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zoom RSS 公開中映画「キング・オブ・エジプト」は、エジプト神話が題材と見せかけて実はエジプトじゃない。

<<   作成日時 : 2016/09/16 00:10   >>

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ずっと感じていた違和感の正体にとりあえず思い至ったので書いておこうかと思う。
えー、現在公開中の映画「キング・オブ・エジプト」、エジプト神話モチーフということになっておりますが、これ

 エジプト要素ほぼ皆無です

これが違和感の正体でした。
冒頭のナレーションと映像、キャラの名前を除けばエジプト要素はほぼありません!! 背景映像、建造物、衣装、武器、言動、植生、食事やアクセサリ、家具などの小道具に至るまで、全てにおいて エ ジ プ ト で は あ り ま せ ん 。

ちなみにストーリーも、神話とは全くの無関係です。
セト神とホルス神が王位を巡って争う神話はエジプト神話の中に存在しますが、その神話と映画のストーリーは全く違います。 ていうかむしろ要素すら無かったよね。

気づいた時には自分もちょっと衝撃を受けました。というわけで順を追っていきます…

 

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注意! この先は直球でネタバレしています。

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●ストーリーがエジプト神話ではない理由

「セトとホルスが王位を巡って争う神話」のあらすじを知らない方は、めんどくさいのでこっちで読んでください。

まず神話では、セトがオシリスを殺害するのはホルスが生まれる以前でございます。
で、オシリスの妻イシスはセトの追撃を逃れながら夫の忘れ形見であるホルスを育て、成長したホルスが父の遺産の相続権を主張して法廷で叔父に挑む、というのが基本的なストーリー。もちろん法廷だけじゃなく各々の神についた陣営でのバトルなんかもあったりするわけですが、ファラオがホルスの化身であるという前提上、ホルスはあくまで「正々堂々と」正当な王位継承の権利を主張し、セトの偽りの権威を剝がしてゆかねばなりません。というか、それが神話の主題です。

しかし映画では、ホルスは一人前に成長しているにも関わらず目の前で父オシリスをぬっ殺されるというマヌケぶりを発揮し、さらにコソ泥と組んでコソコソしながら戦い、ほかの神々を味方につけることも出来ず果たして王の資格があるのかどうか疑問な状態のままエンディングに入るので、神話にはあった「正当性」や「王の資格」の要素が皆無です。なのでこれは神話とは全く別のストーリー、キャラ名だけを使った別物ととらえないと理解出来ないんですね…。

父を殺され追放された王子が、玉座を取り戻すために仇の叔父と戦う、なんていうストーリーは、べつにエジプト神話じゃなくても世の中にゴロゴロあるんですよ。絶望した王妃が発狂したあげく死んでるとか、追放された王子には町のコソ泥くらいしか味方がいなくて絶望的な戦いを強いられるとか、たぶんこれエジプト神話じゃなくギリシャ悲劇あたりの筋書きじゃないかな…



●背景・世界観はエジプト要素皆無

そもそもエジプトらしい背景のシーンは数えるほどしかないです。

オープニングで流される、川の中州に巨大ピラミッドが聳え立つSF的なシーンなんかはハリウッドでよくある頭の悪いファンタジーエジプトなのでアッハイって感じなんですが、ファンタジーでなくてもよい部分は、色んな時代からの切り貼りとなっておりました。

まず序盤の高級ベッドや神殿、大理石風呂あたりはローマですかね(笑) それかオスマン・トルコのハーレムあたりかも。
盗賊のカノジョが奴隷として働かされてる建築家の家はギリシャ風、ちなみに二頭立てチャリオットが登場するのはエジプトでは新王国時代から。
途中の戦闘シーンではボウガンやら投石器から出てくるので中世ヨーロッパ。
砂漠のシーンはゴビ砂漠って言われても納得するし、どこのグランドキャニオンだよ的な岩の谷間を歩き、どこのエンジェルフォールだよ的な滝からダイブし、どこのアマゾンだよ的な森を抜けてトト神に会いに行き、そこはかとなくニューヨークの摩天楼的なステージでラストバトルとなります。オベリスクはオベリスクって名前がついてるだけで、べつにエンパイア・ステート・ビルって名前でも違和感ないです。

神話時代エジプトだという設定ですが、その設定を納得させるだけの力は全くありません。世界観的には、「エジプト風の異世界」と言ったほうがしっくり来るレベル。ぶっちゃけて言うと、ナポリタンに炒りゴマぶっかけて「和風パスタです」と言ってるくらいのもんでした。逆にエジプト要素を探すほうが難しかった…。

