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zoom RSS 今の時代だからこそ必要なもの。社会心理学の古典「予言が外れるとき」

<<   作成日時 : 2015/10/11 00:10   >>

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この本が出版されたのは、オウム真理教事件がさかんに世間をにぎわせていた1995年。当時の心理学界は、なぜ多くの人々が狂信的集団に身を投じていったのか、またなぜ多くの人が宗教団体の危険性に気づかなかったのかといったことがらを説明しようとして、マインド・コントロールや認知不協和理論について盛んに出版していた。この本もその中の一冊なのだが、他の本と違うのは、邦訳が出たのが1995年だったというだけで、内容は社会心理学の「古典」というべき本だということである。




本書の中で主題として挙げられている"出来事"は、1950年代のアメリカに実際に存在に起きたことである。
さっくりとこの本のネタばらしをしよう。
ある宗教団体が世界の週末を予言するが、その予言が外れてしまったのちに何故か急速に活動を広げて新たな信者を獲得している。それは何故か? というものである。予言が外れたなら、普通、予言者は袋叩きにあい、信者も逃げてしまうと思われるだろう。しかし実際はそうはなっていない。その時、人々の心の中では何が起きていたのか。

これは近代のカルト教団だけの話ではない。
そもそもキリスト教ですら、教祖の死という「大きな失敗」があったにも関わらず現在まで続いている。むしろその失敗の後にこそ教団は拡大している。キリストが復活したかどうかはあまり関係ない。なぜなら、復活したキリストが実際に出会ったことになっているのはほんの数人、世間の人々はキリストが本当に復活したのかどうかなんて確認のしようもなく、噂で聞いただけなのである。

そこには、古来より繰り返された集団心理の真理があるのだ。すなわち、「失敗を受け入れられないときは、その失敗を正当化しようとする」という心理が。




この本は、実際に予言を行っていた団体に信者を装った観察者を複数送り込んでいる。(そのことは最後のほうまで触れられないが、メンバーの構成や行動が細かく記録されているのはそのお陰だと分かる) 団体がまだ小さく、外部への発信をあまり行っていなかった、むしろ閉鎖的だった時代から観察は続き、予言のハズレが確定となった後の各メンバーの動き、行動まで追っている。つまりある宗教団体の内部からの詳細なレポートにもなっているのだ。時間や手間がかかるのはもちろんのこと、よくやったもんだと呆れてしまう。1950年前後のアメリカの社会心理学は、フィールド観察にしろ実験室実験にしろだいぶ無茶なことをやっているが、これもまたその一つ。現代では難しいだろう。

結果として明らかになってきたのは、「失敗を受け入れられないときは、その失敗を正当化しようとする」という行動が発生する条件だ。それには五つの条件がある、と著者たちは述べている。

"
 (1)強い信念を伴って、それを行動に移していること
 (2)信念にコミットしていること(取り消しの難しい行動をしていること)
 (3)信念が特定でき、現実の出来事によって十分に論破できること
 (4)信念の誤りを証明する否定しがたい証拠が生じ、それが信念をもつ当人に認識されること
 (5)信念をもつ者が集団となっており互いに認め合っていること
"


厳密には、この条件は(1)と(2)、(3)と(4)がセットになっているから、大きく分けると3つになる。
宗教団体の場合、(1)(2)はたとえば「信仰のために会社を辞める」とか「財産をすべて寄付してしまう」といったこと。(3)と(4)は予言が外れるとか、信仰していたにも関わらず病気が治らないとか不幸な目に逢うとかいったこと。(5)はそのまま団体に所属すること、である。

これらの条件を充たすとき、宗教団体の信者たちは、信仰を捨てるのではなく逆に信仰心を増大させ、以前より熱心に布教活動に励むようになる。これは今まで多くの宗教団体や予言者のグループたちが繰り返してきた行動パターンに当て嵌まる。(もちろん、日本のオウムの事件にも)

ちなみに本の中心となっている1950年代アメリカの団体の場合、予言が外れたあと、コミットメントの弱いメンバーたちは団体を去って普段の生活に戻っている。失職するとか財産を失うとか、すでに後もどり出来なくなってしまっていた人たちだけが残り、予言が外れたことに対する解釈をこねくりだして、団体の拡大へとつとめるようになるのである。分かりやすく言うと、「予言が外れたことにも意味がある、それが神の思し召しだ」みたいなカンジで言い訳をつけて、メンバーを増やすことによって自分たち失敗を正当化しようとしたからである。


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という感じの内容なのだが、まぁ社会心理学というのは人間が団体行動するときの普遍的な基本行動の法則みたいなものを研究する分野である。この「法則」は宗教団体に限らず、現代の色んなところに応用できちゃうわけだ。

