現在位置を確認します。

アクセスカウンタ

zoom RSS 「皆、やることやったけど全然ダメでした!」という切ない結論→ 略奪されたメソポタミア

<<   作成日時 : 2016/12/08 00:10   >>

トラックバック 0 / コメント 0

2003年に発生したイラク国立博物館の略奪をテーマにした本。原著は2009年刊行。

今年になって翻訳出版されたのは、ISによるハトラ博物館の破壊という悲劇が繰り返されたからであるという。守れるはずのものが守れなかった、という悲劇の繰り返しとともに、「それを守ることにどんな意味があるのか」という問いかけがある。これは終わった過去の話を書いたルポタージュではなく、現在もなお続いている、悲劇的な破壊の連鎖をどうやって止めるのかというテーマの本である。

掠奪されたメソポタミア
NHK出版
ローレンス・ロスフィールド

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 掠奪されたメソポタミア の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


著者は誰か特定の人物や機関を槍玉に挙げて犯人扱いすることはしていない。(もし特定の犯人を挙げるようなつまらないマネをしていたら読むのを途中でやめていた)

「皆が自分の仕事をした」、のだが、連携が巧くいかなかった。或いは、もう一歩踏み出すことが出来なかった。もしくは楽観的にとらえすぎていた。その結果は、博物館の略奪、多くの貴重な遺跡の破壊という事象に帰結する。取り返しのつかない失態であり、しかもそれが起きたあともなお、更なる喪失を防ぐ有効な手段は講じられないままに時が過ぎていった。

世の中の悲劇というのは得てしてそのようにして起きる。判りきった話である。強いて言うならば、どれだけ貴重なものがどこにあるのかについて専門的な知識を持ち、アメリカ軍がイラクに進攻することによって起こり得る文化財の損失を予測できた考古学者たちが、あまりにも他人任せで動かなさ過ぎたことが不可解だ。軍人が遺物に注意を払わないのなんか普通だろう。ペンタゴンの反応が薄かったのも9.11の後なら仕方あるまい。判っていた人たちはなぜ動かなかったのか? もっとやりようがあったのでは? そこが自分は一番気になっていた。

(本の中では、文化財の保護が機能した例も出てくる――かつてのイギリスのオスマン帝国解体や、フセインのクウェート侵攻の話など。なのに、なぜアメリカは失敗したのか。)


おそらくアメリカを含む当事国がやらかしてしまった最大の失態は、この時、遺物の密輸ルートを潰せなかったことである。密輸業者がいて、密輸ルートがあるから、大規模な盗掘や略奪が起こる。そのルートは武器の密輸ルートと重なっており、遺物の密売によって得られたマネーは武装勢力の資金源となる。つまり盗掘が盛んに行われている国には、武装勢力が潤沢な資金を得ながら活動していける下地があるということである。

2003年以降、イラクでは盗掘がひっきりなしに発生していた。それはつまり、ISが世間で騒がれ始める以前から、台頭の下地が作られていたということである。「遺跡の保護は人命以下である」と軍に関わる人々は考えていたかもしれない。しかし遺跡の盗掘を防がなければ、武装勢力の拡大を止められず、ひいては人命を大量に失わせることになる。当時、そのことに誰も気がついていなかったはずはない。気づいていて警告は上がっていたのに必要な人に届かなかった、あるいは採用することが出来なかった。もしくは警告の内容が適切ではなかったのかもしれない。

いずれにせよ、これは現在進行形の問題である。
今やインターネット上の通販サイトにまで、シリアやイラクから出たと思われる印章や古代のコインが、お手軽な価格で出回っている。それを買えば、資金が銃弾や爆弾となり、誰かを殺すことになる。しかし買わなければ、歴史の闇の中に永遠に失われてしまうかもしれない。


質量的にも、内容的に重たい本だが、「本書を、文化財に関心をもつすべての人に捧げる」という訳者の巻末の言葉は確かであると思う。「なぜ文化財を守らねばならないのか」という問いかけへの答えを考えながら、一読してみる価値はあると思う。


*****
参考ニュース

イラク国立博物館が12年ぶり再開、ISの略奪行為に反発
http://www.afpbb.com/articles/-/3041108

画像


最近再開しましたが、その直後にバクダットで大規模テロが起き、今も断続的にテロが続いているので、観光に行くのはちょっとオススメしない・・・かな。


****










<ここからチラシの裏ですよ>

毒入りなので心臓の弱い関係者はソッ閉じしてください、いつものアレです。

私はね。エラい人の役目っていうのは、「いざという時に責任とること」「必要とあれば嫌いな相手にでも頭を下げられること」だと思っている。何、セップクにドゲザ? いかにも日本人的だって? じゃあさ、考えてみて貰いたいのよ。やむを得ず日本もしくは隣近所の国で戦争が始まりそうになったとする。その国の国土が空爆されそうで、博物館も爆撃対象に入るだろうし、外国軍が上陸してきたら略奪を受けるかもしれない。そんなシチュエーションを考えて欲しい。

その時、あなたは政府に前もって警告し、「貴重な文化財を開戦前に移動させてほしい」「可能であれば国外に退避させてほしい」と頭を下げてお願いできますか?



