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zoom RSS 今更のようにアイスマンの本を読み返してみた。「5000年前の男/解明された凍結ミイラの謎」

<<   作成日時 : 2016/01/20 00:10   >>

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最近アイスマン関連のニュースがまた流れていたので、本を読み返してみた。

タイトルは「解明された〜」となっているが、ぶっちゃけこの本が出たのは発見から数年後のことであり、それから現在までの間に新たに発見されたことは多い。またDNA解析などの技術は本当につい最近になってから一般化されてきたものなので、それもこの時点では考慮されていない。

発見当時の状況、一緒に発見されたものの詳細な一覧、発見当時の各メディアの反応。
それが、この本から入手できる有益な情報だ。

5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎 (文春文庫)
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ただ、この本自体は、ぶっちゃけあまり面白くない。
状況をより詳しく書こうとして冗長になっているからだ。もっと資料を整理して、わかっていることを箇条書きにするくらいで良かった。また著者が、発見直後からアイスマン・ミイラの解析に関わっていた当事者の一人だということも客観的な視点を妨げている。アイスマン発見後の手荒な扱いや、発見当時ば無事だった遺物のいくつかが破損してしまったことについて長々と言い訳なんか必要なかった。

発見場所はオーストリアとイタリアの国境にあたる高山地帯である。標高3000mを越える場所での凍りついた遺体の回収が困難だったことは事実だろう。その高さまでヘリを飛ばすのがいかに困難かは登山やってるから分かってる。ただ、それならそれで周囲の氷ごとまるごと掘り出して、ソリに載せて降ろせば良かったんじゃないかと。何人もの登山家が発見初期に現場を見に行っているのに、彼らに知恵を借りた雰囲気が一切ないのに言い訳だけしていてイラっとしてくる。つーかミイラをピッケルで掘り出してて傷つけちゃった、とか、遺物を無理やり引っ張り出そうとして折れちゃった、とかは、発掘現場がどこだったにせよ、やっちゃダメな手法じゃないかな…。

考察の部分についても甘さが目立つ。ミイラと一緒に見つかったアイベックスの骨について「古代ローマではアイベックスの骨は医療に使われていた」とか「ヤギ座との関連で神秘思想にも浸透していた、これも彼が持っていたこととは無縁ではないと考える」などと述べているのだ。このミイラは紀元前3300年から3200年のものだと自ら書いているにも関わらずだ。一体全体、紀元前3000年前のエッツタール・アルプスの風習と、ローマ時代の医療知識や中世の神秘思想の間に何の関係があるというのか。青銅器時代にヤギ座があったとでもいうのか(笑) 全く関係ないと断言していいくらいだ。

この本について言えば、著者が「私は多分こう思う」と言っている部分はだいたい流してかまわないと思う。死亡時の状況などもそうだが、大抵その後の研究で上書きされている(つまり覆されている)部分になる。見ておくべきは科学的な分析の部分だ。年代や死亡時年齢などの基本的なデータは、発見後数年で出揃っていたということが分かる。

尚、発見時の状況としてイタリアとオーストリアの国境付近で見つかっており、どちらに所属するか分からなかったため当初はオーストリアで保管されていたという話は面白い。発見後しばらくしてから、発見場所がイタリア側にわずか100m前後ほど入っていたことが判明して、アイスマンはイタリアに引き渡されることになる。

著者はこのあたりの事情をだいぶサラっと書いているが、実際はアイスマンがイタリアに引き渡されるまでに悶着があった。アイスマンの発見された南チロルは、WWW1の後、サンジェルマン条約によってオーストリアからイタリアへと割譲された地域にあたり、住民のほとんどがオーストリア側に帰属意識を持っているという。また、当初イタリアの警察は興味を示さず、遺体がオーストリアに回収されてとても古いものと判明してから所有権を主張し始めたというのもこじれた原因の一つだろう。
そもそも「エッツィ」という愛称はオーストリア側がつけたもので、イタリア側はこの名称を使うことを当初嫌がっていたとも言われる。

今でも、国境付近で見つかった重要遺物や国境のはっきりしない海洋での発見などは複数国が絡む揉め事になることが多いが、国境の見分けがつきにくい高山での発見も帰属争いになる可能性があるという一例となるだろう。



本の中にも書かれていたが、このミイラが重要なのは、死んで埋葬された死体ではなく「行き倒れ」であるということだ。すなわち、直前まで生きていた状態のまま保存されているということ。生活の痕跡を手にしたまま死んでいるこということ。

埋葬であれば、副葬品は入っているだろうが、生活用品や生活の痕跡を持って墓に入ることは出来ない。ついさっきまで使っていた背負い篭やキノコや日常生活の服まで手にした状態で、そのまま凍結されていたのは彼だけだ。そのアイスマンとともに、5000年前の生活の一部が蘇ったのである。

今から5000年前、というと、何を思い浮かべるだろうか。
日本なら縄文時代だが、エジプトではちょうどナイル流域のエジプト王国が統一されようとしている頃だ。すごく昔のことのように思えるが、人類の歴史全体からするとつい最近である。しかし、その5000年の時を越えて現代に残っているものは少ない。

本の末尾にはエッツィが見つかったあとの世の中の反応が面白可笑しく書かれているが、そんな大騒ぎも、あと百年もすれば完全に忘却の彼方となる。そして五千年後には、おそらく完全な「無」の中に忘れ去られるのだろう。


**********

淡々と客観的事実のみ書いていく形式の本ならこれがオススメ。
エッツィの話もちょっとだけ出てくる。細かい話はもう知ってるから概要だけまとめてくれやって人にはオススメ。すくなくとも下らない感想文でページを割り増しされるよりは百倍いい。

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ミイラそのものが好きだという奇特?!な方にはコレ。
エジプトミイラから泥炭ミイラ、即身仏まで、古今東西のミイラについて愛をこめて(!)語る一歩間違えば変態な本。
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