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zoom RSS ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(1) STR検査法とその使い方

<<   作成日時 : 2016/04/22 00:10   >>

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まず元ネタになるのは以下の論文である。

Ancestry and Pathology in King Tutankhamun's Family
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=185393#

2005年から行われていた、ツタンカーメンの遺伝子解析の結果を2010年にまとめたもの。
エジプト考古学者で権力者(※1)Zahi HawassがFirst autherとなっているが、発表先はアメリカの医療誌。考古学の内容が多く、肝心の解析内容にあまり詳細が無いのはそのためだろうか。

なお、今更断るまでもないと思うが中の人は考古学・遺伝子学ともに専門ではないので、専門家であることや肩書きをもっと信用の条件とする人には時間の無駄なので、回れ右して帰ることをお勧めする。「誰が言ったかではなく、何を言ったか」を重視する人には、面白そうなら先に進んでもらいたい。

※ "権威者"でもあるが、ここでは誤字ではなくそのままの意味である。



この論文には、当初から他の専門家からの疑問が様々な切り口で噴出していた。
同じJAMA掲載分の中でも例えば以下が見つかった。

King Tutankhamun’s Family and Demise
http://anothersample.net/king-tutankhamun-s-family-and-demise

この論文では、古代人のDNAの検出に疑問を抱いており、近代の汚染(コンタミネーション)を疑っているようだ。
先に挙げたハワスの論文では、解析結果は解析に関わったスタッフいずれの遺伝子型とも異なるため汚染は無いはずとしているが、果たして、関わったスタッフすべての型を本当に調べたのだろうかという疑問が残る。そして今回関わったスタッフ以外に、過去にミイラに触れた様々な人間の遺伝子が、汗や唾など様々な形態でサンプルを汚染する可能性があった。そして、この実験で解析の"品質管理"に問題があったことは、確実と言っていいと思う。

なぜなら、解析の模様をショーとして放送したナショナル・ジオグラフィックの番組の中で、サンプル取得時にマスクもつけずにミイラの側にいたスタッフや、サンプルの入った容器や機材を素手で扱うスタッフの姿が流されてしまったからである。中の人の処理能力と英語能力が足りなくて細かいところが理解できてないので、読み解ける人はじかに元論文を読んで欲しい。
この下は、自分に理解できた範囲で処理した内容に過ぎないからだ。


まずは、「そもそも今回の分析で用いられた分析法はどうなものだったのか」というところから。
キーワードは「microsatellites」と「PCR」である。

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●STRという検査法

STR検査法(STR型検査法/STR法)とは、簡単に言うと特定の遺伝子領域での塩基配列の繰り返し回数を数えることよって親子鑑定をする方法である。鑑定キットやガイドラインが制定されており、日本でも相続裁判などて使われている。マイクロサテライトはこの検査法で使われる塩基配列の繰り返しの中でもより短いものを指す。

ネット上に日本語でなかなか分かりやすい資料があったので紹介してみる。

DNA鑑定のしくみ
http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~kkucho/files/DNAkantei.pdf

STRに関する記述は17ページからだが、最初から読んだほうがわかりやすい。短くて読み文章なので、とりあえず最初から読んでみることをおすすめする。この検査法は、ヒトの染色体の中で同じ塩基を繰り返す部分を用いて、その繰り返し回数を比較するという方法である。鑑定に用いる繰り返し部分には「ミニサテライト」と「マイクロサテライト」があるが、名前のごとく「マイクロサテライト」のほうがリピートユニットは短く(全体の長さが100塩基〜400塩基程度)、鑑定が容易である。

判定に使われる部分領域のことを「ローカス」、その中で個人差が出る繰り返し部分のことを「アリール」と呼ぶ。
ひとつの「ローカス」の中には、父と母から1つずつの「アリール」が遺伝される。


という基礎知識の元に、最初に挙げたツタンカーメンを含むミイラのDNA解析結果の表を見てみよう。
表の読み方は、このようになる。

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おお、一致してるじゃないか! と思ったあなた、…実はこの検査方法にはひとつ重要なポイントがあるのだ。「偶然一致する可能性もある」というポイントが。
塩基の繰り返し回数には、出現するパターンが決まっていて、無限ではない。そして、「DNA鑑定のしくみ」のPDFを最後まで読まれた方なら分かるだろうが、集団によってパターンの出現率が異なっているのだ。

