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zoom RSS 推理小説の著者も登場人物も、時代に追いつけない…。スケルトン探偵シリーズ16作目

<<   作成日時 : 2014/04/14 00:10   >>

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アーロン・エルキンズの「スケルトン探偵」シリーズ16作目がKindle版で出ていたので読んだ。「葡萄畑の骨」。

探偵役の人が形質人類学で、骨から死因を探ってゆくという珍しい設定で、専門知識が入り乱れる知的ミステリ、かつ世界各国を飛び回る旅情サスペンス的な雰囲気のある人気シリーズ、…だったのだが、訳者が変わったからか、作者が人を殺し飽きたのか、ここ数作は微妙な感じになってきていた。最初の数作はほんとすばらしかったのになあ。

葡萄園の骨〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
早川書房
アーロン・エルキンズ

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結論から言うと、この作品も推理小説としては凡作をちょっと下回るくらいで…なんていうか…うーん? どうしちゃったん? ネタ切れたん? と言いたくなる様な出来。たぶんミステリ読みなら半分くらいいったあたりで犯人分かる。ていうか展開が読める。少なくともエルキンズの他シリーズを読んできた読者なら、主人公の妻ジュリーが「もしかして…」とか言い出したあたりで解決してる。学ばないのは作中の登場人物だけだ。水戸黄門ばりにお約束展開の連続でしかなかった。

伏線の張り方はおざなりだし、トリックなんてものは皆無だし、そもそも舞台をトスカーナのワイナリーにする意味がない。被害者がサルディーニャ島出身って設定もまるきり活きてないし、別にボルドーのワイナリーでもマディラのワイナリーでも、いっそチリあたりのワイナリーでも全然かまわん感じ、というかむしろワイナリーじゃなくて農場経営者でもペンション経営者でも何でもいいよこれ(笑)

しかも家族間での利害の不一致とかドロドロ関係とか、「楽園の骨」のコーヒー農園で同じようなシチュエーションで既にやりましたやん、ていう。

それから、このシリーズは登場人物たちが滞在先の国で地元料理をおいしそうに食べるのもウリなのだけれど、今回はそれすら適当で(だってイタリアもう何回目か分からんしね…)、なんで毎回メシ食いながら死体の話してるの? 死体の話するためにみんなでメシ食いに行くの? って感じになってる。なもんで出てくる郷土料理が全然おいしそうじゃなかった。死体の話は警察署の地下室でひからびたドーナツと一緒にするから良いのであって、揚げ物やワインを前にしてディナーテーブルでするものじゃない!

さすがにこれは次回作は買わないかもな…。
シリーズの最初の頃の作品が神だっただけにこの凋落ぶりは辛いな…。



と、ガッカリしつつ、それでも感想を書くのは、この本の中で何気なく出てくるワンシーンが著者と、著者に協力した専門家たちの本音を暴露していると思ったからだ。それは、こんなシーン。


学生が正しい科学的手法にこだわるのは良いことだった。しかし今、テラスでラップトップの論文を読みながら、やはり委員を引き受けたことを後悔していた。
DNA調査を人類学に適用するのが画期的な方法だと思っていないわけではないし、そうした最新技術に懐疑的なわけでもなく、すこし読んだだけで目がしょぼつくので休み休み論文を読まなければならないことを苦にしているのでもない。そうではなく、この論文そのものが彼自身を化石になったように感じさせた。

<中略>

あるいはDNAという考え方自体が彼を滅入らせるのかもしれない。なぜならそれは彼がこれまでずっと研究してきた法人類学の有用性の終わりを暗示しているからだった。


これは作中、主人公が滞在中のホテルで、学生に頼まれた博士論文の査読をしているシーンだ。
自分の専門ジャンルである形質人類学の中でも「新入りの大学院生と変わらないほど無知な分野」がDNA解析だという。学生が頼んできたのはまさにそのジャンルの論文で、タイトルは「ミトコンドリアDNA、Y染色体STR、常染色体STRマーカーの分析法による、北ウズベキスタンのタタール人、カザフ人、カラカルパク人の現代住民間の遺伝子混合の状況評価」。母系か父系かどっちかに絞らんでえーのんか? という些細な心配はともかく、この論文が主人公のギデオン教授には良く分からない。と同時に、DNA解析で被害者の身元が分かるようになれば、今の自分のように骨を鑑定して被害者の身元を突き止める技術は無用になるのではないかと心配もしている。

