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zoom RSS 漂う中途半端さが…。「歴史の謎は透視技術で解ける」

<<   作成日時 : 2016/03/04 00:10   >>

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ピラミッド透視×ミュオグラフィ+最近の考古学事情とか。
去年からエジプトでやってる、宇宙線を使ってピラミッドの透視が出来ないか、という試みに絡んで出版された時事ネタの本。

歴史の謎は透視技術「ミュオグラフィ」で解ける (PHP新書)
PHP研究所
田中 宏幸

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関連する記事は以前書いた。

 ピラミッドの内部構造を透視する? ミューオグラフィーの可能性
 http://55096962.at.webry.info/201511/article_1.html

 ミュオン(ミューオン)を利用したピラミッド透過プロジェクトの近辺
 http://55096962.at.webry.info/201601/article_29.html


で、この本なのだが…実はミュオグラフィの説明は1章と6章だけである。(第7章は、タイトルにミュオグラフィと入っているが取ってつけたような感じでほぼ関係ない)
ちっちゃく書かれているサブタイトルの「歴史学を変える科学的アプローチ」という部分が本の主題となっていて、ミュオグラフィを含む、最近出てきた科学的な新しい考古学へのアプローチ手法の紹介本になっているのだ。

これは若干「タイトル詐欺だなぁ…」という気がした。時事ネタに乗って売ろうとしたけどミュオグラフィだけだと一冊ぶんのネタが集まらなかったので他の科学手法についても言及してみた、という水増し感が出てしまっている。こんなことするくらいなら、ピラミッド透視プロジェクトに関わってる日本の大学の取り組みを入れたほうが良かったんじゃないかと。ていうかそれを期待して買ったんだけど全然そんなネタはなかった。


そして、二名の著者の執筆担当分担についても、ややタイトル詐欺なきらいがある。

田中先生は以前の記事で紹介した「素粒子で地球を視る: 高エネルギー地球科学入門」の著者でもあり、素粒子関連の専門家。単にミュオンについて知りたいのであれば、こっちの本を読んだほうがいい。

大城先生はいわずと知れたエジプト学者で先王朝時代あたりがメインの方。

本の表紙の著者表記では田中先生が上、本の帯も田中先生メインなのだが、ミュオグラフィ以外の部分は大城先生なので、ぶっちゃけ本の8割は二人目の著者によるものとなっている。そして「ミュオグラフィ」といういかにも科学畑な単語がタイトルに入っていながら、内容の8割も考古学ネタで、実際は文系寄りの内容となっている。

別にジャンルきっちり分けろとは言わないが、ミュオンの部分で専門家を連れて来るなら、水中考古学やDNA解析の部分でも専門家を連れて来るべきだったのでは?


本の構成は以下のようになっているのだが、その道の専門家が参加した第1章と第6章以外の部分は技術的な記述がほとんどなく、ふつーの考古学の本になってしまっている。つまり手法に対する記載のレベル感が、章によって大きく異なるのだ。


 第一章 ミュオグラフィ――ピラミッドや火山を透視する
 第二章 宇宙技術を用いた考古学――未発見の古代遺跡はどこにあるのか?
 第三章 水中考古学――沈没船から何がわかるのか?
 第四章 生物学的技術を用いた考古学――ツタンカーメンとは何者か?
 第五章 デジタル・アーカイヴ――過去を復元する
 第六章 X線技術からミュオグラフィへ――考古遺物を透視する
 第七章 ミュオグラフィで王家の谷を透視する


尚、本の中に、二人の著者がそれぞれどこの章を担当したのかの記名は、まえがきとあとがきを除けば一切ない。
しかしひとつ言っておくと、第一章のうち「クフ王の大ピラミッドはいかにして建造されたのか?」から後は、間違いなく大城先生の記載分である。文章にクセがある先生なので内容いかんにかかわらず分かってしまう(笑) 章の途中からいきなり文章のノリが変わるという不親切さ。編集者が気にしなかった理由が謎である。


そして、その大城先生記載部分で、ひとつ大きな穴がある。
第4章である。ツタンカーメンのDNA解析は、ザヒ・ハワス博士が反対意見をねじ伏せてゴリ押しした内容が世間的にはまかり通っているのだが、実は詳細な解析結果は発表されていないし、TV中継されている部分だけでもサンプルを素手で扱っている場面があるなど、手法に疑問を呈されている怪しい調査なのだ。

これは、以前紹介した「ツタンカーメン 死後の奇妙な物語」という本などでも詳しく述べられている部分だ。また、遺伝子解析の限界については、以下の記事も参考にしてほしい。

 DNA解析の限界/実は単品ではあまり役にたたないという話
 http://55096962.at.webry.info/201602/article_3.html

KV55のミイラがアクエンアテンだとするのも、かなり厳しい状況だ。骨の鑑定から、死亡年齢は20代後半〜MAXで35歳と見積もられているからだ。アクエンアテンは複数の娘が出産するまで生きていた。そのため、死亡推定年齢は40歳くらいではないかと考えられているのだ。15歳くらいで最初の子供が生まれたとすればギリギリいけそうではあるが、しかし、そうすると妻や他の家族との年齢差をあわせづらい。

以前は、KV55の遺体はアクエンアテンのあとに即位したスメンクカーラーのものだとされていた。20代後半で亡くなっているのなら、そのほうがありえるだろう。DNA解析の際のゴリ推しで世間的にはアクエンアテンのものとされるようになったが、疑っているエジプト学者は少なくない。何しろ根拠が薄いのだ。

というわけで、そもそもDNA解析の結果が正しいかどうかも不明だし、父親とされるミイラがアクエンアテンかどうかも疑わしい。ツタンカーメンの両親を明らかにしようとしたプロジェクトは、そんな程度の確からしさしかなく、厳密には何も「確定」していないということを補足しておきたい。



専門家が書いた部分にシロートがいちゃもんつけるのもアレなんだが、まぁそれやるのがこのブログの立ち位置なので(笑) 専門家といえども人間である。間違いはある。そして得意ジャンルは偏らざるを得ない。

第4章は、遺伝子解析の専門家に書いてもらえば100倍面白いものが出来ただろう。そうでなくとも、日本の縄文時代の人骨の分析とか、他に例題として出せるネタは一杯あったはず。よりにもよって怪しいツタンカーメンの分析を出すしかなかったのは考古学分野の著者が一人しかいなかったがゆえの制約だろう。



[総括]
面白くないわけではないのだが、時事ネタに無理やり乗っけようとした感が感じられて微妙さが漂う構成となっている。そして、著者二人のノリが全く違うのに記名もなく中途半端に交じり合っているので、本全体としては違和感のある感じの出来だった。さらに科学的に細かい記述がされている部分と、考古学観点からの概要しか説明されていない部分の温度差があるのも不満足。

前半ミュオグラフィについて、後半その他の科学手法について、みたいな感じで分けるか、著者ごとに章分けするか、何かもうちょっといい方法は無かったんですかねこれ。


●この本をオススメする人

 ・最近の考古学で使われている最先端技術の概要を知りたい人
 ・ミュオンについて全く知らなくて、とりあえずとっかかりがほしい人
 ・大城節を楽しみたい人(おい

●この本をオススメしない人

 ・宇宙線とか素粒子の研究者または基礎知識のある人
 ・田中宏幸という名前に惹かれた人
 ・章タイトルを見て中身の予想がつく人


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