これはリサーチ不足とか、史実と比べておかしいとかいう話ではなく、「コンセプト間違えてないですか?」っていうレベル。


●その他の神々が不在

セトとホルスの争いに、冥界の話(死者の書の要素)とラー神とアポピスの戦いをねじ込んで来てたんですが、おかげで全てが中途半端。一番の違和感は、「その他」の神々が全く姿を見せないこと。太陽の船(なぜか宇宙空間に浮かんでて、ここもエジプト要素皆無)にラーしか乗っていない、という改変は、CGの手間を省きたかったようにしか見えなかった。エジプト神話のウリは、なんか背景にいっぱい神様いるよー! っていう描きこみなわけなので、ここも元の神話とは間逆の方向。

アポピスは原初の水に棲むという混沌の大蛇で、太陽を飲み込もうと襲ってくるので太陽の船に乗船している神々が全力撃退することになってるわけですが、映画の中ではラー様一人で黙々と戦ってて船に乗船している神がほかに全くいない(笑) ていうか、ほんとはセト神もアポピスと戦う神の一柱なんですが… なんでアポピスと一緒に世界滅ぼそうとしていたのか意味が分からない。セトには創造の力は無いので、世界が破壊されたら自分も一緒に終わるのでは? 自殺したかった…?

ネフティスがセト神に反旗を翻すシーンでも、なんと! 広々とした広間にネフティスただ一人がいて、仲間の神々は全く出てこない。大軍がぶつかり合うみたいなシーンはほんの一こまだけ流れたけれど、誰と誰が味方になって、誰が敵だったのかもさっぱり分からない。「その他の神々」は不在。キンキラの背景に数人だけ動き回って、ちんまりとしたシーンを無理やり豪快なアクションで埋める、という繰り返しが、この映画の中の大半です。



●キャラ(神)は名前のみ

オシリス・イシス夫妻とホルス、セト・ネフティス夫妻、知恵の神トト、ハトホル、ラー…
このあたりがメインで出てくる神様ですが、練りこむまでもなく元の神話でキャラがバッチリ立ってるにも関わらず、元神話から大幅改変をしたせいで全くキャラが立たないか、支離滅裂なキャラになってしまってました…

まずオシリス神は豊饒神で冥界神ですね。
神話ではホルスが生まれる前に冥界に下っていて、そこの王となっているのですが、映画は映画冒頭で殺されてそのままフェードアウト(ギャラが足りなかったんすかね…)なので冥界の王として登場するシーンが一切ございません。なのに冥界のシーンが出てきて、「ちょっとまてこの冥界はオシリス様なしでどうやって運営されとるんや」と違和感が出ます。案の定、冥界での裁判のシーンや冥界のルールがムチャクチャです(笑)

アヌビスたんに全部やらせるとは思わなかった…。


オシリスの妻イシスは、神話では息子ホルスをセトから守り育てる「強き母」にして教育ママ、さらに息子を勝利させるために魔法も人脈もフル活用する怖いお方、ラー様ですらタジタジ、…のはずが、映画では夫の死に絶望して自殺するという元の神話ではありえない行動に出て序盤でフェードアウト。いや、残された息子はどうするんだよ、息子を置いて自殺とか意味わかんねえよ。


セトはセトで王になりたかったと見せかけて実は子供が欲しかったかつ父親のラーにも認められたかった、愛してくれる人も欲しかった、でも全部どうでもよくなったので世界を滅ぼそうとして最強の力を手に入れたはずなのに片目のホルスとちょっと殴りあっただけでアッサリ負けました、とかいう感じで…アッハイ…的な。まあ後先考えてない筋肉マッチョの俗物って言えばそれまで。荒野の神とか破壊の神とかの要素出てきたっけ? みたいな状態。ベッドでアーンしてた以外に記憶に残る場面もなく、王らしくしているシーンはなかった。


ホルスは、神話では母イシスの力を借りて少年から大人へと成長していくんですが、映画ではその母が早々に退場してる上、もはや少年でもない老けた年齢から開始してしまうので成長要素が消えてしまい、かわりに何故か「人間との友情」だの「民を思う気持ち」だのが学習要綱入り。でもそれ別に神じゃなくても、ていうかエジプト神話の神々の戦いでやらなくてもいいテーマだよね。

全然味方の神がいなくて人望ないんだなって思ったけど、最後までコイツを王にしていいのか状態のまま終わりましたしね…。戦いを通じて多少の成長を見せたのが唯一の救いどころでしたが、エンディングは国をほっぽらかしてどこか行ってしまったので、それまでの成長を全て台無しにした最後まで残念な子でした。ちなみに天空の神という設定でしたが、どこらへんが天空だったのかは良く分からないままでした(笑)  飛べるから? まさかね。



ネフティスはイシスの姉妹という設定が出てこず、かつ、夫と別れた理由も出てこなかったので、なんかよくわかんないけど夫の種なしを責めるだけの嫁になってました(笑) 元の神話では、姉を助けてホルスを守り育てるもう一人の母の役なんですけどねぇ。そんな…設定は…そもそもホルスとの会話シーンすらなかったんですが…。



