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zoom RSS 飼い猫の起源:続編 「飼い猫の起源はやっぱりエジプト」学者たちの華麗なる論戦

<<   作成日時 : 2009/07/12 14:05   >>

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というわけで、前回の飼い猫の起源エントリの続き。

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あれから何かごちゃごちゃと調べていて、「飼い猫の起源は一万年前のメソポタミア」「キプロス島で見つかった猫の骨が最古の飼い猫の証拠」というのは、やはり少しおかしいと思い始めました。

で、ここでいつもなら結論からいくとこなんですが、結論だけ出すと多分意味が判らないと思うので、「飼い猫の起源はメソポタミア」「キプロスで見つかった猫の骨は最古の飼い猫」という説を段階を追って 逆つぶし していきたいと思います(笑)

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古代エジプトで、人間の手でブリーディングされた「確実な飼い猫」の証拠があらわれるのは、約4000年前のエジプト/ファイユーム地方。

ファイユーム地方は地中海有数の穀倉地帯であり、かつては「一村でエジプト全土を丸一日、360村で丸一年養うことが出来る」とまで言われたほどの場所です。よって、穀物の貯蔵と猫の飼育が関連づけられているとすればファイユーム地方も候補地に上がる。リビアヤマネコの自生地とも重なるので条件は十分。

ということは… イエネコエジプト起源説はまだ戦えるんじゃね?


と、フト思いついたのが調べ始めた切っ掛けです。
約9500年前にキプロスで見つかった猫の骨、しかしそれは本当に飼い猫のいた証拠となりえるのか。

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↑ファイユームはココ



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◆疑問その1: キプロスの骨は本当に飼い猫か?

よくよく調べてみると、キプロスで墓から見つかった子猫の骨だが、エジプトのそれと違い、飼い猫だったとは言い切れない模様。理由はこう。


・同時期のその近辺で、食猫の証拠がある(=調理された猫の骨の出土)

・死者と同時に埋葬していることから、副葬品の一種として殺された可能性


ネズミを狩ってくれる貴重な戦力だったら敢えて殺さんだろうし、大事にするんじゃないのかなあ… と思ったのが、まず一つ。食べ物が無くなったときの非常食にもしていたとすれば、埋められていた猫はまさか「食べ物」の可能性も無くはないが、そもそも猫は1匹あたりとれる肉が少なく生産性が良いとは言えないので、食用家畜として飼った可能性はあまりない。

それと、猫をなぜ一緒に埋める? ペットとして大事にしてたとして、飼い主が死んだとき同時に殺したのなければ一緒に埋葬したりはしないような気がする。益獣だった説をとるならば、そんな簡単に殺してしまうだろうか。
古代の墓、たとえば日本の古墳も初期は王が死ぬと側近も殉死させて埋めてたし、貴人が死ぬと馬や牛を殺して墓に入れることは世界各地で見られる風習。だけど猫って… 死後役に立つ動物じゃないから副葬品にする意味が判らない。



◆疑問その2: キプロスは農業があまり重要じゃない

そもそもキプロス島って、農業そんなに盛んじゃないだろ…どっちかというと漁業じゃないか?
島だし、いったんネズミを駆逐出来れば、人の操る船に便乗してネズミが再び島に入ってくるようなことでもない限り、いきなり増えることはあるまい。島のような独立した場所では、ネズミの脅威は大陸ほど大きくないはずだ。

たとえばヴェネツィアでは、ペストを媒介するネズミを退治したくてネコを輸入したというが、病原体という概念もなく、ネズミが病気を媒介するという知識もなかったような時代では、病気を防ぐためにネコを輸入することはなかったのではないか。

遺伝子的にリビアヤマネコなので輸入された動物なのは確かだが、何かがおかしい。
「農業の発展とともに収穫物を守る必要が出来、ネズミを捕獲できる猫が人との共存生活を始めた」という説とそぐわない。

ネズミが狙うのは主に穀物――。 それなら麦作の盛んな地域に最初に飼い猫が広まるはずで、漁業中心、麦が無くても生きていける地中海の島にごく初期に伝わるというのが不自然に思える。


◆疑問その3: ネコの神格化

ネコが貯蔵した穀物を守護してくれる大事な動物だったなら、なぜ神様にならなかったんだろう?

