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zoom RSS 中世エジプトの「聖人伝」に見る社会の転換期。「コプト聖人伝にみる十四世紀エジプト」

<<   作成日時 : 2017/03/02 00:10   >>

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エジプトネタならだいたい何でも食います(`・ω・´)
今回は本屋で見つけた中世エジプト。

コプト聖人伝にみる十四世紀エジプト社会 (山川歴史モノグラフ)
山川出版社
辻 明日香

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この本はタイトルの如く「14世紀」のエジプトの土着キリスト教における聖人伝説を取り扱ったもの。
読む前に予備知識として持っておかないといけないことは、あんまりない。というか本の最初の部分でだいたい書いてくれているので、タイトルの小難しさのわりに入っていきやすい本だと思う。

とりあえず意識しておくといいのが以下。

・コプトは、いわゆる「東方教会」に属するキリスト教。
 カトリックとかプロテスタントとかいうのは「西方」。
 ローマ教皇を頂点とするのは西方教会で、東方教会には全体の統括はない
 エジプトのコプトはエジプト内でほぼ完結

=つまりこの本に出てくる「聖人」は、西方教会の認定した聖人とは違う。
 というか教会が率先して認定したものではなく、民衆が崇めた聖職者が聖人となるらしい


・十四世紀エジプトは基本的にイスラム社会。
 エジプトは「古代エジプト王国」が終了して独立を失ったあと、おおまかに次のような流れで現代に至る。
 ローマ支配→ローマ東西分裂後は東ローマ(ビザンツ)支配→イスラム支配→オスマントルコ解体後に近代国家として成立
 この本はイスラム支配の真ん中あたり、マムルーク朝時代がメイン

=コプトからムスリムへの改宗が強く推奨された時代にあたる。いわば時代の転換期。


この本は扱っている時代が珍しい。
エジプトの聖人伝だとキリスト教が入って来た初期の1世紀頃や、ローマがキリスト教を迫害していた4-5世紀あたりの殉教者の伝説はわりと研究を見かけるが、14世紀の大改宗時代のものはあまり見かけない。国内でアラビア語が優勢になっていく時代らしく、14世紀の聖人伝はコプト語からの翻訳ではなく、最初からアラビア語で書かれているという。登場人物の名前もイスラムの響きになっている。この本でも、あまり研究されていない時代だと書かれている。

が、研究はされていないものの数は意外とあるらしい。というのも、この時代に聖人伝が書かれたのは、改宗が求められコプト教徒が住みにくくなっていく時代において、信者をつなぎとめるためでもあったという。判りやすい理由である。

なお、本書で取り上げられている聖人伝説は以下のとおり。

 「バルスーマー伝」
 「アラム伝」
 「ルワイス伝」
 「ムルクス・アルアントゥーニー伝」
 「イブラーヒーム・アルファーニー伝」

あんまり…知名度は…ないかもしれない。ていうか初めて見た名前ばっかりだった。


これらの聖人伝は、読んでてなんかすっごくキリストチックである。"聖人"のイメージに沿うように書かれているせいでもあるが。(笑) 時代が違えば神扱いされてたんだろうなあ…とか、聖人伝説ってなんか仏教の修験者と似てるなぁ…とかいう感じで、妙にしっくりくる。教会が聖性を認めるとか関係なく、さまよいながら民衆の信仰を集めていくと聖人扱いされるようになる、という点などは、古代インドの聖者あたりと同じ。

ただエジプトならではというか、非常に特徴があって面白いと思ったのが「聖人の祈りでナイル川の水位が変わる」という伝説だ。

ナイルの水位は毎年夏頃に上昇する。水位の上昇は麦畑の灌漑と結びついており、十分に水位が上がらないと灌漑が不十分となり、塩害で収穫量が減る。主食の麦がとれないと飢饉や物価の上昇を招くので、エジプトでは古代から、ナイルの水位の上昇は人々の重要な関心事項であった。カイロ付近だと、ローダ島にナイロメーターというナイルの水位を測るための階段のような施設が残っている。

キリスト教が誕生する以前の古代エジプトにおいても、毎年の水位の上昇は神の仕業とされ、人々が祈りを捧げるものだった。時代が変わり宗教が変わっても、増水を起こす神の名前が違うだけで、神の仕業、祈りの対象。コプト的には「増水を起こすのはウチの神、ウチの聖人」。イスラムの神なんかじゃない、というわけである。渇水で飢饉になっているときにコプト聖人の祈りによって十分な増水がもたらされるという伝説がたくさん書かれたのは、古代からの伝統の流れの上にある。

またナイル川に捧げものを投げ込んで祈るというも古代エジプトからの伝統だし、ハリネズミの血やエンドウマメで病を治療するというのは、古代の医療パピルスのまんまの民間療法。14世紀エジプトにも、古代から連続する文化がけっこうみつけられて面白い。あんがい、聖人の夢枕に立っていたマリア様の正体は、装いを変えたイシス女神だったりするのかもしれない。

というわけなので、古代クラスタでもけっこう楽しく読める本だと思う。


****

尚、新潮社の「エジプト」(鈴木八司監修)によると、コプトからイスラムへの改宗の波は大きく二回あり、8世紀〜9世紀のアッバース朝が一度目、13-16世紀のマムルーク朝が二度目で、この二度目の波でエジプト国内のコプト教徒は少数派になったのだという。ただし現在でも、コプトは人口の10%程度を占める。この本には現代のコプトの祭りのことも出てきて、バランスよく紹介されており、古代から現代までがスムーズに繋がりで理解できるのではないかと思う。

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