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たとえば、一致しているように見える「D13S317」という領域で、古代エジプト人の中に塩基が12回の繰り返すパターンが出現する確率が50パーセントだったとする。そうすると、2人に1人は結果が12になるはずだから、一致しても血縁の根拠にならない。

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よって、この検査方法には以下の手続きが必要となる。

 ・無作為なサンプリングによって、その集団における各パターンの出現頻度を計測する
 ・対象者と両親と疑われる人物それぞれのDNA情報を複数染色体のローカスで解析する
 ・解析結果のパターンを比較し、
  偶然一致する可能性を除外して、親子関係の確からしさを計算する

最初に挙げた「Ancestry and Pathology in King Tutankhamun's Family」の論文では、各人の分析結果としてのアリール型は提示されているが、確率計算の根拠が示されていない。厳密には、出来ないのである。なにしろ古代エジプト人のミイラにおけるアリール型の出現頻度のサンプルを作ってないのだから…。

論文では、検出されたアリールすべての一致をもってKV55のミイラがツタンカーメンの父とする確率は確実としている。同じ時代の王家に属するミイラであるということからして赤の他人の可能性は元々低いので、状況証拠とアリールの一致をもって血縁関係を推定すること自体は問題なさそうだが、それは今回の調査だから言えることだ。本来この検査法は、アリールが一致することによって答えを出すのではない。あくまで偶然一致する確率を除外していって、確からしさが一定を越えたことをもって結論とするという手法なのだ。

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(出典元「最新DNA鑑定 その能力と限界」/名古屋大学出版会)


各領域(ローカス)におけるアリールのパータン出現頻度は、集団によって大きく異なっている。
たとえばTH01というローカスでは、「9.3」という中途半端なアリールと「10」というアリールが出現するが、このアリールは両方あわせて日本人では4.3パーセントしか出現しない。しかし欧米系の白人では29.1パーセントも出現する。日本人でここの領域が一致すれば、親子である確率は高まるが、欧米人であれば、3、4人に一人の割合で出現する型なので親子である確率は高まらない。

理論上、親子の一致度は50パーセントとなるが、赤の他人であっても平均11パーセントは一致する、という。
(数字は、いずれも先の出典元「最新DNA鑑定 その能力と限界」より)


ちなみに最近の多くのガイドラインだと15領域でやるのが一般的らしいが、論文では8つしか挙がっていないのも気にかかる。他の部分では実は一致してなかったのか、それともデータが取れなかったのか。

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●家系図の妥当性

もう一つの問題が、STR法は、兄弟や伯父叔母など、親族の鑑定には向かないということである。

父と子の一致は50パーセントだが、伯父と子では25パーセントとなる。これは平均値であり、それより高いこともあれば低いこともある。先述したように、日本人の場合、赤の他人でも11パーセントは一致することを思い出してほしい。伯父との血縁による一致がたまたま低くて20パーセント、赤の他人としての一致がたまたま高くて16パーセントだったとすると、確率がかなり近づいてしまう。"血縁者"という鑑定をするならば、ミトコンドリアDNAやY染色体の鑑定なども同時に行うか、親族だと確定している人たちのサンプルが出来るだけ多く揃っていなければならないのである。ツタンカーメンのDNA鑑定で、同時代の多くの身元不明ミイラが鑑定されているが、血縁上のどこに位置するか不明な「おそらく親族だろう」と思われる情報ばかりで、血縁関係の証拠になっているかどうかが疑わしい。


検査方法が「親子である確率」が一定を越えることをもって結論とするのは、たとえば、父と父の兄弟の遺伝型がこういうカンジだった場合、子は、どちらの子であるとも言えてしまうことによる。

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これだけだと、疑父と疑母が本当の両親なのか、疑父の兄弟と疑母が本当の両親なのか分からない。そこでこの表では8つのローカスしか調べていないところ、検査項目を増やして、偶然では無い一致の確率を計算していくことになる。現在、検査で15や22のローカスが使われているのは、確率で一定の確からしさをクリアするための基準だ。