日本では穀物の守り神としてヘビがいる。というかウチの田舎に「とんべ神」という地方ローカルな稲穂の守り蛇がいた。いや稲穂の守り神っていうか、米びつに入れて飼う蛇ってだけかもしれないが…まあとにかく、蛇と穀物の関係は理解できる。スズメも理解できる。でも猫はないわ。
世界的に見て、穀物の番人として猫が神格化/精霊化されている地域はあるだろうか? 多分無いんじゃないかと思う。

穀物の栽培技術とともにイエネコも広まっていったとする説は、確かによく出来ているのだが、現状とそぐわないように思える。麦栽培の発祥はメソポタミア。だから麦栽培とともに猫の飼育が広まったとするにはイエネコの起源もメソポタミアにしなくてはならないのだが、そのメソポタミアから飼い猫の証拠が一つも出てこないのは何故だ…。神話にも、壁画にも、精霊としても登場しない。となれば、メソポタミア人はネコを知らなかったんじゃないか?


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というわけで、前エントリで紹介した説は怪しくなってきました。
これは覆せるかも! …と、ワクテカしながら調べたのですが。


 自分が考えていたことは2004年に既に論文が出てました。(Rothwell (2004)


2004年に出た説に年内に反論! さすが本職、ツッコみはぇぇ!
卒論でテーマかぶった時いらいのガッカリ感!

そうか俺ごときが思いつく話なら本職は思いつくよなあそりゃ…orz
要約するとこんな感じです。


●飼い猫は、エジプトとの文化的な接触が始まってから飼い猫が広まり始めたように見える。正確に言うと、エジプトがローマ属州になってから。

●ギリシャではじめてネコが図像に登場するのは紀元1世紀からだし、それ以前に飼い猫のいた証拠となる埋葬された遺骸などが見つかっていない。

●キプロスで見つかった猫の骨が、猫を飼いならす試みだった可能性はあるが、その後飼い猫として定着しなかったことは明らか。

レパントで猫が最初に飼育された、という説もあったが、レパントで発見された骨はのちに飼い猫のものではないと否定された模様。その後の数年で新たな証拠が見つかっていなければ、飼い猫メソポタミア起源説はまだ実証されていないはずです。

ギリシャやローマの人たちは、どうも猫って馴染みのない動物だったらしいんですよ。
それは、以前、エジプトの砦は猫で攻め落とせるか?というサイト記事を作るために調べていた時にも見つけていた記述。

ヘロドトスは、祖国ギリシアで猫を見たことはなく、エジプトへ来て初めてこの動物に接したわけだが、短期の滞在だったので猫の発情期とか出産を見ることはなく、ただエジプト人の与える情報に依存したのであった。エジプト人の情報提供者は、異国の人を楽しませようとして、話をおもしろくしたのである。そして、それを批判する力をもたぬわが大歴史家は、聞いたとおりに記した、というわけである。

古代エジプト動物記/文芸春秋/酒井傳六


これはヘロドトスが猫の生態について記した部分に関する注釈です。ヘロドトスの猫に対する記述は、確かにえらく無知で、見たこともない動物に関する接し方と言われれば、そのようにも見えます。9500年前の時点でキプロス島まで伝播していた飼い猫が、どうして紀元前5世紀のギリシャで珍しかったのか。キプロスで見つかったものは、飼い猫じゃないんちゃう? というか、ほかに古い墓から埋葬された猫が出てきていないなら、1例だけなら、やはり飼い猫じゃないかもしれんよね。…と。

さもありなんです。

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そして、上記2004年の論文を補強するのが こちらの論文

Evidence for early cat taming in Egypt
Veerle Linseele, Wim Van Neer, Stan Hendrickx
Journal of Archaeological Science 34 (2007) 2081e2090

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上の論文の話をする前に、まず、「飼い猫の起源が古代エジプト」と言われてきた根拠について解説しておきます。


◆飼い猫エジプト起源説の根拠

古代エジプトで飼い猫を意味する「マウ」という言葉が生まれたのは、中王国時代の頃であるらしい。

第十一王朝、五代目の王メンチュホテプ3世に仕えた高官の家族の名前にメスネコを意味する「タミト」があり、クヌムホテプという高官の私人墓の壁画に狩りに同行する猫が描かれている。猫の姿をした女神パケトが大いに信仰されるようになるのも、猫の女神パケト女神の聖地の一つであるベニ・ハッサンに大規模な猫の墓地が建造されるのも、丁度この時期だ。

猫が人間と一緒に暮らす絵が墓に描かれ、ミイラ化された何万体もの猫のミイラが丁寧に埋葬されている以上、紀元前2000年ごろの古代エジプトでは猫が、同時代の他の地域以上にポピュラーな動物となっていたのは確実である。大量に証拠があるので、最古ではないにせよ、イエネコが大量に飼育されはじめた時代のラインは動かない。今まで専門家たちの間で、飼い猫の起源がエジプトとされてきた所以である。
ちなみに、もともとライオンの姿で描かれていたバステト女神が猫の姿で描かれるようになるのも中王国時代。