…DNA解析を万能だと勘違いしているようで、なんだかここだけ、主人公がものすごく一般人くさいことを言っているような不思議な気持ちにさせられた。(実際のところ、DNAから国籍や体格は分からないし、比較対象するものがなければ誰の血縁者かも判別できないから、骨の鑑定術が無用になる時代はまだ来ないと思うのだが。)



実際、学問の世界では、ベテランの教授職にあっても最新技術にまったく追いつけておらず、指導教諭の立場にありながら若手が最新技術を用いて出してくる論文を理解できない教授も少なからずいる、という話を聞いたことがある。先日から世の中を騒がせているSTAP細胞の件も、小保方女史のずさんな論文を見抜けなかった連名のエライ先生方は、実は論文の中身やデータが理解できていなかったのではないかと言う話もあったりする。

たとえば、以下のような記事だ。


STAP問題が照らし出した日本の医学生物学研究の構造的問題
http://www.huffingtonpost.jp/masahiro-ono/stap-problem_b_5074994.html

年を取った教授たちがお手盛りで定年を延長して長居しているうちに、最新の研究データを理解できないようになり、実験方法の機微を理解していないのはもちろん、特に最新機器(マルチカラーフローサイトメトリー、次世代シークエンス、マイクロアレイなど)の生データを理解できないどころか、マイニング・データ解析の理論についても全く分かっていないひとが多い。著明な教授たち偉い面々は、日々の研究の場では、学生たちが図に加工したデータしか見ていない。



ジャンルはまったく違うが、趣味の考古学方面で、仰天するような化石のような学者さんに合間見えたことがあるので、言ってることはなんとなく分かる。(いまどきデータを紙管理ですか?! 入力は学生任せ…? え、それグーグルで検索したら出てきますよ…? 先生、フロッピーはもうありませんそれはSDカードです。等々)

さすがにこの推理小説の主人公はパソコンは使えているし、前作か前々作あたりからインターネットで検索するシーンも出てきたりはしたがしかし、それにしても時代に追いつけていないのは否めない。何しろメールの履歴を消すために殺人事件の容疑者宅から持ち出されたのがデスクトップパソコンだというのだから。いまどきはメールはスマホですよ、スマホ! なんで家族間のやりとりにスマホもってないの! それとパソコン使うのに説明書なんてついてないよ普通! 最近の若者はパスワードを冷蔵庫の裏に張ったりしませんそれ年寄りの発想! 

あと、いいかげん切羽詰ってる殺人事件の捜査の時は、電話に伝言なんて古い方法はやめてショートメールくらい使ってもいいと思うんだ。それとレストラン探すのに道に迷う前にカーナビ使おうよ。つかギデオン教授フェイスブック持ってないの? 等々。

そして、スマホとショートメールがあったら、たぶん今回の殺人事件は成立してないし、追加の死体は生まれていなかったという…。


つまりトリック自体がだいぶアナログな時代のものだった。なんかそういうところの端々で、著者が時代に追いつけてない空気を感じてしまう。設定を考えるミステリー作家も大変だなとは思うけれど、でもリアリティって舞台背景から生まれるから…。


********

というわけで本作は、本筋のミステリー面では設定不足、科学捜査面でもネタが練りきれていなくて主人公が「最新技術についていけない」「自分の時代が終わるかもしれない」とボヤく、長年好きだったシリーズの一冊としては、なんとも切ない作品になってしまった。

まーミステリーもやりづらいよね。こうテンポの速いご時勢だと。
むかしは「時刻表殺人」なんていうジャンルも流行ったもんですよ? 今や、ナビ●イムやジョ●ダンで一発検索の時代になってしまいましたがね。

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