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zoom RSS 宗教と戦争/その戦争の原因は、宗教だけではなかった。

<<   作成日時 : 2014/07/22 00:10   >>

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こないだ紹介した「一神教の起源」という本の冒頭部分に、こんなことが書かれていた。


典型的な多神教文化を持つわが国では、一神教は自分たちの価値観や考え方と異なるものを排除しようとする点で不寛容で独善的であり、自己の立場を非妥協的に主張する点で攻撃的・暴力的であると否定的に見られることも多い。また、超越的な唯一の神のみを信じ、例えば自然の中に神聖性を認めないので、自然の濫用や環境破壊につながるというような批判も多く見られ、そこから東洋的な多神教やアミニズムの再評価が説かれることも少なくない。

たしかに、一般的に見て、指摘されるような傾向が一神教に存在することは必ずしも否定できないし、世界の紛争や戦争にユダヤ教、キリスト教、イスラム教が絡んできたことも少なくない。この点については、それぞれの宗教の信徒の真摯な自覚と反省が必要とされよう。しかし十字軍やホロコースト、中東戦争やユーゴ紛争を含め、それらの衝突や紛争の多くは、実は宗教戦争ではなく、宗教以外の要因によるのであり、ただ宗教が対立の「旗印」に利用されたと見られることを忘れてはならない。


前段の「東洋的な多神教やアミニズムの再評価が説かれることも少なくない。」あたりは、誤解から来る、よくある論法だ。引用したこの部分のあとに、「そう言う多神教だって色々ひどいことしてるよね」という話が続く。ここの部分、実はかなりミもフタもないことを言っている。(笑

多神教だとか一神教だとかいうのは、残虐性という意味においてあんま関係ない。宗教が原因となっている戦争が多いことから、宗教そのものが人類平和のために無意味という極論に走りがちな人も多いが、ぶっちゃけ宗教がなきゃ別の原因で戦争になるだけである。

人種だの性別だの、日本ローカルなのでいくと血液型だの、カテゴリー分けできるものであれば何でも、他者を排除し、差別あるいは虐待する理由となりうる。宗教があるから争いが起きるのではなく、現実を見れば、多くの場合、不寛容な者が宗教を言い訳にして争いを引き起こしている。かくいう私も、B型なだけで劣等種族狩りに遭いかけたことがある。血液型占いなんてものは科学的根拠が皆無であるから、宗教と呼んでいいくらいだ。


…あやうく私怨で脱線しかけたが、ここの部分で注目してもらいたいのは、「宗教は旗印に使われただけ」という点だ。


この本では「実は宗教戦争ではなく、宗教以外の要因による」と書かれているが、それはちょっと言いすぎだろうと思う。どんな戦争であれ、戦争の要因は一つではないことのほうが圧倒的に多い。"宗教"は、様々な思惑が絡み合い、複合的な要因がある中の"一つの"要因、民衆を納得させるための"表向きの理由"と言うのが妥当だと思う。

そして、これは、多くの場合キリスト教vsイスラム教の戦争と認識されているであろう十字軍においても同じことだ。そうでなければ、同じキリスト教圏だったポーランドを攻撃した十字軍や、ヴェンデ十字軍に「十字軍」と名前がつけられた意味は理解できまい。

十字軍の場合、今では、発端となった理由は以下のようなものが考えられている。


・為政者たちの心理/教皇の権威増大、戦力の「他者」への行使

「十字軍の思想」という本に、以下のような記述がある。

このような状況のもとでは、十字軍は起こりようがなかった。なぜなら、十字軍はローマ教皇が呼びかけ、戦いを正当化することによって生じる、優れて宗教的な戦争、典型的で攻撃的な聖戦だからである。そこには強い宗教動機がある。

<中略>

したがって、十字軍が可能となるには、ローマ教皇権の強化と独立が必要だった。


それまでの戦争とは、皇帝や王たちが好き勝手にやっていたものだった。ある意味、キリスト教徒どうしの内輪もめである。そのエネルギーを、教皇の呼びかけによって「聖戦」へと転化し、外部へ向けさせる。これが第一回十字軍の大きな動機だった。

教皇の呼びかけによって全ヨーロッパが動くためには、教皇の権力が強くなくてはならない。十字軍の発起により、教皇は聖戦を命じる権威を手に入れた。イスラム教徒が攻撃目標に選ばれたのは、異教徒を改宗させるという大義名分のため、また「キリスト教徒の世界」を「内」として、攻撃目標を「外」に持たせるためだったと言える。