・・・出来ますか?




そこで「アベ政権なら戦争大好きだし本当にあるかもねww 悪いのは政府、アベシネ」とか「日本国の優秀な政府なら、そのくらいやるでしょ。何で自分が動かなきゃいけないの?」とか「国際世論がそんなの認めないでしょww 心配ないない」とか思った人、――あなたは、残念ながら失格である。まさにそれこそが、この本の中で、問題に気がついていながら何も出来なかった専門家たちと同じだからだ。「誰かを批判するだけで終わる」こと、「他人任せにする」こと、「楽観的な予測をする」こと。それは立ち止まるという選択肢である。それらは文化財の保護に何ら役に立たないどころか障害となり、取り返しのつかない喪失を引き起こす原因となるだろう。

イラクにアメリカが進軍しようとしていたとき、その結果引き起こされる喪失を予測できていながら、「世界中の」考古学者は、なぜ警告できなかったのか。起きうるとわかっていながら、なぜイラク国立博物館が略奪されるのを止められなかったのか。
自分に置き換えれば、その理由は分かるはずだ。
全く動かなかったか、電話でちょっと話すか、メールを送る程度で止めてしまったことも容易に想像がつくだろう。それでは駄目なのだ、ということを学ばねばならない。学べないのなら、同じ失敗が何度も繰り返されるだけだ。


"軍に遺跡の情報を提供しているというニュースが伝えられたとき、ギブソンは考古学者仲間のかなりの怒りに直面した。「アメリカ政府とは一切関わるべきでないと考えた人もいたのです」とギブソンは語る。"



"国務省に職を得る機会だというのに、考古学者の反応は拍子抜けするものだった。それは冷静に考えてのこと、つまり課題は遺跡を盗掘から守る方法なのだから、遺跡の保存について考古学に基づいた指導をしたところでほとんど意味はない、と率直に判断したのかもしれない。その仕事に興味を持てなかった原因は、軍人との協調に抱く、学者ならではの嫌悪感にもあると思われる。これに似たプログラムで人類学者チームを戦闘旅団に派遣したことがあったが、そのことによって、「お雇い人類学者」と一部の批判を浴び、故意でないにしても、そこからすべての人類学者がアメリカ軍の手先ではないかと疑われるようになったのだ。同様の流れになるのではないかと、考古学者は不安をあらわにしている。

さらに、さまざまな懸念ためらいを克服して、2003年にアメリカの手助けをした考古学者でさえ、イラクが悲劇に見舞われたあとは、みな背を向けてしまった。"



私は何も考古学者だけに問題があったといいたいわけではない。官僚にも、軍人にも、NGOやコレクターにも、それぞれの問題があったということが、この本の中では繰り返し述べられている。しかしこの辺境のブログに来る可能性があるのは考古学に関心がある人くらいなので、敢えてそこをターゲットにさせてもらう。

政府が嫌い、反戦、リベラル志向、愛国主義、保守、etc 大いに結構。人はそれぞれの考えを持つ。
しかしながら、必要な時に必要な相手に頭を下げられない主義主張ならクソくらえだ。文化財保護が本当に必要だと思っていて、失われた遺産が二度と戻らないことを理解しているのなら、自分のうっすいプライドなんぞ犠牲にして奔るべきではないのか。体面を気にして動けないのなら、文化財保護のタテマエなど所詮は口先だけの話で、我が身可愛さに勝るものではないということだ。

同じ過ちを繰り返さないために、越えるべき障害は沢山ある。その障害の一つを、果たして自分は乗り越えられるのか。他人事のように思うのではなく、どうか、それを考えてみて欲しい。

立ち止まるな、現状に不満があるなら前に出て戦え。
そういうこと。

</ここまで>

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

「皆、やることやったけど全然ダメでした!」という切ない結論→ 略奪されたメソポタミア 現在位置を確認します。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる