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zoom RSS 褐色肌のチェダー・マンと、19世紀ケルト復興運動の中の「黒いケルト」

<<   作成日時 : 2018/05/27 00:10   >>

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やや旧聞となるが、イギリスのチェダーで発見されていた約1万年前の男性の人骨のDNAを解析したところ、従来説と裏腹に、褐色の肌に青い眼をしていたことが判った、というニュースがあった。

1万年前の英国人、褐色の肌に青い瞳 現代欧州の10人に1人とつながり
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-42984569

画像


現在のグレートブリテン島、およびアイルランドとその周辺の諸島の住民は、ゲルマン系を含む幾度もの移民の波によって民族人種がシャッフルされた状態になっているが、大元となる最初の住民は最終氷河期にヨーロッパから渡って来た人々、すなわち、このチェダー・マンの属していた集団である。従って、のちに移民の波によって書き換えられる以前の最古の先住民は、「黒髪、褐色の肌、青い目」という特徴を持っていた…ことになる。
そしてこれは、ブリテン島を経由して移住していったアイルランドの先住民たちもまた、同じだっただろう。



さてこれを見たときにずっと頭の片隅で「なんか"ケルト人"と呼ばれていた人々の特徴がまさにそれじゃなかったっけかなー」と引っ掛かっていたのだが、ようやくソースを思い出した。

「ケルト復興」の中の「イングランドにおける『ケルト』像」という章である。

ケルト復興 (研究叢書)
中央大学出版部

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この本は複数の著者によって書かれており、それぞれに微妙に立場や理解の度合いが異なると感じられる本なのだが、とりあえずそこは置いておく。問題の章では、19世紀のイングランドでの「ケルト」人の扱いに触れ、

 ・サクソン人に対しケルト人の地位が低く、黒人と同じように扱われている
 ・ケルト人に対し「黒い」という言葉が(侮蔑的な意味で)使われている
 ・古代のケルト人と現代のケルト人の血の繋がりは間違いないと思われるのに異なる外見で書かれている

と、やや憤りを込めた言葉で語っている。
ちなみに、ここで言われている「ケルト人」は主にアイルランド人のことを指しており、著者は古代のケルト人と現代ケルト人を同じものと見なしているようで、意図して別に扱おうとすること、ケルト人を「黒い」と表現するのは差別的だと感じているようでもある。
ウィリアム・リジウェイという古典学者の言説に触れた箇所では、以下のように強い論調で書いている。


"なにゆえにアイルランド人らを「ケルト」と称することを拒むのであろうか。彼の持ち出す根拠は、古典作家の描いたケルト人の背丈、髪や目の色といった身体的特徴と、当時のアイルランド西部などに住む人々にあるとされた身体的特徴の違いである。しかし「黒いケルト」や「色黒」や「黒い人種」といった表現は、現代人には大きな戸惑いを感じさせる。白人であることは絶対に間違いない人々に対して執拗に繰り返される「黒」という修飾語は、いったい何を意味していたのだろうか。"



…だが実際に、アイルランドの先住民(1万年前から住んでいる人々)の肌は、サクソン人などより黒かったのである。
そして確かに現代でも、アイルランドには黒髪の人もけっこういる。
皮肉なことに、著者が論述の中でしきりと否定している「アイルランド(ことに西部)では目が薄い色で髪が黒っぽい」という特徴が、まさにチェダーマンそのものなのである。著者が否定しているソースは、いずれも19世紀のものだ。にも関わらず予言のようにぴたりと特徴が当て嵌まっているのは、本当にそうだったからと考えるのが妥当ではないのか。

すなわち、後世の移住の影響が薄かった地域では、1万年前から住んでいたチェダー・マンの系譜に近い特徴が保たれていて、白い肌やブロンドはアングロ=サクソン人など後世の西ヨーロッパからの移住者によって比較的近代になってもたらされた外見だったのではないか。

「ゲール語を話す人々は肌が浅黒い」という表現は、差別的な意味も多少含んでいたにせよ、実は妥当だった可能性が出てくる。



なお付け加えるならば、「白人であることは絶対に間違いない」という表現は誤りである。
そもそも白人と黒人という人種や区別は存在しない。ヨーロッパ人=白人とおおざっぱに定義するつもりならまぁ多少判らなくも無いが、それだとフィランド人どうするんだよとか、ギリシャあたりはアジアに近いんですけどとか、そもそも肌の色が白いという特徴をヨーロッパに持ち込んだのは近東出身の農耕民ですよねとか、山ほどのツッコミが飛んでくることになるので、こういう表現を迂闊に使うのはオススメしない。

さらに近年では、現在「ケルト人」と呼ばれている人々と、大陸側に存在し、歴史的・考古学的で「ケルト人」と呼ばれている人々の間に直接の遺伝的な繋がりはないこともほぼ確定しているので、アイルランド人の特徴が金髪・碧眼でなかったとしても特に問題はない。


ケルト人(実際はアイルランド人などゲール語を話す人々)に対して使われた「黒い」という表現は、実際の見た目を素直に表現したものなのか、知性が劣るという意味で侮蔑的に使われた箇所なのかを明確に分離してから、再度論じなおす必要があるように思う。




*****
おまけ

「島のケルト」は「大陸のケルト」とは別モノだった。というかケルトじゃなかったという話
http://55096962.at.webry.info/201705/article_21.html

ここにリンクした以下が参考になると思う。

現代イギリス(UK)人の遺伝子地調査から見えてくる歴史イベントの影響と"ケルト人"の行方
http://55096962.at.webry.info/201706/article_6.html

ケルト人はほんとにケルト語を話していたのか…「ケルト語」の名前の由来を見たらそうじゃなかった件
http://55096962.at.webry.info/201712/article_16.html

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