現在位置を確認します。

アクセスカウンタ

zoom RSS オーディンは藍染めの服を着ていた…ヴァイキングの染料事情と翻訳のブレの理由

<<   作成日時 : 2017/02/11 00:10   >>

トラックバック 0 / コメント 0

ザックリ言うと、「オーディンの着ていた装備は青と黒の中間だが、本来の色が分からない」
だが、使用されていた染料からすると、おそらく藍染めと同じ"濃紺"であったはず、というお話。

画像
同じ染料から出来る色はさまざま。さて、どれがオーディンのマントなのか?!



発端は、ずっと黒だと思っていたオーディンの上着を「青」と訳しているテキストを見つけたことだ。

てっきり元の単語をどう訳すかのセンスの問題なんだろうと思いながら調べていたら、どうやら本当に元の色が判らないらしい…。というのも、青の染料がウォードであるらしく、つまりブルージーンズと同じ色素なのだ。濃く染めれば黒、薄ければ青、洗えば水色になる。ヴァイキング時代の衣服の現物で色が残っているようなものは無く、当時の染色法も不明なので、ぶっちゃけ「どのくらい濃い色だったのか」によって同じ単語でも変わりそうである…。


というわけで、どこで引っ掛かったのか、オーディンの服装の出てくる箇所を2つ挙げる。
ひとつは詩のエッダ、「グリームニルの歌」。

"男は黒いマントに身を包み、グリームニルと名のったが、きかれても自分のことをそれ以上何もいわなかった。"

"焔よ去れ。毛皮のマントが焦げる。はしょっても、焦げる。"


(谷口訳/エッダー古代北欧歌謡集/新潮社)


"「もうじき青いマントを着たひとりの男がくるはずです。その男に犬は決して吠え立てないでしょう。」"

"ある日、青いマントを着たりっぱな客が門を入ってきました。"

* マントが焦げるのシーンでは、マントの種類や色には特に言及されていない

(植田訳/北欧神話の口承/鷲の宮書房)


谷口訳は原典に忠実めに訳していて、植田訳は物語風に訳しているのだが、同じ詩の同じシーンである。


もうひとつがヴォルスンガ・サガ、オーディンがシグムンドに剣を与えに出てくるシーンと、その剣を自ら折ってシグムンドを戦死させるシーンである。

"彼は裸足で派手なマントに身を包んでいたが、片目で、大変に年をとって見えた。"

"しかし、戦いが最高潮にさしかかった時、黒いマントを羽織り、目の上まで帽子をずり下げた片目の老人が、戦闘中の両軍の間に割り込んでくるのが見えた。"


(グレンベック,菅原訳/北欧神話と伝説/新潮社)



"男のいでたちは、斑点模様の頭巾を被っているというあんばいであった。男は裸足で、足にはリネンのズボンを固く結んでいた。"

"戦いがしばらく続いてから、帽子を目深にかぶって青黒い上衣を着た男が戦闘の中に入って来た。男は片目で、手には槍を持っていた。"


(菅原訳/ゲルマン 北欧の英雄伝説/東海大学出版舎)



まさかの二箇所とも、全く違うという結果である。

探せばもっと色々出てくるが、例を挙げるほど同じ場面なのに随分違うということが判ると思う。ちなみに「北欧神話の口承」は昭和43年発刊のかなり古いやつなので、それ以外だとオーディンの纏っている装備は大体、「青黒い」か「黒い」になっている。

では、どうしてこんな違いが出てくるんだろうと、まずは「ヴァイキングの使っていた染料」を調べてみた。



まず一つ出てきたのがこれ。

Colors, Dyestuffs, and Mordants of the Viking Age
https://www.cs.vassar.edu/~capriest/vikdyes.html

染料についての資料が集められているが、青はおそらくウォードであろうと書かれている。
ウォード=藍の一種。藍染めについては、以前書いたとおりインディゴ成分を含む植物なら何で染めても藍染めになる。



日本ではタデ科の「藍」を使うが、コマツナギ(マメ科)でもインド藍(マメ科)でもウォード(アブラナ科)でも「藍」と同じ成分を含むので、色合いは微妙に異なるが、同じように藍染めが出来る。
こちらにも同じようなソースがあり、インディゴの栽培が北欧で行われていた証拠として、種子などが遺跡から出ているという。

Viking-Age Dyes:Evidence & Methods
https://sites.google.com/site/zoemcdonell/naturaldyeing

ウォードの生育限界をちょろっと調べてみると、寒冷な気候でも大丈夫なようで、発芽時に15度くらいの気温があれば寒さは-15度くらいまで耐えられるという。夏に種を撒けばノルウェーのベルゲンあたりでもなんとかなりそうだ。


で、これがヴァイキングたちの使っていた「青」の正体だとすると…もう判るよね…
インディゴの青=イメージしやすいところではブルージーンズの色。
かなり黒に近いやつもあれば、さわやかなブルーもあり、灰色っぽいのもあり…。

藍染めの色見本を見てみると、「黒」にしか見えない「かち色」も藍色の範疇に入っている。
黒から水色まで色々あるし、正体が藍染めだと分かると翻訳の解釈がブレるしかない理由に納得する。

画像



おそらく、無難な訳をしようとすれば「青黒い」になると思うが、「古い青いマント」とか言われた場合は、色が落ちてるだろうから「灰色」あたりになるだろうか。日本語に置き換えるなら「濃紺」か「藍」になるんじゃないかと思う。


なお、この色の翻訳の問題は、英語やドイツ語を通した重訳になるとさらに面倒なことになると思われる。
わかりやすいところでいうと、日本語で「あお」というと緑の場合と本当の青の場合があり、英語にどう置き換えるか。

 「あお葉=緑」
 「あおい空=青」
 「あお信号=??」←英語に訳すときblue派とgreen派で分かれる

みたいな。

単純に英語から訳すんであれば、元の単語に従えばいいだけなんだけど、多分それだと"偏った"訳になってしまうんだろう。



あと北欧文化圏での「色の意味」とかも調べたことないので、また今度手が空いたときにちょっと調べてみようかなと思う。

#また何年かかかるパターン
#海は広くて深い…



[>関連エントリ

ベーオウルフの翻訳あれこれ「ネイリングは灰色の剣なの?」
http://55096962.at.webry.info/201311/article_9.html

こちらも、同じ単語なのに訳す人によって剣の色や外見が変わってる、という例。
原典を複数種類揃えとかないと違いがあることにすら気がつかないので、あんがい翻訳書集めも役に立ってると思う。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

オーディンは藍染めの服を着ていた…ヴァイキングの染料事情と翻訳のブレの理由 現在位置を確認します。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる