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zoom RSS 水中考古学がよく判る。「文化遺産の眠る海」

<<   作成日時 : 2015/06/04 00:10   >>

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近年になってようやく確立されてきた考古学の古くて新しいジャンル、水中考古学に関する本。「水中考古学とは何ぞや」から始まり、世界各地や日本での取り組みについて良くまとまっている。すごい判りやすい本で、考古学に興味ある人はもちろん、沈没船とかに興味ある人も読んで損はないと思う。

文化遺産の眠る海―水中考古学入門 (DOJIN選書)
化学同人
岩淵 聡文

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「水中」には海だけでなく湖や川も入る。(その意味では"海洋考古学"や"海事考古学"と呼ばれているものも水中考古学の中に含まれる) 著者が水中考古学という名称を推しているので、今の学界的な日本語標準名称がそれなのだろう。

これは名前のとおり、水に沈んでいる遺跡・遺物を扱う。遺跡が水没してるかしてないかで、同じ考古学でもジャンルが変わってしまうわけだが、これは手法の違いを考えると理由がよく判る。水の中にある遺物は泥に埋もれていても陸地のように手で掘るわけにはいかない。潜水の準備が必要だし、ソナーや音響探査装置など機材も全く違う。

水中考古学というジャンルが新しく確立されてきた理由は、その水中へのアプローチ手段の発達による。
昔は深い水の中に潜る手段も、泥に埋もれた遺跡を音波などで探査する機材も無かったのだ。せいぜい猟師や海女さんが潜れる範囲の海で偶然何かを見つけるとか、嵐の後に海岸に何かが打ち上げられるとかくらいだった。それが今ではスキューバダイビングの技術によって海底何十メートルという場所まで生身の人間が潜っていける。潜水艇を使えば、もっと深い場所に沈んだ遺物まで発見できる。

かつて人類に手の届かなかった、水底の「過去」への扉が開かれたのである。



で、この本を読むまで知らなかったのだが、水中に没した遺構は、ユネスコ基準だと「百年経ったら水中文化遺産」、それまでは文化遺産扱いにはならないらしい。だから日露戦争で沈んだ船は水中文化遺産なのに第二次世界大戦中に沈没した船はまだ水中文化遺産ではない。
これは、沈没した船の持ち主などがサルベージ会社に船の引き上げを依頼することがあるために設けられた期間らしい。かつては引き上げを断念していた船も、今の技術なら引き上げが可能になってたりするからだ。

ただ日本の立場からするとこれがちょっと微妙な期限で、水中文化遺産扱いになってしまうと、第二次世界大戦中に沈んだ戦艦から遺骨を引き上げようとしても自由にそれが出来なくなってしまうらしい。


そして、水中文化遺産というのは、発見された国の所有物にはならないということ。
これは水中文化遺産が、場所柄、船であることが多いことも関連しているらしい。たとえば中国から貢物としての陶磁器を積んでインドに向かう途中だったポルトガル船がインドネシア沖で沈んだとする。発見場所はインドネシアだが、船籍はポルトガルで、中身は中国産、ただし贈与先はインド、と、船と積荷の帰属がよくわからないことになってしまう。だから人類共通遺産にしましょうという話になってるらしい。

ただし、このあたりはきちんと守られているとは言いがたく、その海が領海であれば、「政府のさじ加減次第」というところ。宝探しのサルベージャーからのお金が欲しくて、違法なサルベージを見てみぬふりをしている国も現実に存在する。また、遺物発見場所が公海だったりすると、どこの国の権限も及ばなくなってしまう。


もう一つには、発見者が利益を得ることは禁じられているという。
これはトレジャーハンターや商業サルベージャーが利益優先で水中の遺跡を破壊することを阻止するための条項だそうだ。

少し前にイスラエル沖で金貨が見つかったというニュースがあり、発見者のダイバーは何も利益を得られなかったということが報じられていて、可愛そうだとかいう意見もあったが、それもこのルールに則った処置なのだろう。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20150223/436710/


いずれにせよ、水中考古学自体まだ新しいジャンルということもあり、ルール制定にはまだ不十分なところがある。多分、国によって人材がいなかったり、専門家のレベルが低かったりするんだろうな…。わが国の法整備が不十分だというのも、おそらく文部科学省あたりの偉い人の認識不足とかあるんだろう。

しかし、このジャンルが今後より成熟していかねばならないことは事実だ。
今のところ各国政府の取り組みが不十分だったり、一般理解が進んでいなかったりするせいで、禁じられた遺物の商業利用や一攫千金狙いのトレジャーハンターによって水中の文化財が荒らされるケースも多くあるという。日本は四方が海、いまだ知られていない水中文化遺産も多くあるだろう。それらが、いつかカリブ海のように、金目のもの狙いのトレジャーハンターに荒らされるようになる日がくるかもしれないのだ。



著者はこの本の中で、日本における水中考古学がいまいち盛り上がらなかった理由の一つに、トレジャーハンティングと純粋な考古学との差異がうまく説明されなかったからではないかと書いている。水中考古学とは要するに金目のものを探して海底を荒らしまわるような宝探しではないのか、という批判もあって、一つのジャンルとして成立しづらかったのではないかというのだ。

これは専門家がきちんと説明してくれないと、一般人わからんと思うんだよね…。
テレビのバラエティなんか面白ければ何でもいいだろ的な流し方しかせんしね。沈没船から金塊が出てくれば大騒ぎだけど、錆びたパイプ一本じゃ盛り上がらんって思うような人たちだし。

与那国島の海底自然岩石群の件については、エジプトマニアの一人として水中考古学者の皆さんにごめんなさいしなくてはならない。どう見ても人工物じゃないアレを「遺跡に違いない!」とかテレビで騒いだうちの一人が、かの有名な(そして悪名高き)吉村作治氏だからね…。

"しかしながら、与那国島沖の海底自然岩石群の場合には、全く信じられないことではあるが、水中考古学の非専門家である大学関係者がこうした報告を追認し、自然石を人工物と言いくるめるような態度を見せてしまった。この結果、「日本の水中考古学者は、自然石と人工物との区別もつけられない素人である」という悪評が確立するようになってしまったのである。"


  ごめんなさい(土下座

あの人、中南米関連でも日本の民俗学関連でもてけとーなことを言って引っ掻き回してるし何なん(´・ω・`)
他のエジプト学者が早めに黙らせておくべきだったよほんと(´・ω・`)

もちろん吉村氏一人が問題ではないんだけどさ、こういうショッボい理由で足引っ張られて学問としての確立が遅れるってのはどうかと思う。しかしそれでも、最近になってようやく前に進み始めたのかなとこの本を読んで思った。昔は、そもそもこういう本もなかったからね…。


というわけで。
幾多の誤解と逆風を乗り越えて、これからのジャンル。今後の発展に期待したい。

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