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zoom RSS エジプト本だと思った? 残念! 比較神話の本だよ! 「古代エジプト死者からの声」

<<   作成日時 : 2015/06/28 00:10   >>

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本屋に平積みになってたので見つけて買って来た。最近出た本らしい。



エジプト本だろうと思って読み始めて、最初の20ページくらいのところで、なにやらおかしいことに気がつく。…エジプトの比率が低い。エジプト本じゃなくて比較神話の本で、「古代エジプトのここと別の文化のここが似ている」と延々繰り返すだけの何だかよく分からない本になっていた(´・ω・`)

古代エジプト人が死後の世界をどんな風に見ていたか、というのを、他の文化の似ているところと並べて書くことで理解しようとしてるっぽい…のだが、ぶっちゃけ人が死後の世界をどう考えているかなんて同じ文化でも多種多様だし、自分がどう考えてるのかだって、日によって、体調によって、あるいは年齢によって別ものに変化していくだろう。要するに「わからんし、証明も出来んから、自由に考えろや。以上」の一行で終わる話だと思う。

そこをざっくり終わらせると面白くないので話を膨らませた、ってのはいいんだけど、エジプトの話をすればいいのに、なんでかエジプトから世界中の色んなところにぽんぽん飛んでいき、結局何が言いたいのか分からないことに…。



とどのつまり、比較の仕方が、あまりよろしくない。

世界中の色んな地域、民族、文化をひっぱりだしてきているのだが、ある時はマレー半島のチェウォン族を出してきたかと思えば、次にドイツのアインベックという地域を出してくる。ギリシアを出してきたかと思えば次はメソアメリカのオルメカ文明。比較のレベルがまちまちすぎて、単に似てると思われるものを羅列したようにしか見えない。あまり良くない比較神話の本でやりがちな失敗をやってしまっている。

自分に都合のいい、似てると思われる記述を片っ端から集めるだけなら、ハンコックあたりのトンデモ本でも出来る。「エジプト人の感性は日本人と似ているはずだ」と最初に提示されているので、せめて日本に絞って、エジプト人の死生観と日本人の古来の死生観を比較すれば良かったんじゃないだろうか? 著者が博識なのは分かったが、このとっちらかった記述だと、うさんくさい系の本に片足突っ込んでしまってるようで落ち着かない。

ちょっと厳しい見方をすると、いかがわしい系の本でよく使われる書き方なんである。



一つは、比較対象の選択が時代も地域も無視しすぎだということ。

アプレイウスの「黄金のロバ」から引いて、イシスの左手がファーティマの手の起源かもしれない、などと書いているが、もっと近い場所に、祈願者の手の型を神殿に奉納する習慣のある地域とかあったんじゃん? と思う。

つい先日行った大英博物館展でも、「アラビアの手形奉納品」とか見たよ…。
http://www.history100.jp/point/index5.html

時代と場所をすっ飛ばして「似てる」だけ言ってしまえるのなら、たとえば、エジプトの壁画とマヤの壁画に似てるモチーフがある、と述べることだって出来てしまう。そんなわけないと多くの人は笑うだろう。似てるのはただの偶然だろう、と。しかし、今回のこの本の遣り方は、実はそれと大して違っていない。「ただの偶然」と、「意味のある類似」の区別が明確に成されていない。


もう一つは、特別ではないものの一部を切り取って特別に見せ掛けているということ。

羊は神聖なるものである、という記述があったが、そもそも人間の身近にいる動物の中に、特別扱いされていないものは、ほとんど出てこない。ニワトリでもウマでもウシでもヒツジでもヤギでも、世界中探せばそりゃあ神聖視されている神話の一つ二つくらいすぐに見つかる。アラブ世界で禁忌とされるブタでさえ、ケルト神話では異界の生き物、神聖な動物になっている。羊を神聖なものと扱う風習が別々の場所で共通していたところで、たぶん、「ただの偶然」の可能性のほうが高い。


というわけで、エジプトの部分はともかく、それ以外の部分で、なんか思いついたままな羅列されてるだけだなぁという印象を受けた。書きたいことを色々欲張りすぎたのか。もともと答えのないものに何か形を与えようとした結果がこれなのか…。


鎌倉時代の日本と古代エジプトで似ている風習があったとしても、「で?」で終わってしまう話だ。関連性など無いに等しい。あるほうが不思議だ。文化は、タイムスリップしたりしない。連続する時代と地域に伝播する。比較するなら、関連性の考えられる近い時代と場所でやるのがまず普通だと思う。古代エジプトの宗教観念がキリスト教にどう伝わったのかとか、ギリシャ神話にどんな影響を与えたのか、とかを「東地中海世界」という枠組みでやってくれたらもっと面白かったのだろう。



あと、日本のエジプトの先生で、「一神教の欧米人にはエジプトの宗教はきっと理解できまい。エジプト人に近いアミニズムの思考をもち日本人のほうが理解出来るに違いない」ということを書いてる人はけっこういるんだけど、これ一歩間違うと選民思想だからね? 逆差別とでも言うのか。それこそ、一昔前の大日本帝国の「白人どもはアジア人の気持ちなど分からない、気持ちの分かる我々こそ支配者に相応しい」的な思考の類似になってしまう。そもそも"ヨーロッパ"とか一括りにすることは妥当なのか疑問に思う。

たとえば南部フランスなんかは、一神教の皮を被っていても実際は元の多神教が生きている。大地母神が形を変えた黒い聖母、とかである。イングランドだって北のほうとか西のほういけば、ケルト文化圏の巨石信仰がまだ生き残っている。北欧のほういけば妖精がまだ生きてることになってる。一神教の文化圏の人には多神教は本当の意味では理解できない、ということ自体が、なんかこう、ステレオタイプによる誤解みたいな気がするんだよね。日本人はそんなに特別じゃないと思うよ。



この先生のほかの本はわりとお気に入りだけど、今回のはちょっと微妙だったかな…。



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【2017/5/28追加分】

本編とはあまり関係ないけど、いちおう補足。

ここ10年くらいで研究が進んで、ケルト観が大きく変更されました。
最近の研究では、巨石文化がケルト人関係ないことはもちろん、そもそも島のケルトは存在しなかったと(ケルトじゃない別のなにか)いうのが主流説となっています。

「島のケルト」は「大陸のケルト」とは別モノだった。というかケルトじゃなかったという話
http://55096962.at.webry.info/201705/article_21.html

そのため、ブリテン島やアイルランドのケルトについて言及している部分は、土着の古来文化と読み変えてください。

なお今まで「ケルト神話」と言われていたものも、島のケルトに属するものは”ケルト”神話じゃなくなります。

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