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zoom RSS これは久々の当たり本。「ツタンカーメン 死後の奇妙な物語」

<<   作成日時 : 2015/03/25 00:10   >>

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なんとなく本屋にあったからなんとなく買ってきたけど、これは近年稀に見るアタリ。時系列での記述と欄外の補足がお役立ち。ここ何年かのツタンカーメンのCTスキャンやDNA分析を巡るゴタゴタ(というか舞台裏)が非常によく纏まっている。

ツタンカーメンの話しだけではなく、エジプト考古学界の裏事情や、近年起きたエジプト騒乱による考古学分野への影響なども時系列順で書かれている。その意味では、ツタンカーメンに食傷気味の人でもゴシップ的な意味で楽しめるかもしれない。

ツタンカーメン 死後の奇妙な物語
文藝春秋
ジョー マーチャント

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「ツタンカーメンに関わった人たちの物語」ということで、最初は発見者のハワード・カーターなどから始まり、半ばあたりから近年の話。ハトシェプスト女王のミイラが特定されたとか、ツタンカーメンはマラリアにかかっており死の直前に大たい骨を骨折していたとかいう話は、日本のテレビや雑誌などでも散々流されたので、知っている人は多いかと思う。

その「舞台裏」で、実際に研究に関わった人たちはどのように考え、どのように動いていたのか。
テレビ番組は分かりやすい事実をキレイに見せるため、そして結論を出すため、ともすれば科学的な視点を捻じ曲げてしまう。「〜かもしれない」だったことが、いつのまにか「〜であった」と断定に変わってしまう。これは、エジプト学者ではない畑違いの著者だから書けた、と言うべき本である。


たとえば、ツタンカーメンの遺体で、大たい骨に骨折の跡があったことは今ではよく知られている。が、そもそもそれが、ミイラ発見時に手荒に扱われたためなのか、生前からそうだったのかについては、人によって意見が分かれているという。また、足の骨に異常が見られることも、生前からそうだったのかの確証が得られない。そもそもミイラの検視は普通の遺体の検死と全く同じでは無いので、病理学者や形質人類学者にとっては未知の挑戦になってしまうのだ。

ハトシェプスト女王のミイラ特定、そしてツタンカーメンとその両親を探すDNA分析についても、当初から「手法が妥当ではないのでは」という疑念はつきまとっていた。それが現在も消えていないのは、実験の記録がまとまった資料として公表されておらず、疑念を抱く人が内容の確認が出来ていないからだ。科学的な手続きとしては、これはよろしくない。結果だけではなく、実験の手順を明らかにするのは必須条件と言える。

そもそも何千年も昔の保存状態の悪いミイラからのDNA抽出は可能なのか。
それが現代人のDNAに汚染されていないと確信が持てるのか。

そこを厳密にやってしまうと確かに番組としては成り立たない。視聴者は面白くないと感じるだろう。雑誌も売れまい。何もかも疑っていては始まらないという考え方もある―― ただ、今手にしている答えは「いつか覆る可能性がある」ことは、エジプトマニア的には知っておいてもいいと思う。


そうしたこまごまとした面倒な話は「よくわかんない」という人ならば、一つだけ。

 エジプト考古学の世界には、自由に意見を表明できない縛りがある 

これを認識しておけばいい。
(※ただこれは、エジプト考古学の世界だけではない。権威によって口を封じられる世界は、残念ながら様々なジャンルにおいてあり得ることだ。)


最初に「畑違いの著者だから書けた」と言った一つが、かつて日本でも著名だったエジプト人の考古学者、そして考古庁の長官でもあったザヒ・ハワスだ。彼は物事を魅力的に、はっきりと語る、テレビ受けする人物であったが、同時に、自分に逆らうもの、意見するものは決して許さない性格の持ち主でもあった。

エジプト人自身の口でエジプトの歴史を語ったという画期的な面、情熱を持ってエジプトの遺物のために尽くしたこと、世界中の興味をひきつけ、多くの話題を提供したことは認められてしかるべきだ。しかし、ザヒ・ハワスの意向一つで発掘権が取り上げられたり、資料の閲覧が禁止されたりする世界では、反対意見を表立って述べることは出来ず、やり方に異を唱えることも出来ない。いささかリーダーシップが強力すぎた、というべきだろうか。

これは日本における吉村作治への批判とほぼ同じ構図である。日本で発掘権を持っている大学は限られている。遺跡らしき場所を見つけたり遺跡の実地調査をしたいなと思ったりした場合は、発掘権を持っているところに頼むしかない。気分を害すと協力してくれなくなるのだから、後はお察しである。
ただ残念なことに、吉村氏はハワスと違い、情熱に知識が全く伴わなかったのと、ハワス以上に自己顕示欲が強かったために、早々に考古学者の体を成さなくなってしまったのだが…。

ちなみに本の中では2000年に早稲田が企画し、その後ポシャッたミイラの調査の話も出てくる。
そこの部分について本では吉村氏を「権威」とつけているが、誰かが気を利かせて付けたのではないかと思っている。なぜなら他の学者には、誰一人そんな恥ずかしい肩書きは付けられていないからだ(笑) ともあれ、この企画が阻止されたのは幸運なことだった。発掘現場に霊能者を呼んで霊視させて、それを面白おかしくバラエティー番組に流すような考古学者もどきに任せたら、ツタンカーメンのストーリーはとんでもないことになっていただろう。
(※1992年に宜保愛子と共演。本人は受け狙いでやったと主張するが、万引きをしたのは出来心でしたと言うのと同じくらい最低な言い訳である。)


いずれにしても、この本は様々な角度から集められた貴重な証言が揃っている。エジプトの政情が落ち着くまで新たな調査が行われる可能性は低いが、科学の発展と新たな調査が、ザヒ・ハワスたちの調査とは別のストーリーを描き出す可能性は大いにありえるということだ。

ツタンカーメンの物語は、まだ終わっていないのだ。



********

ディスカバリー・チャンネル「今蘇るハトシェプスト女王のミイラ」の話とかはこちら
http://55096962.at.webry.info/200901/article_34.html

2010年に同じくディスカバリー・チャンネルで放映された「マスクを脱いだツタンカーメン」の感想などはこちら

前編[>http://55096962.at.webry.info/201004/article_14.html
後編[>http://55096962.at.webry.info/201004/article_20.html

ナショジオのツタンカーメン特集が載った号(外部)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/1009/feature01/

ツタンカーメン発見とハワード・カーター: エジプト人のナショナリズム
http://55096962.at.webry.info/200912/article_25.html

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