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zoom RSS 「利用される英雄」ジークフリート:利用したのは誰か

<<   作成日時 : 2017/08/03 00:10   >>

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最近また人気シリーズのアニメやってて、その中でジークフリートさんが召還されたり戦わされたりザコ死したりしてるっぽいのだが、そのジークフリートいつの時代のジークフリートさんなの? というお話から始めたいと思う。

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<基礎知識>

"ジークフリート"に該当する英雄には、大きく分けて北欧神話(エッダ・サガ)系ドイツ叙事詩(騎士文学)系がある。
北欧神話系のほうが古く、8世紀〜12世紀あたり。騎士文学としてエピソードが作りなおされるのが13世紀だが異教的すぎるとしてその後しばらくトレンドから外れ、再発見されてもてはやされるのが19世紀以降(ワーグナーのオペラ)などである。

メジャーな作品である 「ニーベルンゲンの歌」は13世紀ドイツの文学。
よく似た名前の「ニーベルングの指環」は19世紀のワーグナーのオペラ。

ちなみにオペラは主に北欧神話系を下敷きにしている。


各時代ごとの人物名の変遷は以下を参照 ※ただし綴りは微妙に違うものが多数ある
http://www.moonover.jp/2goukan/name.htm

エピソードごとの違いは以下を参照
http://www.moonover.jp/2goukan/differ.htm
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…というわけで、最近やってたアニメのジークフリートさんは「この中のどの時代のどのエピソードの人なんだよ」という話なのだが…ざっと見たかんじ、

・剣の名前がバルムンク
・ネーデルランド出身

というところからすると、当て嵌まる該当者は13世紀にしかいない。ただし後述するように、総合して考えると実際は近代に再現されたプロパガンダ要員のジークさんのほうである。


そもそもジークフリートはより古いサガ系の伝承では、「出自不明の外来者」或いは「オーディンが目的のために生み出した一族の子孫」のように描かれていることが多くて、はっきりネーデルラント出身と言われているエピソードはない。そして森の中で小人に鍛治仕事を教わって自ら作り上げる剣の名前も「グラム」である。
倒す竜は鍛治の師匠の実の兄で、実は兄弟間の相続争いに利用されていた…というのが竜殺しの部分のストーリーのシナリオである。

その剣の名前でバルムンクが採用されているからには出てくるジークフリートはドイツの騎士文学系のジークフリートを前提としたものでなくてはならない。(まあクラスがセイバーだし多分そうなんだろう…)

ただし、やってることからすると13世紀の「ニーベルンゲンの歌」のジークフリートとは相容れない。サガ系の伝説では、オーディンや師匠の小人、ギーヒヒ族などに利用されるだけ利用されて運命に翻弄されて死ぬだけだったジークフリートは、キリスト教影響下にある13世紀ドイツの作品では、ゲルマン的な悲壮な運命からは解放されて、自らの引き起こした行動の因果によって死ぬことになるからである。

とすれば、おそらくかのキャラクターの実体として最も相応しいのは、19世紀ワーグナーのオペラ、及びその後のナチスドイツに至る第三帝国の時代にさかんに再生産された「理想の英雄」としてのジークフリート像だろうと思うのだ。そもそも名前が「ジークフリート」と近代のものになっているし妥当なところだろう。



…とまぁ、クッソ長ったらしく難しく書いてるけど要するに、 あのアニメのジークフリートさん古来の伝承の人じゃなく伝承を再利用して近代に再生された英雄のはずやで。 ってことである。


エッダ詩のニーベルンゲン伝説も、ドイツ叙事詩のニーベルンゲンの歌にも、主要な登場人物たちには、実は歴史上のモデルがいる。詳細は↓の本あたりを見てほしいのだが…主要キャラであるジークフリートにだけは、実在人物のモデルが存在しない。

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細かいところ省いた概要は以下にも纏めた。
http://www.moonover.jp/2goukan/niberunku/charactor.htm



ジークフリート(古い伝承ではシグルズ/シグルドという名)最初からストーリーに使いやすい都合のよい"英雄"として、或いは父と設定されている別の英雄シグムンドの<対>あるいは<影>として作り出されたとも考えられる。

なので時代が変わり、ストーリーの意味が変わっていくにつれて、彼の役割も性格も、死の意味さえもフレキシブルに変えられていく。キリスト教化する仲で戦乙女との逢瀬も、両親の悲劇もオーディン神との繋がりも消え、剣の魔力も消える。わりとどうでもいい理由で殺されてフェードアウトして本筋は嫁が復讐鬼と化す話になってたりする。
竜退治のエピソードでさえ、中世も末期になるとジークフリートがさらわれたお姫様(クリエムヒルト)を助けに行ってカッコよく竜退治してくるだけの話に変えられてしまう。

とりあえずチートで強くてカッコいい理想の英雄像、として、各時代ごとに使いまわされてきた存在なのである。


その意味では、現代日本のアニメでも「とりあえずチートで強くてカッコいい理想」として使いまわされて使い捨てられていく姿は、伝統的なジークフリート活用法に則っている。しかもわりと適当な死に方するし。そんなところまで伝統に沿ってやんなくても良かったんじゃね…とも思わなくも無いが。

彼を都合の良い英雄として扱い、利用するだけして殺すのは、いつの時代も、それを望む民衆なのだ。


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と纏めておいたあとで、「実は現代にも生けるジークフリートがいるんだよ」という話をしたい。

紹介した「ニーベルンゲンの歌の英雄たち」という本(この本はクッソ面白くて電車乗り過ごして終点まで行っちゃうやつである)にも書かれているが、現代のジークフリートはジェイムズ・ボンドであるという。

礼儀正しく強く、強大な敵を打ち負かせる武器を所有し、湯水の如く金銭を使える。また女性たちを窮地から救い出しては恋に落ちる。決して死ぬことを許されない人気の英雄。その意味では、現代はジークフリートに似た英雄たちが次々と生み出されては使い捨てられてゆく時代なのかもしれない。


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「ニーベルンゲンの歌」をよむなら、B写本底辺の岩波文庫オススメです。
最近C写本底本の奴も出てますが、それはB写本を元に後世にキリスト教的な解釈てんこ盛りにしたあんまり面白くない奴です…。

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※この作品を読むときに重要なこと※

ジークフリート/クリエムヒリトが「良い側」、グンテル/ハーゲンが「悪い側」では無い、ということをまず念頭に置いてください。敵味方ではないです。

物語中、一切悪いことをしていない善人なのはリュエデゲールと、オブザーバーのディートリッヒ/ヒルデブラントくらいなもんで、残りはそれぞれ、何かやらかしてます…。
その「やらかし」が拗れに拗れて避けられない悲劇に繋がっていく、というのが名作たるゆえんなのです。

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