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zoom RSS ”ファラオ奪還” ― ラメセス1世ミイラの返還と、現在の博物館建造ラッシュの裏にあるエジプト事情

<<   作成日時 : 2008/10/12 00:04   >>

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ディスカバリーチャンネルでやっていた「ファラオ奪還」を見た感想を兼ねたまとめ。

番組の概要は、「エジプトから不法に持ち出された文化的な遺産の返却を求めてゆく戦い」。その急先鋒たるザヒ・ハワス博士と、大英博物館やベルリン博物館、ルーブル美術館といった名だたる博物館・美術館の学芸員たちの間接的なバトル、お互いの主張といったものが、アメリカの博物館からのラメセス1世ミイラ返還を軸に語られている。



2003年、アメリカからラメセス1世のミイラがエジプトに帰還した。

約140年前、副業として盗掘を行っていたラスール一家によって王家の谷の隠し場所(ロイヤル・カシェ)から盗掘され、テーベを訪れた観光客に売りつけられてそのまま国外に持ち出され行方不明になっていたものだ。

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このミイラはカナダにあるナイアガラ・フォールズ・ミュージアムに、奇形の動物の死骸などと一緒くたに展示されていた。1999年、博物館が閉鎖される際、他の収蔵品などとともにアメリカのアトランタにあるマイケル・シー・カルロス博物館に売却され、収蔵品をチェックする中で「これはもしかしてファラオのミイラでは…」と、発覚。
ファラオのミイラは腕の組み方が特徴的で、高価な防腐剤などをふんだんに使い丁寧に作られている。
鑑定の結果、行方不明だったラメセス1世のミイラの可能性が高いということになり、エジプトへの返還手続きが行われる。
かくて身元の判明したファラオのミイラは、無事、故郷エジプトへ旅立つことになった。
売却ではなく返還なので、タダ。金銭的なやりとりは行われていない。

が、エジプトにとって重要な遺物を返却したことで友好関係が築かれるわけだし、逆に返却しない国には発掘の権利を与えない、と、エジプト考古学会の大ボスであるザヒ・ハワス博士が豪語しているので、これには倫理的な問題だけでなく政治的なものも絡んでくる。


現在、エジプトは、過去に「不法に」持ち出された遺物の返還を世界中の博物館や政府に求めているが、なかなか旨くいっていない。
理由はいくつかあるが、たとえば大英博物館にあるロゼッタ・ストーン、パリのコンコルド広場にあるオベリスク(元はルクソールにあった)、ベルリン・エジプト博物館のネフェルティティの像といったものが返還希望対象になっている、と言えばなんとなく理由は分かるだろう。もちろん「もう自分とこのもの」という意識もあるだろうし、その遺物が重要なもので、博物館や美術館の展示の目玉になっていて多大な利益を生んでいるものということもある。また、獲得の手段は「不法」ではなく「合法」であった、とする主張もある。
同じような遺物の返還を求める活動はギリシャもやっているが、対象が重要なものであるほど駆け引きが難しい。


で、何でエジプトが遺物の返還を求めているかというと…。

数千年前と今では言葉も宗教も異なるが、現代エジプト人にとって、古代エジプト人は「祖先」という扱いになる。
国の位置も、住んでいる人も変わらない。よそから移住してきた人もいるだろうが、元から住んでいる人はそのままなのだから、遺伝子的にはおそらくほぼ同じだろう。長い忘却の時を経て、エジプトは自らの過去を取り戻そうとしている。
その上で、不正に持ち出された一級品を取り戻したいと願っている。自分たちの祖先の作ったものに対し、権利を主張したくなる気持ちは理解できるだろう。(近年でいえば、運慶作の仏像がクリスティーズオークションに出された時の日本人の反応を思い出してみるといいかもしれない)


問題なのは、それが行過ぎた国粋主義に結びついてしまうことだ。
現在のザヒ・ハワス博士の強硬姿勢には同意しかねる部分もある。
「遺物の返還に応じない場合はエジプト国内での発掘は認めない!」という方針もそうだし、ハトシェプスト女王やツタンカーメンのDNA鑑定時に重要な局面ではエジプト人学者以外の手を借りようとしないなど、妥当とは思えない主張も見受けられる。

