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zoom RSS また猫飼育の起源の論文「猫飼育は一万年前!」 →DNAだけではその証拠は得られない

<<   作成日時 : 2017/06/23 00:10   >>

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今年も出ました新しい「飼い猫の起源」の論文。

ここまで何度かネタにしてきたとおり、猫と犬の飼育の起源は人気ジャンルなので、毎年いろんな方向から論文が出る。末尾にここ最近書いた記事のリンクを置いておくので、「ああ、いまんとこよくわかんなくて毎年書き換わってるんだな」と理解していただけると幸い。このジャンルはそういうジャンル。

今回の論文は、結論から言うと目新しい結果は特になく、推測でストーリーを組み立ててしまっていてそこの部分がクローズアップされて各所で記事になっているという状態。「猫飼育は1万年前から始まっていた!」という説も、「近東で飼いならされたネコが農耕技術とともにヨーロッパに広がった」という結論も、この論文から結論付けるには根拠不足と思われる。


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【ここで前提となる注意点!】単に"飼ってた"のと"飼育化"してたのは違います。

ある動物を「飼育化する」とは、人間の手で繁殖させ、人の元で世代交代させられるようになることを言う。単品で捕まえてきたものをしばらく飼うのは、ペットとしてはアリかもしれないが「飼育化」とは言わない。

たとえば、ある墓からライオンの骨を抱いた女性が見つかった。だが、ライオンと人が一緒に埋葬されているからといってライオンが飼育化されたわけではない。高貴な人の死に際して捧げられた犠牲か、個人的なペットだったと考えるのが普通だろう。今回の論文で調査された猫の骨の大半は、このケースと同じである。

では数が多ければいいのか、というとそうでもない。
ある遺跡からは馬の骨がたくさん出てくるが、ほとんどが一定の年齢の牡馬ばかりだった。これは、人間が食用に馬を捕まえようとした際、立ち向かってくるのは群れを守る若い牡馬だからだと考えられる。つまり馬の骨は沢山出てくるが「狩り」の産物であり「飼育」はまだ始まっていない。

オスもメスも、子供も老齢のものも、全年齢が長い期間に渡って一つの遺跡から出土してくるなら、そこで飼育が始まっていたと考えてよい。

ただし、DNAレベルでの変動が発生するのは飼育が開始されてから長い時間が経ってから。
つまり、遺伝子解析だけでは飼育開始の根拠を得ることは出来ないのである。

種の起源地はわかるので、どこで飼育が始まったかの推定は可能。なので、その起源地のあたりを掘って考古学で証明するという作業が必要になる。今回の論文はDNA解析(ミトコンドリアDNAのみ)の話しかしてないので飼育がどこでいつ始まったかの話は出来ない。(根拠を示せない)

しかも元ソースの論文に「イエネコと野生ネコの遺伝的な差異が少なくてはっきりわかんない」と書いてある。なので単品としては今までに出た論文と大差なく、考古学的な証拠と組み合わせないと先へ進めないと思われる。

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<概要>

日本語記事だとこんなかんじ。

ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/062100235/

英語記事だとこんなん。

Ancient DNA reveals role of Near East and Egypt in cat domestication
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/06/ancient-dna-reveals-role-of-near-east.html

「ネコは新石器時代から人間を奴隷化していた」とかいうよくわかんないのもあったけど、そのへんのは飛ばしていいかな…。

<元論文>

The palaeogenetics of cat dispersal in the ancient world
https://www.nature.com/articles/s41559-017-0139

画像


5色で色分けされているのが野生ネコの亜種5種類の生息域。
下の表が分析された猫のミトコンドリアDNAで、黄色のリビアヤマネコ系統がヨーロッパのほうにも広がっていく様子が見て取れる。ただし分析したサンプルが少々偏っており、エジプトの初期のものや東アジア出土のものは入っていない。

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今回の調査は考古学的なサイトから採取した200匹の猫の骨から採取したDNAを解析してみたよ! というもの。
場所は近東、北・西アフリカ、ヨーロッパ(ヴァイキングの遺跡からも)。南アジアや東アジアが入っていないのがまず一つの問題点。去年出た論文だと中国で飼育された猫は独立系だとかいうのがあったのだが…まあ、とりあえずそこは置いておく。(末尾に参考論文を書いておいた)
調査された骨の年代は100〜9000年前、検査方法はミトコンドリアDNAに対するSTR検査法での分析。

* STRについてはツタンカーメンのDNA分析の時に調べた

で、結果として、今回の調査範囲では、5種類に分類されてる野生ネコの亜種の中でも一種のみ、リビアヤマネコの系統(African wildcat、またはFelis silvestris lybicaと呼ばれる)だけが飼い猫の祖先にったと思われる、というもの。

