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zoom RSS 原著は文句なしの良書だが、日本語版は誤訳あり…「古代エジプト都市百科」

<<   作成日時 : 2016/10/25 00:10   >>

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エジプトの資料は、どう足掻いても英語での出版物の質量にはかなわない。
探してるものがどーしても英語しかなかったら、しょうがないのでなんか頑張って読んでみようとするもので、この本はちょっと海外にいったときに英語版を買って持ってたんだけど、いつのまにか邦訳が出てたので早速買ってみた。

古代エジプト都市百科 王と神と民衆の生活
柊風舎
2015-10-01
スティーヴン・スネイプ

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ピラミッドとか神殿の本は数多あれど一般民衆の暮らした町や「古代エジプトの都市とは何か?」という問題に切り込んだ本は珍しい。この本は、「町」 とそこに暮らす一般人がメインとなっている。都市の定義とは何か。都市を作るキッカケ、発展の要素とは何か。都市の種類、労働者の町・神殿都市・首都・要塞都市etc…

非常に情報量が多く、写真や図版も興味深い。


…のだが、後述するように日本語版はけっこう誤訳・不備がある
なので、余程の理由がない限りは、原著の英語を買うことをオススメする。それが英語苦手な人は両方そろえて怪しいなと思ったとこをチェックするか。

ちなみに日本語版は いちまんにせんえん+α もするのに、英語版はその1/3以下の値段である。
翻訳も手間なので訳者に報酬が支払われるなら仕方ないのかなーと思ったりもするけれど、わりとヤバめの誤訳入ってる状態でこの値段はやや承服しかねるところ。もっとも、複数人で訳しているようで、途中から突然文章が安定しはじめるので、たぶん訳者の中にちょっとレベル不足の人が混じっていたんだろうと思う。

監修の先生よろしくお願いしますよ(´・ω・`)

The Complete Cities of Ancient Egypt
Thames & Hudson
Steven Snape
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ちなみに「これアカンやろ」と思った部分の例は以下



★日本語版 P21

「農業労働者一人あたりの生産量は、確かな自然灌漑がそれほど必要でなく、より集中的な労働による農業方法であったメソポタミアの一人あたりの生産量に比べて莫大なもので」

これは「エジプトの農業の一人あたりの生産量」が「メソポタミアよりはるかに大きかった」という意味合いのところ。しかし「(メソポタミアでは)自然がそれほど必要でなく」と書いているのが意味不明だ。灌漑を必要としない麦作なんてメソポタミアには無いぞ(笑)


ここの部分は原著ではこうなっている。

「〜 in Mesopotamia, where the less reliable naturel irrigation nessesititated much more labourintensive farming method」

訳すと、「メソポタミアでは、自然灌漑が不十分だったのでより労働力を集約した農法を必要としていた」となる。つまり、「エジプトは自然灌漑が使えるので楽に莫大な収穫を得られた」「メソポタミアは自然灌漑がアテにならないので労働力でカバーするしかなかったが、それでもエジプト以下の収穫量だった」という意味。

これは、メソポタミアの河川の増水が麦の収穫前に起こるということを知ってると、より意味が理解できる。自然灌漑がアテにならないどころか、うっかり増水しすぎると収穫前の麦を全滅させてくれるんだから、そりゃエジプトのほうが収穫量は安定するし多くもなりますよっていう話。



★P23

「ネケンはナイル河西岸テーベの南80キロメートルに位置している現代のコム=エル=アハマル(赤い丘)で、古典期にはヒエラコンポリスと呼ばれた」

これは「古典期」という言葉に引っ掛かった。英語版ではClassical nameとなっている。そのまま訳したのだろう。――が、古代エジプト史に古典期なんて区分はない(あるとしたらギリシャとか…)。