遺伝子には一定確率で突然変異が起こる。一般的なSTRでの検査に用いられる領域での変異率は0.2パーセントであり、親子検査の場合、およそ25組に1組はどこか一箇所が突然変異で違っているという。その変異分の差異を吸収するためにも、比較する領域は多いほうがいいということになる。


また古代エジプトの王家といえば近親結婚が有名だが、ツタンカーメンの所属する第18王朝はその中でも近親婚がとても多い家族で、こういう家系図も当たり前に発生している。

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そうすると、親世代と子世代で偶然すべてのアリールが一致する可能性も出てきちゃうわけで、今回のネタにした論文で提示されている家系図が果たして妥当なものか疑問が出てくる。場所によっては、一世代間違えている可能性もあるのではないか。もともと、家族と思しき全員のミイラが揃っているわけではないのである。必要な登場人物が揃っていないのに、今いる人物だけ、しかもそのうちの一部しかデータがとれていない状態で関係図を描くことには危うさを感じる。

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というわけで、マイクロサテライト(STR法)がこの論文で使われていることについては、

 ・本来は親とみなされる人がはっきりしている時に行われるもので、家系図も、どのミイラが誰だったのかもはっきりしていない状態で使うのは不適切なのでは

 ・ミトコンドリアDNAなど他の方面からの分析も併用すべきだったのでは


という疑問を提示しておきたい。

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●PCR法の問題点


もう一つのキーワード、PCRについて。これは簡単に言うとDNAの増幅である。化石など、採取されるDNA情報が微量だったり欠けていたりする場合でも、欠けている部分を補って解析に耐えうるように変化させることが出来る。しかしこの方法は、本来なら弾かれるべき微量の混入物まで増幅されてしまうのが問題点だ。

実はここが一番のネックである。PCR法は感度が高すぎて、傷があって量も少ない古代のサンプルのDNA情報より現代に混入されたDNAのほうに反応しやすいという問題点がある。つまり、現代に紛れ込んだDNAのほうを増幅してしまうというのだ。

そして、この点については実際に研究を行った研究者にインタビューに行った本がある。

"汚染について訊ねると、二人とも調査のあいだに何度か汚染されたDNAを抽出したことを認めた。彼らはどのミイラの場合も、すべてのマイクロサテライトを何度も試し、その都度ちがう結果がでた。ジンクによると、一度で完全な遺伝子プロファイルが入手できたことは皆無だった。そこで彼らは「多数決の原理」を応用し、何度も試す中で、現われる頻度が最も高いバンドはとれかを調べ、ミイラの指紋を作り上げた。たとえば、三十回調査を繰り返して特定のバンドが十五回以上現われたら、それを信じるに足る結果と判断するのである。"


(「ツタンカーメン 死後の奇妙な物語」/文芸春秋)

つまり、論文に載せられている各ローカスのデータは、意図的に取捨選択されたものなのである。
何度か検査して毎回同じ結果になったならともかく、毎回少しずつ異なる結果が出たものを、「回数が多かったから」という理由で取捨選択してしまって、果たして正確なデータと呼べるのか。論文は最終的な加工を施されたデータのみ載せられていて、その試行時のデータや生データ(元の色のついた状態のバンド)は公開されていないのだ。確認のしようがない。

多くの遺伝子学者が気にしているのは、まさにここである。
DNAの混入は、たとえば空気中のほこりからでも起こりうる。少量であれば問題にならないが、PCR法で増幅されてしまえば、元々量の少ない古代のDNAより反応が強くなってしまう可能性が高まる。

今回のツタンカーメンのDNA解析では、なぜかツタンカーメンをはじめとする主要なミイラのデータがきれいに揃っている。しかしツタンカーメンのミイラは、非常に状態が悪い。表面の炭化状態からして100度近い温度で蒸し焼きにされた(おそらく棺の中で、包帯を巻く際に使われた香油が気化して熱を出した)と思しき状態、発見時に炎天下に放置されてもいるし、その後は湿度も気温も管理されていない墓の中で何十年も放置されていた。DNAは、そうした環境には弱い。状態のいいミイラと同じレベルでデータが検出できるとは到底思えないのである。どこかで混入した現代のDNA情報を間違って増幅している可能性もある。二つ目に挙げた「King Tutankhamun’s Family and Demise」の論文でコンタミが疑われているのもその点ではないかと思う。

