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zoom RSS トルコの文化財保護の現実と問題「文化遺産は誰のものか」

<<   作成日時 : 2017/09/09 00:10   >>

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本のフルタイトルは「文化遺産は誰のものか トルコ・アナトリア諸文明の遺物をめぐる所有と保護」となっていてちょっと長いが、サブタイトル部分まで入れてはじめてこの本が書きたい内容を理解できる。
ただ単に長いだけではなく、本の内容、言いたいことを端的に表していて良タイトルだ。



まずこの本を読む上で前提として知っておくこと。

・現在のトルコはオスマン帝国が解体されて出来た国のうちの一つ。"アナトリア"は現在のトルコの中で大きな面積を占めている地域だが、帝国時代にはむしろ辺境だった。なお、現代の国家であるギリシャもシリアも、かつては「オスマン帝国」というひとつの国だった。

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・現在のトルコの領域内には、古代の帝国であるヒッタイトやアッシリア、ギリシャ文化の遺跡や、アルメニアのキリスト教徒の残した遺跡など異なる文化の遺跡・文化財が重層的に存在する。

・現代でいう「トルコ人」という概念は、新しく「トルコ」という国が出来るにあたり創出された概念であり、それ以前に存在した「トルコ人」の概念とは異なる。トルコは単一国家の国ではなく、アジア系遊牧民テュルクも確かに入っているだろうがむしろ少数派。実際の人種についても、国土内に存在する遺跡と同じく、各時代ごとに様々な人が流入し混在している。



これをもうちょっと判り易く言うと、

 ・トロイ戦争の舞台となった、とされるトロイアの遺跡はトルコにある
 ・ローマの神殿や住居跡もある
 ・ヒッタイトの首都もトルコ内にある
 ・アルメニア正教会の教会もある

→それらすべてが「トルコの遺産」として、トルコが管理している


宗教も文化も全く異なり、現在の"トルコ"とは直接つながっていないように見える遺跡・文化財が「トルコのもの」とされている、ということである。
これは、「国土」と「民族」と「文化」がほぼ一致しており、日本国内にある遺跡・文化財=自分たちのもの、と何の疑いもなく考えられる我々にはわかりづらい感覚だと思う。

例えば、だが想像してほしい。

縄文時代の人々、"縄文人"が現代の我々とはほぼ血縁関係になく、遠い過去に消え去ってしまった別の民族だった場合を。しかも、その縄文人の残した遺跡や文化はほとんど現代に繋がっていなかったとしよう。
それでも、縄文時代の遺跡や文化財は日本にある。ということは"日本のもの"ということになるのだが、我々はどう認識すればいいだろうか。

トルコの場合は、「それが発見された土地」を重視することで、トルコで見つかったのだからトルコのものだ、という解釈を一つの答えにしている。日本もおそらく同じ選択をするだろう。


しかし日本の場合は、まだ簡単だ。国民の大半は、民族や宗教の違いを意識することがない。大抵の人は「日本人」というアイデンティティを疑うことはしないだろう。

トルコの場合、「トルコ人」というアイデンティティはわりと最近になって創出され、しかもそれを均一に押し付けるためにキリスト教徒を追放したり、少数民族を弾圧したり、トルコ語以外の言語の存在を消そうとしたり、とかなりの無茶を繰り返してきた。その、無理をして作られたアイデンティティに対して、「トルコ的」ではないトロイアの遺跡のようなものを「トルコのもの」とする言い訳を捻りださねばならかったのだ。

これは、おそらくトルコだけの問題ではない。
「国土」と「民族」と「文化」が一致しない国、たとえば現代中国などでも起きているはずの問題である。中国の場合はトルコより民族同化政策の歴史が長いという違いだけだ。

文化財を、発見された国を基準として考えるのが現在のやり方。
だから、アルメニア人虐殺の歴史にも関わらず、アルメニア人が残したトルコ国内の教会は、トルコによって世界遺産として登録され、トルコに管理されている。

また、その国が所有権を主張するから、保存体制や管理が杜撰であっても、貴重な遺物を発見国にゆだねておかなければならない。この国の所有物と言うのが前提になってしまっているから、ダム建設などで破壊されるのも見過ごさなければならない。ここに「保護」の前提の限界がある。

その上、文化財は人類の共通遺産である、という前提と、発見された国の所有物である、という前提とが齟齬をきたしているのだ。



この本ではそうした問題点を洗い出し、それに対する解釈で様々な立場があることを明確にしている。
そして問いかけは、タイトルの「文化遺産は"誰"のものか?」へと帰結する。誰のもので、誰が"保護"すべきなのか。そもそも"保護"とは何を指すのか?

ここ最近になって顕在化してきた、文化財保護をめぐる問題に真っ向から挑んだ面白い本だと思う。


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おまけ

マラティア県から持ち出された、後期ヒッタイトのレリーフに対する返還運動。
現在はルーブル美術館にある。
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.jp/2017/08/turkey-eyes-return-of-hittite-kings.html

ドイツのペルガモン博物館にも返還要求出してるらしいし、ヨーロッパの大手はどこも関係してそう。
(それだけ略奪しまくって文化財を独占してきた歴史がある、ってことだけど)


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余談

過去に持ち出された文化財の返還要求はエジプトさんも頻繁に出してるんだよねー。。。
返さないと発掘の許可出しませんよ、とかの脅しもトルコさんと一緒のことやってて、文化財を政治の道具に使っちゃってるよね感がある。自国のものだからと囲い込んでしまったら、その文化財に対するアクセスは限定されてしまうわけで、人類共通の遺産ですよというタテマエから外れてしまうんだよね。

ただエジプトの場合は、過去に略奪されすぎた反動というのは確かにある。
また略奪して持って帰ったものを公共の博物館が財政難を埋め合わせるために勝手に売り払ってしまったケースなどもあるので、だったら返せやと怒るのも分からなくはない。

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