エジプト人自身でエジプトの遺跡を守りたい、とか、自国民に祖先たちへの知識を深めて貰いたい、と思うのは分からなくもない。だが、ヒエログリフを解読し、多くの貴重な遺跡を発掘し、遺産の保存のための資金を提供してくれたのが誰だったのか――過去を取り戻してくれたのが一体誰だったのかを、エジプトは忘れるべきではないと思う。

現在あるエジプト学の基礎は、多くの国の人々の協力によって築かれた。遺産を残したのは古代エジプト人だが、それらを今この世にあらしめているのは子孫たる現代エジプト人の独力ではない。

遺物の返還運動が、古代の遺産の存在する意味、その価値を減ずることになってはならない。所有権の主張は突き詰めていけば、エジプト学の分野における停滞を意味するかもしれない。「遺物を返還しない国の発掘隊には発掘を許可しない」と主張することによって、優秀な学者がエジプトに入れなくなるのでは意味がないのではないか。また、国境を越えた自由な議論の妨げになるなら、ちょっといただけないなあ… と、思ってしまう。



現在、エジプトでは多くの博物館が建設されている。
それは、遺物の返還を求める際に「エジプトには貴重な遺物を保管する能力がない」と言われるのを避けるためという理由もある。今まで置くところがなくて山積みになっていた遺物、過去にきちんと整理されていなかったものなどについて保管できる箱を準備しようとしているわけだ。
しかしそれらの建設には各国の人材が関わっているし、外国からの資金援助もある。これもエジプトの独力じゃないのだ。

思うに…、遺跡や遺物の保存は、その国だけでやるものじゃないんではなかろうか。
いたずらに自国の権利を主張するんではなく、人類共通の遺産と考えるべきじゃないのか。
だいたいエジプトには遺跡がありすぎる。あれだけ掘って、まだ7割の遺跡が埋もれたままだという。国中博物館だらけにしても展示し切れないかもしれないし、どう考えても自国だけで保存するのはムリだろう…。

エジプト自身がエジプトの過去のもつ価値に気づいたこれから、世界各地に散らばる遺物がどうなっていくのかは分からない。この番組の中で挙げられた、どの意見も自分たちの権利や利益しか考えていないように思えて、私には同意しかねた。どうするのが一番いいんだろうか。なかなか難しい問題だが、個人的にはロゼッタ・ストーンやネフェルティティの像、オベリスクなんかは、今ある場所でいいんじゃないの? って思う。ルーブルやエルミタージュのも。10年前、カイロ博物館の遺物には落書きがされていた。今は落書きはさすがになくなったけど、掃除のおばさんが濡れ雑巾でファラオの像をはたいてた。警備員が「チップ払えば写真執らしてあげる」と言って来たり、夜中に遺跡の中に忍び込んだ誰かがスプレーで名前書いていったり出来ちゃうようなことがまだある今は、遺物を完全に保存できます! と主張するにはまだ少し早いかも。
っていうか、ロゼッタ・ストーンと同等か、もっと価値のあるものが、エジプトには山ほどあるじゃないか…。人によって様々な意見があるだろうが、重要なものすべてをエジプトに留め置く必要はないと、私は思っている。


***********

この問題については、岡山市立古代オリエント博物館で行われた「古代エジプトへの扉」の際に作られた本が参考になるかもしれないので紹介しておきます。
個人収集家である菊川氏のコレクションが中心なんですが、実は日本にもたくさんの古代エジプトの遺物が存在する。それも博物館ではなく個人で持ってる。なんかすごいぞ。

(検索したら、ご本人のウェブサイトがあったから驚きだ)

古代の遺産を持つということ、それを持ち続けるということが何を意味するのか… 
ロゼッタストーンやネフェルティティ王妃の胸像、ファラオのミイラといった第一級品を持つ他国だけの問題ではないことを考えてみるのもいいかもしれない。






余談ですがラメセス1世帰還の際はパスポートが用意されエジプト国旗が振られ、楽団による歓迎演奏やパトカーによる先導等もあった模様。ご帰国はエアーフランス使用。でも荷物扱い…。
重量書き込まれてるのが色んな意味で泣ける。

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別角度からの映像だと、「割れ物注意」のマークが見えたりするんですよね。
まあ確かに割れ物ですが。(笑)

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