「目には目を、歯には歯を」

「目には目を、歯には歯を」といえばハンムラビ法典。
…と、いうのは有名なのだが、実はこれ、ちょっとした誤解だったりする。
人に説明するのが面倒だったので、エントリとして挙げてみた。やっほーKちゃん見てるー?(何

まず、ここからいくとしよう。

●ハンムラビ法典は正確には「法典」ではない。

そもそもの話として、ハンムラビ法典は「法典」ではない。
「え? じゃ何なのよ!!」… 法律ではなくて、判決例です。

法典とは「同系列の法規を組織だてて編んだ成文法規集。刑法典・民法典の類」というもの。ハンムラビ法典と呼ばれているものに書かれているのは、"法律"そのものではなく実例を兼ねた判決の例。だから「法典」ではない。
しかも、実際にこの石碑に従って判決が下されたかどうかは分からない。「ハンムラビ法典のxx条に基づいて判決を下しました」というような例が無いからだ。そこに書かれているのは理想にすぎなくて、実際の裁判では状況に応じた判決が下されたのかもしれないし、時代によって判例にそぐわないケースも出て、石碑の内容が役に立たない場面もあったかもしれない。

ちなみに、バビロニアには文書として成立した法律が存在した証拠はない。


●復讐せよとは書いていない。

等価な罰を与えられるのは、損害をこうむった者とこうむらせた者が等しい地位にある時だけ。市民は奴隷の目を潰しても自らの目は失わない。

ちなみにバビロニアの市民階級は、アヴィールム>ムシュケーヌム>ワルドゥム(奴隷) である。「法典」はアヴィールム(上級市民)基準に書かれている。下級市民が上級市民に同じことをやったらどうなったのかは不明。

では実際に、「目には目を」に関連する部分を見てみよう。

195.
もし息子が彼の父親を殴ったなら、彼らは彼の腕を切り落とさなくてはならない。


地位は 父親>息子 で、父権の絶対さが伺える。
息子が反抗期を迎えても親父を殴ることは好ましくないと考えられていたようだ。

196.
もしアヴィールムがアヴィールム仲間の目を損なったなら、彼らは彼の目を損なわなくてはならない。


197.
もし彼がアヴィールム仲間の骨を折ったなら、彼らは彼の骨を折らなくてはならない。


このあたりが「目には目を」のもとネタだろうか。ただし…

198.
もし彼がムシュケーヌムの目を損なったか、ムシュケーヌムの骨を折ったなら、彼は銀1マナ(約500g)を支払わなければならない。


アヴィールム同士だと対等だったものが、上級市民が一般市民に同じことをすると罪が軽くなっている。
さらに一般市民より下の階級が相手だと…

199.
もし彼がアヴィールムの奴隷の目を損なったかアヴィールムの奴隷の骨を折ったなら、彼は彼(奴隷)の値段の半分を支払わなければならない。


社会最下層の階級に対して同じことをして場合は、もっと罪が軽くなる。
以下「歯には歯を」のもとネタになったと思われる部分も同様に、傷つけた相手の社会的な地位によって罰が異なっている。

200.
もしアヴィールムが彼と同等のアヴィールムの歯を折ったなら、彼らは彼の歯を折らなければならない。


201.
もし彼がムシュケーヌムの歯を折ったなら、彼は銀3分の1マナを支払わなければならない。



こんなカンジだ。つまり罪の値段の基準ということなのだろう。
ところで、ハンムラビ法典が、実際の法律ではなくむしろ「代表的な判例」だったとして読み直すと、なかなか面白いことが見えてくる。

「乳母が預かった子を死なせ、それを子の両親に知らせず別の子を身代わりとして乳を与えた場合は…」とか「養子が実の両親を知り家を出てしまった場合は…」とか、「理容師が許可なく、奴隷の目印である髪型を切り落とした場合は…」など、実際にそんなシチュエーションがあったんだとすれば、一条文で一本小説が書けますよ、奥さん。
実はここもネタ満載(笑)

読み方を変えると意外と面白いかもね。



引用もとはコチラ。