たとえば最近のネタで、国会前でセンソウハンターイとか叫んでた人たちを挙げてみよう。
安保闘争というのは私の親の世代以前から何度も繰り返されてきたわけだが、そのたびに彼らは「この法案を通したら戦争が起きる」と主張する。しかし周知のとおり戦争など起きていない。これは宗教団体の「予言が外れたとき」と同じ状況である。

さきの5つの条件を思い出してもらいたい。
警官殴ったり顔出したままマイクもって叫んだりすれば記録に残ってその後の人生が変わってしまうわけだから、(1)(2)の条件は充たしている。(3)(4)も「世の中はべつだん変わってない」ので充たされる。(5)は中核派にしろ最近話題のシールズにしろ、学生寮とかシェアハウスとかで纏まって住んでることが多いので当て嵌まる。

彼らは「今は戦争が起きてなくてもこれから必ず起きる。日本はどんどん戦争に近づいている」みたいなカンジで言い訳をつけて、仲間を増やそうと盛んに外部に向けた活動を繰り広げるしかない。というより、そうしなければ自分を肯定できない状況に自らを追い込んでしまっているのだ。活動へのコミットが強ければ強いほど、ここから抜け出すことは出来ないだろう。



たぶん、特定の思想を狙い撃ちしていると怒る人もいるだろう。
もちろん類似する状況は右でも左でも他にも色々あるだろう。だが、意外と5条件すべて揃えていることは少ないものだ。

重要なのは、たぶん(5)なのだ。身内で集まって同意しかない世界に暮らしてしまうと、そこから出られなくなる。思想自体は何であれ、既に誤りに気づいても行動を変えられない状況にある、というのが厄介なのである。

基本的な思想は正しかったとしても、メンバーの中に過激な人がいたり、何らかの不都合なバイアスがかかったりして当初の理想が歪んでいくことなどザラにある。例に挙げた国会前で戦争法案(そんな法案があったとは知らないが)反対と叫んでいた人たちが自分たちの行動を「フランス革命」になぞらえたが、フランス革命がまさにそうだった。自由、平等などを掲げながら、結局行き着いたのは恐怖と独裁、ギロチンと流血の暗い時代であった。

彼らはおそらく途中で誤りに気づいていた。だが、立ち止まれなかった。
フランス革命の本を読んだあとで、さきの5つの条件を見てほしい。そうすれば、失敗したにも関わらず立ち止まれなくなる状況が分かると思う。




この本は"古典"であり、研究された内容は既に50年以上も前の出来事なのだが、それでも、現代に生きる我々の行動について色々と考えさせてくれる。

人は何をしたら引き返せなくなるのか。一人では決してしないだろう行動を集団でならとれてしまう理由は何なのか。そしてまた、大事なこととして、ここに挙げた「予言が外れたあとの行動」は、人間の心が自己を肯定するために一種の防衛機能のようなもので、それ自体は悪いものではないことも言っておく必要があると思う。(客観的に見ると悪い方向に行っているようにしか見えなくても、当人にとっては幸せということもある。)

まぁバイトなんかでも洗脳教育かよって時もあるし、社蓄乙な抜け出せない状況は会社とかでもあるんだけどね。
バイトならコミットメントは薄いし、会社だって社員寮にでも入ってるんじゃなきゃ集団性は薄い。5条件を十分充たす状況はほんとに殆ど出てこない。だからこそ特異であり、場合によっては危険性を伴うのだろう。

最近では、SNSや携帯電話などを通じて、肉体的には別々の場所にいながら精神的には(5)の条件を充たしてしまうケースも出てきている。人と人の繋がりが以前より縦横無尽に、様々な地域や世代の人と簡単に繋がれるようになった今の時代だからこそ、集団が生みだす"心理"の研究には注目すべき理由があると思う。



過ちに気づいても戻れない、という状況を回避したければ、私としては、特定の傾向をもつ人ばかりと集団にならないことをオススメする。付き合いの幅を広げておけということだ。たとえば、ツイッターやるなら自分の意見とは異なっていても、相反する陣営の人を両方フォローしておくといい。政治なら右よりと左より、かんこれならライトユーザーと廃人層、オタクと一般人、男性と女性、など0など。まぁぶっちゃけ何も信念を持たないのが一番楽という説もあるが(笑)

個人的に、何かのツイートをRTしたことによるそのツイートへのコミットはどの程度発生するのかとか、今の心理学者には研究してもらいたいなー。



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尚、社会心理学では、行動として外に現れたものをその人の心理として扱う。頭の中で考えただけのことは証明出来ないし観測しようもないから心理としては扱わない。

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