索をする時は「Bob Brier’s theory」のほうが専門的な話が出てくるかも。



まず全般的な見解ですが――
ボブ・ブライアー博士以外の専門家たちは、概ね、この理論を否定しています。

Zahi Hawass氏はいつもの調子で「完全に間違っとる。内部に空間なんかないわ」

ピラミッドの内部密度が均一ではなく、上から見ると四角い感じに見えるのは正解なんだそうですが、それすなわち内部通路の存在を意味するものではない、だそうです。

John Romer氏は「傾斜路は採石場で終わるぞ。採石場を行き過ぎて終わらんとかミスリードすんな」

傾斜路を真っ直ぐに作れば確かに行き過ぎちゃうんだけど、途中で屈折させれば採石場の手前で傾斜路が終わるので問題ない、とのこと。

それから、ネウセルラーの太陽神殿の内部通路というのは建築のために作られたものではないので、それを根拠にしてピラミッド建築でも同様の内部構造が使われたとは言えない、と日本の西本真一先生が書いておられました。

Webで探せる限りの専門家の意見では、これスゲー! って賞賛してるのは一つも見つからなかった…。



専門家だけではなく、面白いことに海外の個人ブログやエジプトファンの掲示板でも懐疑的な意見が多数。

 「クフ王のピラミッドがこの方法で作られたとしたら、
 同時代に作られたメンカウラーとサフラーのピラミッドにも
 同じ空間が無いとおかしいんじゃね?」

 「ウーダン氏が使ったと推定している、
 ピラミッドの四隅に設置する石を浮かす装置の
 物証って無いよね。」

このへんは、確かにそうだよねって感じ。

 「石を速く運ぶことができても、
 同じ速さで石を設置できないよね」

この意見は頭いいなと思った。確かにその通り。下からガンガン石を運び上げても、建設中のピラミッドの上部にいる作業員は、積み上げるごとにだんだん狭くなる作業面積の中で的確に石を配置していかなくちゃならない。ピラミッドのてっぺんだから日陰もないし。石を速く運び上げるだけでは、作業全体の速度を上げることにはならないんですよね。
石を並べるのが間に合ってないのに下からガンガン石が運びあげられたら、ピラミッド上部が大混乱になって事故を招きかねません。指揮系統がしっかりしてないと難しいですね…


それと、

 「てっぺんまで行ったソリが帰る道がない」

この指摘もごもっとも。ウーダン氏の理論を3D再現しているFlashを見る限り、作業員はピラミッドの外側につけられた足場で元の位置に戻っているけど、ソリが戻る描写は無かったです。上から投げ落とすわけにもいかんしなあ。

 「ウーダン氏の方法で石を運ぶとすると、
 石の角度を変えるための装置は摩擦によって
 かなりの速度で磨耗するはず。
 装置の取替えを計算に入れていない」

Flash見る限り、ロープを「ひねって」石の方向転換すると想定しているようでしたからねえ。あれだとすぐにロープが痛んでしまいそう。
装置が単純であれば磨耗による影響は少なくなりますが、複雑にすればするほど取替えが面倒くさくなる。あと磨耗によって思わぬ事故を引き起こす可能性も。

 「クフ王の時代に滑車は使用されていなかったんじゃないの?」

という指摘も、言われるまで思いつきもしませんでした。そういや、滑車の発明は紀元前1000年頃と想定されてましたっけ。エジプトでもっと古くから存在したとしても、紀元前2500年以前の時点で、大きな石を運び上げられるだけの強度・規模の滑車装置が(ロープや基礎台も含め)作れたのかどうかは、要検証だと思いました。

こんな感じで、海外のエジプトファンはところによりレベル高い議論になってました。(笑)
いくらか専門家も混じってる気がしなくもないですが、よくこうもポンポン指摘が出せるなぁと。



ザヒ・ハワス博士は「全部まちがっとるわー!」と仰ってましたが、私的には、ウーダン氏の説には部分的に正しいところはあるような気がします。

海外の人たちも、部分的に正しいところはあるんじゃないか、という前提のもとで、重量拡散の間の天井に使われている重たい石を運び上げるには、大回廊という構造をうまく利用したほうが手っ取り早い、とか、内部傾斜路というのは飛躍しすぎにしても、全てが間違っているとは言えない。とか書いてありました。キャップストーンの設置についてはウーダン氏の方法でいい、という意見も。

なにぶん大胆で斬新な新説、しかも専門家ではない人の出したもの、ということで、叩かれるのは必至なわけですが、こうして他人にもまれながら、より正確な方向へブラッシュアップされていくのなら良いことではないかと。何も考えずに丸ごと信じるのも、頭ごなしに否定するのも、知の損失に繋がると思います。



まあそんな感じで、今のところウーダン氏の説はまだまだ未熟という扱い。
今はまだ、ピラミッドの謎が解明されたとは言えないようです。今後の発展に期待ですね。