…と、ここまで基本知識。
ただし、中王国時代(紀元前2000年ごろ=約4000年前)が、古代エジプトでネコの存在が確認されている最初の時代というわけではありません。



猫が『大量に飼育されるようになった』のは中王国時代、つまり天下の穀倉地帯であるファイユーム地方が干拓され、人とネズミの戦いが熾烈を極めるようになった(笑) と思われる第十一王朝の頃でFAと思われますが、古代エジプトで最古の猫の骨は、先王朝時代(紀元前4000年)まで遡ります。モスタジッダ(Mostagedda)というところで見つかった個人の墓です。

…しかし、これは「エジプトにおける飼い猫の最古の記録」としてはちょっと弱いんです。
なぜならば。

A felid buried with a gazelle in a human grave at Mostagedda (tomb 330, Badarian, before 4000 B.C.),has been described as ‘‘perhaps a cat’’ (Brunton, 1937, p. 34)and as ‘‘apparently a cat’’ (Brunton, 1937, p. 57), but no figuresor metrical data were provided and the finds have neverbeen re-analysed.


「ガゼルと一緒に見つかった。多分ねこ。」って書いただけで、詳しい記録とらず捨てちゃったからだ(笑)
さすが1937年ハンパねぇぜ・・・! orz まあ、発掘で出てきたものすべてに均一に注意を割り振るのはムリだし、出てきたものすべて保存出来る余裕なんて無いだろうし。まあ、まあ、時代的にもしょうがないのか。

でも、幸いにして、同じ先王朝時代に属するヒエラコンポリスにある墓(HK6)から発見された猫の骨が分析されているようです。こちらが、その骨。

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Skeletal elements of the cat from HK6 at Hierakonpolis


この猫は死の4〜6週間前に足を骨折しており、骨折が罠にかかったためだとすれば、捕獲して飼いならす試みをしたがうまくいかなかったんじゃないかと。また、先王朝・初期王朝時代を通じ、人とともに埋葬された猫や、猫に関する芸術などの飼い猫がいた証拠が不十分であることから、飼いならす試みはなされていたが完全ではなかったのだろう、という説明がなされています。

ちなみに、このHK6墓というのは、エリート階級の墓らしい。↓

1898-1998: Hierakonpolis Celebrates 100 Years of Discoveries (NEKHEN NEWS)

古代エジプトの歴史を通し、ライオンが王家の象徴とされ、ヒョウが高位にある神官の衣服の材料として使われたように、或いは猫も初期には、貴人にとって何か特別な意味のある動物だった可能性があるかも? という記述がありました。だとすれば、猫の飼育は最初はネズミを獲らせるためではなく貴人のペットにするために始められた可能性も出てきます。神格化された神聖な動物といっても、ライオンや狒々、トキなどは飼いならすのが大変ですが、猫は何とかなったんでしょう。


まとめると。

古代エジプトにおいて、猫が最初に飼育を試みられたのは王朝時代が始まるより前(紀元前4000年ごろ)かもしれません。しかしそれは限定的で、一部の貴人だけが限定的に飼育していた(または神殿で儀式のためだけに飼われていた)、完全に飼いならされていない猫の可能性があります。

ネコフィーバーが起きて、飼い猫とはっきり判別できる証拠が多数現われてくるのは中王国時代(紀元前2000年ごろ)。

これらはキプロス島で見つかった9500年前の猫の骨より新しい証拠になってしまいますが、より確実な証拠と言っていいようです。そして、仮にキプロスの骨が猫飼育を試みた最古の証拠だったとしても、多分その試みは失敗に終わっています。なぜならギリシャ・ローマに初めて猫が登場するのが紀元1世紀だから。キプロスで飼い猫の飼育に成功していたとすると、エジプトがローマ属領になるまで猫が近隣諸国に広まらなかったことが説明できないから。


結論。

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 野生の猫を飼いならす試みは
 各地で同時並行して行われていた可能性があるが
 試みを成功させ、一般家庭にも住む本当の意味での「イエネコ」にしたのは
 古代エジプト人と言っていい。

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やはりヘロドトスの時代にギリシャ人が猫を知らんかった、というのが一番のネックですね。飼い猫の起源はエジプト据え置きで構わん。ウチはこの説の支持者でいかせていただく!



古代エジプト人<お前にあの猫が救えるのかー

これでよし。

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