トトとハトホルは、本来の神話ではセトに傷つけられたホルスの眼を癒し(だが片目は完全に癒えず、不完全なままとなる)、序盤の味方となってくれる重要な神のはずだったのですが、トトのほうはホルスの教師だったという設定にも関わらず教え子は放置で自分だけの保身に走り、ハトホルのほうはセトのベッドで足を開いてアーンしてるエロシーンからのスタートなので最早どうでもよく、後半で「私はホルスを愛している」とか突然言い出すのでコーラ吹きそうになりました。いやwww
さっきめっちゃ濃厚なキスして喘いでましたけどwww ただのビッチ。


ハトホルが西方(死後の世界)の女神なのは、彼女の体現する愛が母性であり、生物が根源的に求めるものだからなんですよ。象徴動物が雌牛なのも、子牛に乳を与える母性の姿からです。元の神話では。それをヴィーナスやイシュタルと同じ愛の女神、すなわち「性愛の女神」と解釈変えしてしまったせいでこうなっちゃったんだと思われます。要するに「愛」の中身が神話とは違うってこと。


トト神は、神話では終始一貫してホルス陣営に立ち、ホルスの強力な弁護人でもあるんですよ。それは秩序を重んじる神々の書記官の立場ゆえでもあるわけですが、映画ではそんな立場の表明全然無かったですね。知恵の神がなぜ「知恵」を重要視するのか、何のために知恵を守るのか、という理由づけが神話からスッポリ抜け落ちちゃったので、まぁそりゃ、ああいう面白キャラにもなるわ。
そういや月神要素もなかったなぁ。

ハトホルもトトも、ホルスの眼を癒すイベントは無く、辛うじて助力や助言のシーンはあったものの、別にいなくてもいいよねくらいのレベルだし、絆とか信頼とかいった雰囲気も無かったです。。。



ラー様は、「セトよりアポピスのほうが邪悪だもん」と言った後にセトにブッ刺されたり、愛していると言った息子を焼き殺そうとしたり、「世界はワシのもの、ワシ最強」な発言をしながら宇宙空間にポイされると何も出来なかったり、言動の不一致というか、映画の前半と後半で設定統一されてなくて、ちょっとボケてきてるんじゃないかと心配になるくらい。まあそれはそれで神話どおりなんですが。。。
ラーは太陽そのものであり、ラーが消えると光もなくなってしまうので、元の神話では神々がラーを殺そうとするようなシーンはありえず、セトですらアポピスに飲まれそうになるラーを助ける立場なんですが、そういう設定全部吹っ飛んでましたね。

ちなみに大地の神ゲブとか天の女神ヌトとかは掠りもしなかったです。ヘリオポリス九柱神は揃わなかった。


さすがにここまでキャラも設定も違うと、もう名前だけの別物って言っていいんじゃないかな。一致する点を探すほうが難しい。





というわけで、あらゆる意味で エジプト神話が題材の映画じゃなかった です。

実体は、微々たるエジプトテイストのあるファンタジーSF映画ですので、元ネタの面白さが分かってしまう人ほどオススメしません。元からの改悪に頭抱えると思いますんで。


元のエジプト神話の骨子を残してそのまま映画化してれば、おそらく名作が出来たと思う。それだけのポテンシャルのある神話だから。ホルスの幼少期からの成長ストーリーでよかったんじゃないの、なんで人間の盗賊なんか出した… と、ほんとに人間カップル要らなかったよね(笑) ただ、その盗賊がキャスト一覧で一番上に来てるってことは、監督が描きたかったのは神々を出し抜く人間の賢しさなんでしょう。多分そこからして選択肢を間違えたんじゃないかと。

原典の神話のキャラがめちゃくちゃ濃くてストーリーも完成度高いのに、そこに、元ネタの何もない人間キャラを創って、主人公に見せないといけない。となると、バックボーンのない新キャラはそう簡単に濃く出来ないので、ほかの神話キャラを薄くして相対的な存在感を上げるしかないですからね。


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[>先ごろ、地雷と薄々感じながら公開直後に見に行って、予想通りのシロモノを目の当たりにしてしょんぼりしながらか帰ってきた時の感想はこちら

私の感想としては、面白い面白くないとか以前に、「この映画が何をしたかったのか全くわからん」というのと、「キャストとスタッフが勿体無い、どうしてこうなった」でしかないです。勿体無い…。



なおこの映画、アメリカでは大コケしてイギリスでの公開は中止になったそうです。まあうん、そうだよね。ぶっちゃけマッチョが殴りあうだけの映画なんて山ほどあるし、ストーリーも世界観もキャラも音楽もダメなら売れる要素ないしね。

日本では吹き替え声優を売り出したいようなのでバンバン宣伝売ってて、なぜか字幕に吉村作治が協力してますが…。エジプト関係者に先行上映の招待もあったとか聞きましたが…。まあ、なんだ。ばら撒いたぶん回収できるといいっすね…。

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