実際は、「ネケン」が古代エジプト語名、「ヒエラコンポリス」はギリシャ語名。ヒエログリフが死語になり、古代エジプト語名が忘れられた時代においては、エジプトの古い都市はだいたいギリシャ語名で呼ばれていたので、それが「Classical name」と呼ばれたものの中身である。ほかには「テーベ」とか「ヘリオポリス」とか「レオントポリス」なんてのもぜんぶギリシャ語での名前。なのでここは「ギリシャ語名では」にしないといけなかった。



★P23

「エジプト統一期の最重要遺物を含む奉納品の驚くべき隠し場である『主要埋蔵所』で有名な巨大な初期神殿を発見したことは幸運以外の何者でもなかった」

ここで引っ掛かったのは「巨大な」の部分。ネケンで見つかった神殿跡は王権初期のもので、そんなに巨大じゃないのだ。むしろ後世のカルナック神殿あたりと比べるとしょっぱいくらい狭い。なので原著のほうを見てみたが、「巨大」に該当する単語がなかった。

「major early temple,which is most famous for 'Main Deposit' 〜」、どこを見て"巨大"としたのかはよく分からない。



★P25

「紀元前4000年までに廃墟となったこの新石器時代の町は」

いきなり新石器時代とか出てきて何じゃこりゃ状態。古代エジプト史で新石器時代とか青銅器時代とか、あんま使わないよね…。まあ確かに紀元前4000年はまだ青銅器使われてないので新石器時代ですけども。原語では「Neolithic」、確かに新石器時代ではあるのだが、前後の繋がりからするに「いにしえの」あたりに訳したほうが良かったんじゃないのかな。

ただ、この一箇所だけだったらそんなに気にならなかった。
次に続くのが

「新石器時代の占有期後半の家屋は、立派な作りで、地下部分もあり、〜」

という文章だったから引っ掛かった。「占有期後半」って何やねん(笑)
これは訳してる段階で気がつかないとおかしい、まず占有期って何。あれだよプログラミングするとき使いたいClassは予め宣言しとかないと変数として使えないだろっていうのと一緒だよ。宣言されてないクラス変数は使っちゃいけません。

ここの部分は原著で見ると

「The houses of the later phase of occupation are substantial,partly subterranean〜」

となっていて、たぶん「later phase of occupation」をそのまま「占有期後半」にしちゃったんだと思う。
だが、ここは単語の意味だけ拾えばいい場所ではない。既に出ている年表の時代名を使わなければならない。本の中で変数(時代名)が宣言されているのはP16。紀元前3500年からは「先王朝時代後期」とされているので、書くなら「先王朝時代後期以前」だ。
「先王朝時代後期以前の定住期の後半の、町が出来上がってくる頃にはしっかりした家が作られ始めていた」という内容にしなければならない。

意味と前後関係を見ずに単語だけ訳そうとすると良く分からないことになるのは当然だ。これは監修者の見落としだろうな…



…というカンジで、最初のほうにかなり集中して「??」な部分が固まっている。途中から文章にひっかかって読み止ることがなくなったのは、自分が面倒くさくなったからなのか、途中から翻訳担当が替わったからなのかはよく分からない(笑) とりあえず、「明らかな誤訳も混じっててちょっとヤバい」ということが伝わればいいなと思う。

毎度厳しいなとは思うが、せっかく内容もよく、エジプトマニアにオススメしたいと思っているのに、値段はクッソ高いわ、内容も間違ってるわでは、オススメしようにもしづらいじゃないかという、こちとらの腹立たしさもお分かりいただけるかと思う。

内容は非常に良い。ていうかエジプトスキーならぜひ一度読んでみてもらいたいくらいの本だ。原著は。

日本語版は、翻訳本が安定している東洋○林さんあたりに出して… もらいたかっ… t




お高い本なので、とりあえず図書館あたりで中身見て欲しいと思ったら買うことをオススメする。とりあえず、図と写真は原著のやつがそのまま使われている。
多少なりと英語わかる人は、英語版にしたほうがいいです。

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