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zoom RSS 世界各国のナウい事情が一通り分かる。「イスラームと文化財」

<<   作成日時 : 2016/05/20 00:10   >>

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イスラームと文化財というタイトルから「どうせ中東の話しかしてないんだろ…」と思ったら見出しにアジアやヨーロッパ(バルカンなど)も入ってたので、ほほうと思って手にとってみた。あまりよく知らない国のことも沢山出てきたので面白かった。

イスラームと文化財
新泉社

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まずこの本のいいところは、去年出たばっかりなので、ISによる遺跡破壊や革命後のエジプトの事情など「旬」の話題も多く入っているところ。ちゃんとニュース見て現状を把握して書いてるなあ、というカンジ。「現代」から切り離された考古学って意味ないと思うんですよ。考古学って結局、昔の歴史をやってるだけだと思ってるので。現代というのは、出来事は起こった先から「歴史」になっていく。現代の新しい歴史と古い歴史は、単に時代が違うだけで繋がってるし、同じ土台の上にあるものだからね。

次にいいところは、「イスラムはなにも他の宗教に非寛容なばかりではない」「文化財は大事」みたいな、ありきたりのタテマエだけで終わらせていないところ。各国ごとに担当著者が別れていることもあり、わりと赤裸々に、おそらく現実に近いんだろうなと思わせてくれる内容が書かれている。

たとえばエジプトの項では、「考古学の発表はたいてい英語など他国の言語でされるので、地元のエジプト人が学ぶことが出来ない」などと書かれている。これは確かにそうだと思う。最低限、英語が出来ないと情報が得られない。発掘しにいってる他国の考古学者たちが、地元民のために説明会を開いている話なんて聞いたことがない。アラビア語でのエジプト学習本があるのかすら怪しい。それじゃあ地元民は、遺跡を観光客呼ぶための資源くらいにしか考えないよねぇ…って感じである。
文化財保護は地元の人の協力がないと不可能なので、今後は地元民への知識の還元も必要になってくるだろう。これは、外野から眺めてるだけの立場からは見えにくい視点だと思う。

アルメニアとトルコの国境近くにある遺跡が国際問題になりかねない、という話などは、ああ、いわれてみればそうだな…って思った。トルコさんはかつてアルメニア人を虐殺して追い出し、今の国境線を作っている。その土地にはアルメニア人の残した遺跡がある。優れた観光遺産なのでトルコ的には売り出したいが、その土地にかつてアルメニア人が暮らしていたことは消し去りたいのだ。
しかし、その遺跡を「アルメニア人のものだ」と言ってしまうと、トルコ的には破壊するしかなくなる。現在の国境と住民が一致しないケースなど多々ある。現在住んでいる民族と作った民族が違うからといって文化遺産を放置されると、保護など出来なくなってしまう。
これも難しい問題。基本的には今その土地が属している国が管理するのが当たり前だと思うが、敵対民族の遺跡だったり、宗教違ってたりするとやっぱ難しいところはあるんだろうな…

そんな難しさが現実に文化遺産の破壊に繋がったというのがボスニア・ヘルツェゴビナの紛争、いわゆるユーゴスラヴィア紛争。多民族国家であったユーゴスラヴィアが解体されるとき、内部にいた主要な三民族が互いに疑心暗鬼にかられて殺しあった20世紀最後の悲劇的な戦争だが、この戦争では、自分たちとは異なる民族の作った遺跡や遺産、ランドマークなどを優先的に徹底して破壊している。そうすることで、それぞれの民族が単独で住む「国」を作ろうとしたわけだ。
これは文化遺産の重要度を理解していたからこそ起きた破壊行為だと説明されている。
たとえばこういうことだ。大阪人と愛知人が共存する三重県という土地があったとする。大阪人と愛知人の間に戦いが勃発し、三重に国境線をひくために三重の大阪寄りの土地にあった味噌カツ屋がすべて破壊され、愛知寄りにあったタコヤキ屋がすべて燃やされる。そして戦争終結後、再びそこに異なる民族が住むことのないように、味噌カツ屋跡もタコヤキ屋跡もすみやかに更地とされてしまう。
これは、以前ユーゴ紛争を調べていた時にも出てきていなかった事象なのでびっくりした。というより、そういうこともあるんだなぁ…と呆然とした。

文化遺産ってのは、そこにある「歴史」が存在したことの証明でもある。
それを壊すということは、「歴史」そのものを消し去ろうとする行為になる。

もしかしたら、情報に溢れる現代においても、あるものを"存在しなかった"ことにするのは意外に簡単なのかもしれない。そう思うと少し暗澹とした気分になる。徹底的な破壊と忘却、誰も語らなくなれば、興味を抱かなくなれば、存在は消え去ってしまう。ユネスコなど本当は無力なものだ。結局は、地元民が守ろうとしなければ何も未来へ繋げることは出来ない。


あと、近年ではイスラム過激派が多いせいもあってこの本ではイスラムに焦点が当てられているけれど、宗教がらみで遺跡や文化財の破壊をやらかしたのはキリスト教も仏教も一緒だからね。宗教が原因なんじゃない、他者を極端に排する思想は、それが何という名で呼ばれるのであれ、破壊に繋がるんだってことは忘れないようにしたい。



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