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zoom RSS "失われた二十行の復活" ギルガメシュ叙事詩、第五の書板からストーリーが復元される

<<   作成日時 : 2015/10/08 00:10   >>

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2011年にイラクの博物館が盗掘業者から買った粘土板の中から、ギルガメシュ叙事詩の第五の書板部分が見つかり、そこに今まで欠けていた行が残っていたというニュース。

報告書自体は2014年に出ていたようなのだが、あらためて内容を整理して再度発表したのが今回のニュースらしい。ちなみにギルガメッシュ叙事詩は今のところ見つかっている人類最古の叙事詩で、元々はシュメール語で語られていたものがバビロニア語、アッシリア語などに翻訳されて後世に伝わっていった。今回見つかっているものは新バビロニア時代(626-539 B.C.)のバージョン。(なので叙事詩の発祥はめちゃくちゃ古いが、見つかった粘土板自体はやや新しいめ、ということになる)

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Live Scienceのニュース記事

Lost 'Epic of Gilgamesh' Verse Depicts Cacophonous Abode of Gods
http://www.livescience.com/52372-new-tablet-gilgamesh-epic.html

報告書

Back to the Cedar Forest: The beginning and end of Tablet V of the Standard Babylonian Epic of Gilgameš
http://eprints.soas.ac.uk/18512/


買い戻した博物館はクルド人勢力のいる地帯となるSlemaniにある、Sulaymaniyah Museum(スレイマニア博物館)。

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盗掘業者からまとめて買った80枚〜90枚の粘土板の中に今回のものも入っていたという。不法取引に手を出していいの? という話もあるが、とにかくそうしなければ散逸していく遺物を守れない、という判断だったのだろう。そして今回の場合、その判断は正しかった。もしも博物館が買っていなければ、叙事詩の未知の行は失われたままになっていたかもしれない。

実際に展示されている現物の詳細な写真などは、別ソースにある。

The Newly Discovered Tablet V of the Epic of Gilgamesh
http://etc.ancient.eu/2015/09/24/giglamesh-enkidu-humbaba-cedar-forest-newest-discovered-tablet-v-epic/

意外と小さいなって思うかもしれない。そう、意外と小さいのだ。だからなのか業者から買うときのお値段が800$とかむちゃくちゃ安い。売るほうは価値分かって無かったんだろうなぁ(´・ω・`)


さて、今回発見された第五の書板だが、ストーリー前半のクライマックスとでもいうべきフンババ退治のまさにそのシーンが描かれている部分である。今まで欠損していて分からなかった部分が残っていたため、新たにストーリーが分かることになった。追加されているのはこの3点。

 ・フンババの住む杉の森に到着したシーンでの森の描写
 ・フンババとエンキドゥが昔なじみであったという描写
 ・フンババ退治後の神々の世界の動揺

これらがどこに当て嵌まるのかが良く分かるのが、以下の月本版。

ギルガメシュ叙事詩
岩波書店

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杉の森に到着したシーンでの欠損部分。
ここの大きく欠けている部分に入ると思われるのが、今回の粘土板に残っていた森で騒ぎ歌う多くの動物たち、豊かな緑の森の描写。

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エンキドゥとフンババの関係については、現存する欠損部分にすでに仄めかされているが、かけている部分に昔仲間だったというようなセリフが入るのだろうか。

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昔からここは、初対面にしてはフンババの語り方が親しげで、「お前はよそもの(敵)とともに私の前に立つのか」と問いかけているあたりから元々仲間だったんじゃ? 的な説もあったが、今回の発見によりエンキドゥが若い頃フンババとともに過ごしていたことが明らかとなり、二人の関係が決定付けられた。

ちなみにエンキドゥはギルガメッシュを諌めるため神々が作り出したライバルだが、怪物フンババもまた、杉の森の守護者として神々の生み出した存在である。エンキドゥが若い頃フンババとともにいたといっても、幼馴染だったのか、同郷の仲間だったのか、同僚という意味なのかは取り方次第だろうが、フンババがわざわざ「お前を殺しても何も嬉しくない…」と言っているあたり、好意を抱いていたのだろう…
新発見により、このシーンのせつなさが一気に急上昇である。

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(もうこのギルと二人がかりでフンババを退治するレリーフを冷静な目で見られない)



ちなみにギルガメッシュ叙事詩の訳本は他にもあるが、今回の発見に関して調べたいなら、この本がベストだと思う
。なぜかというと、他の訳本は底本が微妙に違うからだ。

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先に書いたようにギルガメシュ叙事詩は複数の言語で時代を越えて書き続けられている。なのでどの時代のものを中心として翻訳するかによって、若干ストーリーが変わってくる。また、全体のうち半分程度しか残っておらず、訳本では足りない部分を別々の粘土板から持ってきて継ぎ接ぎにしているため、訳者ごとに内容が少しずつ異なってくる。

月本訳の底本は、主にニネヴェ版(前二千年紀末期以降に使われたアッカド語=標準バビロニア語)に、後期バビロニア版(前七世紀以降、アケメネス朝ペルシャを経て前三世紀ごろまで)を足したものとなっている。とくに第五の書版の部分は今回新たに発見されたものと同じ後期バビロニア語から多く補われているため、話がスムーズに繋がるのだと思われる。


注目すべきはやはりエンキドゥとフンババの関係だろうか。

杉の森への出発前にウルクの長老たちが「森への道はエンキドゥがよく知ってる」と言ってるのだが、それはエンキドゥがもとは野人だからではなくて、かつて杉の森でフンババと一緒に暮らしてたからなんだろうなと。で、その昔の仲間を今の親友と一緒に倒しにいく展開なわけですよ。戦いの際にギルガメッシュはちょっとフンババにビビってるのにエンキドゥは余裕ぎみで助言とかしてるのも、昔なじみだから弱点とか色々知ってたからなんだろうなって、こう…もうね…

しかも倒したあとフンババは命乞いをするんだけど、エンキドゥはギルに「彼を撃ち殺せ」って言っちゃうし。
「二人のうちどちらかは死なねばならない」っていう神々の怒りもエンキドゥが引き受けて死んじゃうし。

蘇った物語は、現代でも十分通用する深い話なのであった。


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さて、気になるのは、そもそもこの粘土板がどこかから盗掘され、闇ルートで流されていたということである。
イラクは多国籍軍の攻撃によってフセインが失脚した後の政治的混乱の中、多くの博物館が略奪され、遺跡も盗掘を受けている。スレイマニア博物館も、その時に流出してしまった遺物の買戻しのために業者に接触していたようだ。つまり他にも、貴重な遺物が闇ルートに流されて消えてしまった可能性が高い。

今回は運よく博物館が買い入れたからいいようなものの、どこかへ消えてしまったか、永遠に失われてしまったものも多いのではないか。そう思うと、この発見を手放しで喜ぶことは出来ない。一体どれほどの遺物が闇に流れてしまったのか。あるいは、まだ流れているのか。

少しでも多くの遺物が、しかるべき場所に戻ってくるようにと思わずにいられない。


===============
続き

ギルガメッシュ叙事詩を改めて読み比べしたらバビロニア語版だけおかしい気がして来た
http://55096962.at.webry.info/201510/article_11.html

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