ザヒ・ハワスは、混入があったのなら親子関係に矛盾のない結果は出ないと反論しているが、先述したように、毎回違った判定結果が出ていたものを意図的に集約させたのであれば、「最も強く混入したデータ」つまり現代人のDNAが検出されている可能性のほうが高いと考えることも出来てしまう。

DNAには、存在しうる「寿命」が存在する。エジプトの高温な気候では500年もすればDNAは読み取れなくなってしまうとする研究もある。そもそも今回の結果として検出されたDNAがミイラ自体のものなのかどうか。ミイラの中に有効なDNAは残っているのか。PCR法を古代のDNAに用いることに対する疑問は、専門家の間でも決着を見ていないように思われる。

…まあぶっちゃけこれ生データが公開されれば、コンタミがあったかどうか分かるようなのだが。

PCRで増幅したDNA情報は、増幅後の長さを計測して「この長さならxx回数繰り返している」と判定する。つまり通常は長さしか見ていない。しかし生データで内訳を確認すれば、手間はかかるが、実際の繰り返し回数が何回なのか、その中に不審な情報は入っていないかを判定することが出来る。

その生データが公開されなかったことが議論が紛糾する原因の一つだろう。


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■まとめ ツタンカーメンのDNA鑑定に見る問題点


というわけで、いいかげん文字数制限とかに引っ掛かりそうな気がしてきたので、このへんでまとめに入ろうと思う。
情報を総合して、特に指摘しておきたい問題点は以下の2つだ。


・検査対象となったミイラの名前も世代もはっきりしないうえに、近親婚が多い家系なので
 マイクロサテライト(STR法)を用いた親子鑑定だけで家系図を描くことには無理がある。

・古代のDNAにPCR法を用いると現代のDNAによる汚染を間違って検出する可能性が高くなる。
 このツタンカーメンのDNA解析には汚染を疑われるポイントが多い。



すべての結果が誤っているとは思わない。しかし"誤りが存在する"可能性は高いといわざるを得ない。
検出されたDNAが"そもそも"ミイラ自体のものではなく、汚染された現代のものだったとすれば、すべてがおじゃんになってしまう可能性すらある。そうは考えたくないのだが、しかし、現実として古代人のDNAの抽出に多くの失敗例があることは事実である。



研究に使われたミイラは、すべて18王朝のものと分かっている。"同じ王朝に所属する王族である"という付属情報を追加すれば、今回の結果だけではも親族関係があることは可能性は十分高いといえそうに見えるが、近親婚の多い家系であることを考え合わせると、誰と誰が親子であるのかをSTR法だけで正確に結論づけるのは難しい。

そして、近親婚の多い家系の中で、家系図のどこに位置するのか不明な(世代すら不明だ!)ミイラを、わずか8領域のアリールだけで特定して関係づけていくのは、相当乱暴なやり方だと思う。これは、最初から結論ありきで書かれた論文であって、「確かである可能性」と「確かではない可能性」を比較して厳密に出された結果とは言えそうにない。

あと、他のところにも書いたけれど、KV55のミイラ(というか骨)がアクエンアテンのものとするのには、死亡年齢の面からして難がある。もしツタンカーメンとKV55のミイラが本当に親子だったとしても、ツタンカーメンがアクエンアテンの息子だったという結論も確実ではないのだ。

ハワスは、この研究結果をもってツタンカーメンの家系図を確定としたいようだが、世の中はそうは動かないだろう。疑問を持つ学者たちがいる限り、いずれこの問題は再び議論されることになるだろう。





…もうちょっと詳しい知識とかあれば細かいことも書けたと思うんだけど、今の自分の知識ではこのへんが限界だ。もっとうまくやれるという人は、もっとうまく書いてくれヨロシク。


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ツタンカーメンの親子鑑定DNA解析に見る問題点(2) 科学の体裁を模した"解体ショー"
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(´・ω・`)< この本には実際の親子鑑定の判例とかも載ってるよ


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(´・ω・`) <文句なしに面白いのでツタン様フェチは読むといいよ

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