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zoom RSS 自然と人為的秩序の神話/メソポタミア文学「エヌマ・エリシュ」

<<   作成日時 : 2015/06/07 00:10   >>

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メソポタミア文学、というか、正確には紀元前二千年紀あたりにバビロニアで成立したとされる神話物語。原型はシュメール起源とも推定されている。「エヌマ・エリシュ」は「天地創造の物語」と訳されているが、物語の中身自体は天地創造の物語ではない。物語の最初の一行をタイトルとする、というルールに則って物語名がつけられたためこう呼ばれているだけで、内容的には”バビロニアの主神マルドゥクがいかにして神々の王となったか”(=バビロニアはなぜ繁栄しているのか)という、王権の起源物語となっている。

この物語は神々の戦争の物語なのだが、読み方を少し変えてみると、「古い秩序」と「新しい秩序」の戦い、もうちょっと言うと「そのままの自然」と「人間の手の入った自然」との領域争いだということが見えてくる。

それではダイジェストを見てみよう。


*****

天地開闢の前、世界の始まりには、男神アプスー(淡水)と女神ティアマト(海水)が居た。
彼らは次々と神を生み、やがて有力な神アヌと、その息子エアが誕生する。アヌは天空神、エアは創造神で水と知恵の神である。

この頃から、最初の神々アプスーは若い神々の騒々しさに苛苛しはじめる。昼間は落ち着かず、夜は眠れない、というのだ。母なるティアマトは、自分たちの生んで名づけたものを滅ぼすことを最初は嫌がっている。しかし子供たちを滅ぼそうとしたアプスーが返り討ちにあい、逆に地下に閉じ込められてしまうと、危機感を抱くようになる。

一方で、アプスーを倒してその権威を身につけたエアは、アプスーを閉じ込めた上に館を建て、その館で息子マルドゥクをもうけた。マルドゥクは生まれてすぐに父親から風をおもちゃに与えられ、その風をもって水辺に沼地を作り出した。これは海水であるティアマトの領域を干拓するという行為なので、当然ティアマトは面白くない。そうして、ティアマトの不満とともに神々は二派に分かれることとなった。

一方が父なる神アプスーの地位を奪ったエアの新しい権威についていくものたち。
一方が母なる神ティアマトの権威についていくものたち。
人為的に制御された自然と、原初のままの自然の対立という構図である。

ティアマトは、自らに従わない神々を全て滅ぼしてしまおうと考えた。
そのために彼女が生み出したものは、サソリ人間、首のたくさんある蛇、海の怪獣ラハム、巨大なライオンなど恐ろしい化け物たちだ。その中でキングーという神を総司令に据え、「天命の書版」を彼に与える。これは神々の主となるために必要なもので、いわば王の証だった。ティアマトは神々を生み出し、名づけ、運命を授けた最初の神なので、神々の天命を刻んだ書版を持っていたのだ。

これでは勝てないと思ったエアは、父祖のもとへ行き対策を相談する。しかし誰もティアマトに立ち向かえそうなものがいない。だが、ただひとりマルドゥクだけは恐れない。「もしもティアマトを倒して戻ったなら、私の天命を授けてください(=王にしてください)」と言う。

そこで神々が召集され、宴会が開かれ、マルドゥクに天命が授けられた。集まった神々がマルドゥクを王であると承認することによって、ティアマトがキングーに授けた権威に対抗しようとしたのである。王と承認されたマルドゥクは、それに相応しい衣装を与えられてティアマトに挑む。マルドゥクの武器は、父に与えられた風と、最強の武器・洪水である。

彼は洪水で海水であるティアマトをかき回し、口の中に風を叩き込んで腹を裂いてしまう。また、キングーから天命の書版を奪い取り、それも自分の権威としてしまった。死んだティアマトの身体は切り裂かれ、半分が空に、もう半分が大地に置かれた。

彼は新たに館を築き、十二の星座を定め、一年の十二ヶ月を定め、また太陽や月の運行、川の流れなどを決めて世界を形作っていった。ここにティアマトら古き神々の時代は終わりを告げ、世界の秩序が誕生したのである。

そして神々の仕事を肩代わりするための人間も、このとき倒されたキングーの血から作られた。神々は天と地に分かれて暮らすようになった。
こうして物語は、マルドゥクの定めたものたちを語り、マルドゥクを讃えて終わる。

*****

アプスーが子孫の神々を滅ぼそうとする理由は、「うるさい」からだとされている。字面の上だけではかなりどーでもいい理由のように見えるが、背後をよく読みこんでいくと、実際は新たに生まれた神々が旧来の秩序を乱すから、であることが判ってくる。

アプスーもティアマトも、原初の、あるがままの自然である。しかも「淡水」と「海水」だ。しかし彼らから生まれた神々は陸に住むものたちで、水の流れを変えて畑を作ったり、湿地を干拓して自然の領域を侵食していく。まず犠牲になるのは淡水であるアプスーのほうだ。

アプスーが力を奪われてしまったのを見て子供たちを滅ぼそうと立ち上がるティアマトは、海水を体現している。さすがに海は強い。しかしその彼女も、陸地から押し寄せる洪水と強い風の前には成すすべがない。
こうして古い神々は倒され、新たに生まれた神々の定めた秩序の軍門に下っていくこととなる。

しかし、この神話の中での「新たな神々」も、やがては老いて、権威の座を追われる日がやってくる。
老いたマルドゥクが力を失うバビロニア滅亡の神話と、さらに新しく生まれた神々による王位の簒奪。そして神々は、かつてのアプスーやティアマトと同じように、自らの生み出した人間を「うるさいから」という理由で滅ぼそうと考え始める。

歴史は繰り返されるというが、神話の中でも歴史は繰り返されている――そう思うと、この神話の中にも。いくばくかの歴史的真実が混じっているのかもしれない。

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