・民衆の心理/聖地奪還とミレニアム

十字軍は、「聖」と「俗」、「祈るもの」と「戦うもの」の分離にも関わっている。「戦うもの」とされたのは皇帝や王、騎士たち、「祈るもの」とされたのは聖職者たちである。
十字軍以前の時代、キリスト教徒とイスラム教徒とは仲良くやっていた。商売上の付き合いもあったからである。しかし終末の予言による千年紀が近づくにつれ、友好的な雰囲気は一変していく。
「そろそろ終末くるはずなんだけど、俺らどうすりゃいいの?」
正しく生きたものだけが、最後の審判で天国にいけることになっている。果たして自分は正しく生きたのか。21世紀に生きている我々からすれば滑稽かもしれないが、はじめてのミレニアムを迎えようとする敬虔な信者たちは本当に恐ろしかったのかもしれない。

聖地エルサレムは異教徒の手にあり、自らは異教徒たちと手を組んで仲良くやっている。これは神の心に反するのでは無いか。
教皇をはじめとした為政者たちは、そうした民衆の不安にうまく付け込んで扇動した。



つまり、「宗教戦争」という側面は、圧倒的多数である民衆側から見た理由であり、十字軍という行為を扇動した為政者たちの側からすると、戦争の理由はもっと俗っぽい自己利益のためのものだったということだ。高邁な思想はタテマエに過ぎない。

だから、やがて十字軍は身内であるはずのヨーロッパへも向かう。

「土地が欲しい」「戦い続けなくては組織の維持が出来ない」「寄付を募るため」「名声のため」。同じキリスト教でも正教徒は異端としてロシアに攻め入ったり、カタリ派は異端だからといって虐殺を行った。宗教は口実に使われただけで、宗教が口実に使えなければ、主義信条、人種、あるいは親族の罪など何でも理由とされただろう。

十字軍以外で例に挙げられている戦争も、同じように、宗教以外の理由の比重が大きい。ホロコーストはユダヤ人追放という問題ではなく、政治的な理由を含む。中東戦争も同じくユダヤvsイスラムではなく、石油利権や代理戦争の側面を持つ。ユーゴ紛争は実はよく知らないのだが、民族や宗教の異なる坩堝のような国であれば、誰かが火をつければ燃え上がる燃料はいくらでもありそうだ。

大事なことは、戦争の原因は宗教なのだと、あるいは諸悪の根源は一神教の偏屈さにあるのだと決め付けて、そこで思考停止をしないことである。

中東が荒れているからといって、「これだからイスラムは過激だな」などと言ってはならない。異なる文化を持つ他者を理解しようとしないこと、それこそが、戦争を引き起こす唯一にして最大の原因なのだ。キリスト教とイスラム教とユダヤ教に、お互いを受け入れてもうちっと仲良くしろよと説教を垂れる前に、まず自分がそれらを信仰する人々の「現実」を理解しようとつとめなくてはならないのではないか。




…と、いうわけで簡単な参考書でも紹介できればよかったんだが、私は宗教関連の概要書が嫌いなんだ(´・ω・`)。教科書丸覚えにこれほど向かないジャンルもそうそうない。
日本で出版される宗教関連の本は、かなりの確率でキリスト教側(西洋側)の視点に偏っていることを前提としてほしい。間違いではないかもしれないが、一方的な視点に立っている可能性がある。

概要書では、国ごとの差が無視されることも多い。アメリカだとクリスマスにターキー食うけど、他の国だとトナカイ食ってたり魚食ってたりするのが語られない。カトリックってことになってるペルーでイースターのごちそうにクイの丸焼き出されるとかも書いてない。その差異こそが重要なはずなのに…。

イスラム教も、国によって全然カラーが違う。エジプトはイスラム圏だけど街中で恋唄がガンガン流れていて、カラフルなスカーフ巻いたジーンズのお姉さんが電車に乗ってたりするけれど、サウジアラビアに行くとそんな光景はまずお目にかかれない。トルコは都市ごとにぜんぜん雰囲気が違っていて、大都会なイスタンブールなんかはヨーロッパ風なのに、地方都市に行くとバリバリのイスラム文化圏で、場所によってはラマダン時期は昼間はレストランが開いていないとか、徹底している。

まあ、何のジャンルにも言えるけれど、教科書はあくまで教科書、ほんとのことは自分の目で見て来るのが一番。ただ、知ろうとするのと、ぜんぜん興味ないの差はとても大きいので、やっぱり最初は適当な概要書から入って色んな本を読んでみてね。と言うと思う。

キリスト教関連はそのへんに沢山ありそうなので、ここではイスラム初心者むけのわかりやすい本を一冊。

イスラームの世界地図 (文春新書)
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自分は、昔はじめてエジプトに行ったときには、イスラム教って何? キリスト教とどう違うんだっけ? くらいのペーペーだった。そこから興味のむくままチマチマと勉強して、ようやくシーア派とスンニ派の対立の原因を説明できるくらいにはなった。千里の道も一歩から、世界平和への道は他者を理解しようとすることから始まる。

すべてを知ることはムリでも、何か知ろうとすることは大事。
まずは入り口に立つことから始めよう。



#勉強した結果「ああ、やっぱこいつらと一緒はダメだ…」って
#悟ることも無いではありませんが。

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