遺伝的な差異は非常に少なく、人が猫を意図的に品種改良した痕跡はない。また、犬の場合のように、飼育化するにあたりネコの本来の特性(見た目や生理学的・行動学的な特徴など)を変えていないように見える。
近東のほうがデータ的に先の時代のようだが、古代エジプトで大規模に飼育されていた猫たちが近東で先に飼いならしたものを輸入したのか、エジプトで独自に飼いならされたのかまでは、分析されたエジプトのサンプルが少なくて分からない。


ここまでは内容的にオッケー。

問題はここから。


■重要ポイントはイエネコと野生ネコのDNAがほとんど変わらなくて区別つかねぇ、という結論

そう、区別つかねぇ、ってさりげなく(?)言ってる。
ってことはそもそも調査方法が適切じゃないってことじゃないですかーやだー! なので全般的に、イエネコ(飼育下の猫)の話をしてるのか、たまたま人の居住区に連れられてきた野生ネコの話をしているのかが分からない。というか研究してる人も区別が付けられないまま進めているように見えた。


■人類がネコを意図的に飼いならしたのではなく、ネコのほうから人に近づいてきたのだとする根拠が不十分

日本語記事では強調されているここの部分だが根拠不明。DNA分析からだけではそんなの分からない。穀物の生産に伴い貯蔵をするようになるとネズミが増える、だからネコがおびき寄せられる、というのは、ちよっとムリがありすぎないか。野生のネコが勝手に人に近づいて来て、勝手に人に馴れる…? うーん。
考古学的な視点が何かあるかと思ったけど元論文にも出てこないようなので、ここは論文著者の考えた不確かなストーリーと見るべきだろう。


■飼い猫と野生猫の区別がつけられていない

繰り返しになるが、明確な区別は困難、というのは元論文でも触れられているのに、なぜか全部飼い猫のように扱われていると感じた。

新石器時代に確かにF. s. lybicaがヨーロッパに入っているのは判るが、それは果たして飼い猫なのか、野生のネコなのか。というかそもそも、この論文の「人が飼いならしたのではなく、猫のほうから人に寄り添った」という理論だと、人が連れていったのではなく勝手についていったことになり飼い猫ではなかったことになってしまう。

ちなみに人が飼育動物ではないものを船に積んで移動した例は、新石器時代の南アジアの島嶼地域で実例がある。食料にするためのブタやクスクス(フクロギツネ)を到着した島々に放して勝手に繁殖させた、というものだ。同じように、ネズミを取らせるつもりで野生の猫を移住地に連れてって放し飼いにした可能性も無くはないわけで、「意図的に飼育しようとした」のか「結果として人と一緒に広まっていったのか」の検討が不十分。


■猫を飼いならした時期の特定にはなっていない

考古学的なサイトから出てきた猫の骨を調査しただけなので、その骨が本当に飼育化の猫なのかどうかは分からない。
エジプトのミイラ猫ならまぁ飼い猫かなって思うけど、どこかの集団墓地からたまたま一匹出てきた骨が飼い猫なの? って言われると根拠が足りない。特に9,000年前とか古い時代だと。

で、最初に指摘したとおり遺伝的にほぼ差異がないという話なので、結論として、ミトコンドリアDNAの分析では飼いならした時期の特定にはなっておらず、分析対象が確実に飼い猫の骨だけだと言い切れない。にも関わらず前提として飼い猫として話をしているのは問題がある。

あと気になったのは、人が飼いならすことによって猫の本来の性質はほとんど変わっていないのだから、飼育下であっても初期には野生のネコと勝手に交配することもあった可能性である。遺伝的な差異が少ないのは、初期には野生ネコと飼い猫で交雑していたからなのではないかと。だとすると、イエネコという種が遺伝的に独立した時期と飼育開始の時期がかなりズレると思われる。




というわけで、全般的に旧説の追加証明にはなっているけれど新説としては論拠不十分、という感じがした。ネコ飼育の起源を辿るのならば、やはり考古学的な証拠とクロスさせないと確からしい結論には至れないかと思っている。

…たぶんまた、今年の年末あたりとか来年とかに、同じように猫飼育の起源をテーマにした論文が出ると思いますw


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[>参考 過去記事

エジプト人は知られているより早い段階でネコを飼育していた? 6000年前の猫の骨が発見される
http://55096962.at.webry.info/201403/article_26.html

 たぶんこれが英語記事で触れられている「6,000年前のエジプトの猫」のこと。

飼い猫の起源は中国!(一部のみ) 中国さんも起源を主張し始めたぞ。
http://55096962.at.webry.info/201601/article_28.html

 去年出た説。今回の調査はここらへんは入っていない

ネコ飼育の歴史が変わりました。飼い猫の起源は古代エジプトではないようです>反論説あり
http://55096962.at.webry.info/200907/article_13.html

 このあたりからムキになって飼い猫の歴史を追いかけはじめた。今読むと色々甘いところもあるがまぁそこはそれ

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