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zoom RSS さらりと読めて面白いのだが宗教に関する考察は謎。「生き残った帝国ビザンティン」

<<   作成日時 : 2018/04/04 00:10   >>

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なんか日本語で出るビザンツの本やたらと「一千年続いた国はスゴイ」な話を推してくるなと思ったら、実は同じ人が書いてた(←本棚に並べるとき気が付いた)

学術文庫でコンパクトに読めて、内容も時代の順番に追って行くのでそんなに難しくない、読みやすい本である。

生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)
講談社
井上 浩一

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ビザンツ帝国を最初から最後まで、各時代ごとに代表的な皇帝を挙げてその生き様とともに見ていくかんじの本になっている。なにしろ千年続くわけなので、その性格や雰囲気は時代ごとに全然違う。日本も長い歴史を持つが、千年前はまだ武士とかサムライとか居ないし忍者も誕生していない。

ビザンツ「帝国」とはいうものの、その歴史は衰亡を繰り返している。領土の範囲は時代ごとに全然違う。
この地図はそのへんを判り易く示してくれていると思う。

画像


で、まあ内容は…おなじ人の本を既に読んでしまってて、それより前に書かれた本のようなので後から書かれた本の方が凝縮されているなぁと思ったのと、だいたい感想が同じなので置いておくとして、気になった点が一つ。

ビザンツは統治にキリスト教を使った、という流れの中で語られる「オリエントには二つのタイプの神がいる」という話。

一つは「オリエント型」で人間が近づきがたい全知全能系。姿を描くことも許されない。
イスラエルの神などに代表されるものとして、著者はこれを専制君主制と結び付けている。

もう一つは「ギリシャ型」で不死であること以外は人間と同じような存在として扱われる。
著者はこれを民主制と結びつけている。

が、この分類は誤りだ。ギリシャの神々は、古代オリエント(東地中海世界)の神話体系の一部である。神話も神格もメソポタミアやエジプト、もちろんイスラエルなどのものと深く結びついており、分離は不可能。また、神が「人間のように」なるのは単に時代の差だと考えるべきだろう。

ギリシャ文明が花開くのはかなり遅い時代となり、オリエント世界の中では末っ子の文明と言っていい。その時代には、かつて超越的であったほかの文明圏の神々も、かなり人間の近くまで降りてきている。たとえばエジプトのプトレマイオス朝では、王たちが「我々は生ける神である」と名乗ったり「イシスの化身」と称したりする現象が起きたが、これは神が超越的な絶対の存在であったらまず起きない現象だ。


分けるなら、

多くの神々が並立する「古代オリエント世界伝統の多神教」/より古いタイプ
旧約聖書に始まる「絶対的な一神のみが存在する一神教」/新しいタイプ

の二つが妥当だろうと思う。

これらの違いは専制君主か共和制かではない。古いタイプから新しいタイプが生まれてきたのだ。
ユダヤ教もキリスト教も、オリエントの宗教の一部であり、その伝統を深く引き継いでいるのは間違いない。
なにしろ旧約聖書の中に出てくる神話はほぼ古代オリエントの他の地域のものとカブっているし、新約のほうもエピソードの元ネタが神話から来ていると思われる部分がある。

新しいタイプの宗教というのは、神の役目が多数の神格に分かれていて必要な神を選べる宗教から誕生して、神が一柱しかおらずYES/NOしかない宗教に構造を変えた。「キリスト教はオリエントの宗教とギリシャの宗教の折衷」でなのではなく、「ギリシャ宗教を含むオリエント世界の宗教が変化していく中で分離したのがキリスト教」と見たほうが正解に近いと思う。


ビザンツの話でいうと、古くから文明が栄え、ギリシャよりはるかに古い歴史を持つビザンツの領域は、風土として最初から古代オリエントの伝統的な多神教が染み付いていたはずだ。なにしろ紀元前7,000年くらいにはもう女神像とか作ってた地域なのだ。
ビザンツが採用する正教系の宗教がやたらと荘厳な儀式にこだわるのも、教会建築がどことなく古代の神殿を思わせる作りなのも、土地と住民に染み付いている古代からの概念の表れではないかと思う。

だから、ビザンツの皇帝たちが行った「イコン禁止」、つまり神の像を描くな・刻むなという話は、無意識のうちに受け継がれている古代からの伝統を断ち切りたかったのもあると思う。多文化・多民族を統治するのに宗教をツールとして使うのは有効だが、そのためには「教科書どおり」の教えが広まらなければならない。ローカライズされては意味がないのである。宗教を統治に使おうとした以上、皇帝が「教科書(聖書)どおり」の信仰を強要して「神の像を作るな」と言ったのは、そりゃそうだろうという感じがする。

ただ…古代から連綿と続く伝統がそう簡単に断ち切れるはずもなく、結果は失敗に終わるのだが…。現代から歴史を振り返ってみると、聖母子の絵や教会芸術にこだわったのはかつて西ローマだった側より東ローマだった側、ビザンツ領内なんだよね…。


というわけで、宗教に関する考察部分は、最初の分け方からして良く判らず、その分類を土台にして展開される以降の論もなんだかズレてると感じた。それ以外のところは面白く、あまり取り上げられないニカイア王朝の王様たちも出てきたのが良かったと思う。


******

※同じ人の本だとあとで気が付いた

ビザンツ 文明の継承と変容―諸文明の起源〈8〉 (学術選書)
京都大学学術出版会
井上 浩一

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※別の人だと思ったけどよく見たら訳者が一緒だった


ビザンツ帝国 生存戦略の一千年
白水社
ジョナサン・ハリス

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