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zoom RSS 「よく分かる神話」系のまとめ本を最初に選んでほしくない理由。 ・・・・その本はだいたい間違っている。

<<   作成日時 : 2015/09/12 00:10   >>

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今や、「よくわかるxx」「サルでもわかるxx」みたいなタイトルの初心者向けの本は様々なジャンルで出ている。
神話系の本でもよく見かける。たとえば「いちばんわかりやすい 北欧神話」とか「30分で分かる北欧神話」みたいなタイトルのやつだ。
だが、これらの本は 最初に選ぶべきではない。 そして参考書に使うべきでもない。(というか使えない)

なぜなら、本の内容はぶっちゃけ正しくないからである。



とりあえず北欧神話を例に挙げたので、北欧神話本での話をしよう。

北欧神話の原典はそう数が多くないにも関わらず、通読しにくい、わかりづらいと敬遠されることが多い。よく分からないので、分かりやすい本を読もう、と上記のような「初心者向け」を装った本に手をだす人がいる。
だが、そもそも神話の原典は、誰か一人によってまとめられた整合性の取れているものなどではない。時代、地域、時には言語さえも異なるバラバラの断片となって残っている。

まとめ本では、北欧神話の世界の終わり「ラグナロク」には炎の巨人スルトが暴れるとなっていることが多い。だが、よくよく原典を読んでみると、異なるバージョンで「大いなる冬」(霜の巨人による滅亡)という描写もされている。世界の始まりが炎と氷。滅亡も炎と氷。どっちかが先なのか、同時なのかはっきりしない。

シーグルズル・ノルダルの「巫女の予言 エッダ詩校訂本」では、「ヴァフズールニルのことば」と「巫女の予言」を比べて、このように書いている。

"「巫女の予言」の描写はまったく別世界である。大地はユミルから造られたのではなくて、海中から上がってきたのであり、霜はフリームファクシのはみの雫ではなくて、ユッグドラシルのトネリコに降りかかる聖なる水のしぶきなのである。また太陽は狼によって滅ぼされるのではなくて暗くなるのであり、フェンリルはオージンを呑み込むのではなくて、記述されてはいないが、彼を倒すのである。そしてヴィーザルはフェンリルの口を裂くのではなくて、彼の心臓をつらぬくのである。"


巫女の予言―エッダ詩校訂本
東海大学出版会
シーグルズル ノルダル

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そう、実は同じ「詩のエッダ」の中におさめられた2つの詩の間ですら、主要な部分の描写がかなり異なるのだ。
読み比べてみたければ、以下の邦訳にどちらも載っているので実際に確かめてみてほしい。

エッダ―古代北欧歌謡集
新潮社

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北欧神話が「わかりにくい」原因の一つが、このエピソードごとに異なる描写なのだが、「よくわかる」系の本は、こうした差異を一切無視してぜんぶ混ぜてしまう。あるいは根拠なく一通りのみを選択する。何しろそれが一番わかりやすいからだ。そして、削られたエピソードは、存在しなかったものとして忘れ去られてしまう。


これは神話の面白さを8割減くらいにする行為である。


本来の神話の原典では、世界の始まりの描写、ラグナロクの展開、神々の親子関係や性格、時には同じエピソードでもある行為を行う神様が摩り替わっている。これらの差異を「XXの詩ではこう、XXの詩ではこう」とウンチクするのが面白いんである。

だいたいテストに出るわけじゃなし参考書じゃあるまいに、わかりやすくある必要など何処にあるのか。「世界を図解」とかいってユグドラシルと九つの世界を分かりやすい図にされても、そんなものに根拠はないうえにエピソードごとに説明されてる内容が違うんで、全部混ぜたらどのエピソードからしても正しくない内容になっちゃうんだけど。(笑)

「よくわかる」系の神話本の正しい使い方は、ある程度分かってきた中級クラスを名乗る神話マニアたちが飲み会に持ち寄って、「なんだこの本、こんなこと書いてるけど本当は違うじゃねぇか」と酒のつまみ代わりにサンドバックにすることだ。

…というのは言いすぎかもしれないが、とにかく、最初の一冊、唯一の一冊としては全くお勧めできない。

神話は、「よくわかる」必要なんかない。なんとなく「面白い」と思うことのほうがはるかに重要だ。というわけで誰か。「本当に面白い北欧神話」という本を書いてはくれまいか。わりとマジで。


*********************

さて、ここから下はついでの話なのだが、そもそも神話の原典とはどのようなものなのか、というのを少し説明する。
専門家でもない人がそれっぽい顔をして説明している内容なので、まぁ、まぁ、ザックリしてるのは許して貰いたい。詳しい話は本物の専門家に聞いてくれ。


北欧神話の原典といっても、同じ詩が何種類も残っていたりする。たとえば「詩のエッダ」の中の「巫女の予言」の部分だと、「ハウク本」「王の写本」「ウップサーラ本」「ヴォルム本」とか。どれを採用するかによって違いが出てくる。

さらに、印刷機のない時代の本はすべて手写し。複数残存する本はすべて手書きで写されている。そのため、書き間違いや、途中で追加された言葉、削られた行などの差異が出てくる。また、写本によっては、破損や文字の薄れによって読めなくなっている部分も出てくる。

それらを見比べて校訂したものが、いわゆる「原典」となる。神話本で「この翻訳はxxを底本とした」などと書かれている「底本」というのが、何を原典として使ったか、という部分。底本が違うと、出来上がる翻訳も異なってくる。

画像


これだけならまだいいのだが、そもそも神話の原典は古い言語なので、「この単語ってなんていう意味なんだろう」…と、翻訳の差異が出てくる。
たとえばBeowulfの灰色の剣なんかが、その最もわかりやすい例だ。

ベーオウルフは、原典が一種類しか残っていない。だから底本はすべて同じなのだが、なぜか剣の外見に関する翻訳が全然違う。調べていくと、「gomol ond græg-mæl」という部分をどう解釈するかで説が分かれていた。

原典からチョクで翻訳してさえ、こんなふうに解釈によって差異が出てくる。神話というものは、こういう差異が出てくることを認識して、それを楽しみながら読むものなんだ。与えられた一部の情報だけをもって、「これが正しいんだ!」と暗記して終わってしまうと、本当の面白さには全く触れられないんだぞ。ただ単語を覚えてしったかするだけじゃ勿体無い。

というわけで、繰り返しになるが、神話本を選ぶときは、「よく分かる」系のまとめ本は最後までとっておけ!
北欧神話なら、このページの上から二番目にリンクした「エッダ―古代北欧歌謡集」を買うんだ。まずはそこからだっ。


 学問に王道なし。

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