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zoom RSS 少年は象とともに歩み、やがて象となる―「ハンニバルの象使い」

<<   作成日時 : 2013/06/25 00:10   >>

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児童書なのに涙が止まらない。
タイトルが面白そうなので埋め合わせに借りたらえらいトラップが仕込まれていた。
これは…たぶん小学校高学年あたりから対象年齢なんだろうけど、何も知らない子が読んだらトラウマになるんじゃないか的な本。

ハンニバルの象つかい
岩波書店
ハンス・バウマン
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物語は、破壊され尽くした都市の跡から始まる。
ローマによってそこに移住させられた人々は、あまりにも徹底的な破壊の前に、荒れ果てた大地を見捨てて去っていってしまう。残ったのは一家族だけ。彼らをそこに繋ぎ止めていたものは、都市のどこかに埋められているという財宝の噂だけだった。

その荒れ果てた都市に住み着いた、一人の老人。
その老人もまた、大地を掘り返し初めた。宝をさがしているのだと疑った、宝探しの最後の家の子供たちは、老人のもとへ赴く。そこで子供たちは、老人から思いがけない話を聞いた。


荒れ果てた都市の名はサグントゥム。
かつてハンニバルに滅ぼされた、第二次ポエニ戦争の始まりとなった町。
老人は、その町の唯一の生き残りであり、数奇な運命によってハンニバルとともにアルプスを越えてローマへの遠征の道をたどった象使いなのだと――




児童書とはいえ、これはれっきとした歴史小説だ。しかしいたずらに装飾はしない。語り口はシンプルで、淡々と人が死んでいき、淡々と残酷な事実が語られる。主人公に象の使い方を教えてくれたカルタロはいずれ死ぬ登場人物なんだろうなと予想はしていたけれど、思ったより死に方がキツかった…。なんだろうな、ヘタにドラマチックに盛り上げるより、こういう淡々とした死に方のほうがよっぽど残酷だよ。象も仲間たちも、子供向けとは思えない死に方していくよ…。

厳しい現実の中で、少年は様々なことを見出していく。
魅力的な指導者としてのハンニバルと、傲慢で残酷で、簡単に人を殺してしまうハンニバル。穏やかで威厳のある最良の友としての象と、敵味方かまわず踏み潰し暴れまわる脅威としての象。あらゆるところで、物事の二面性が語られる。戦争で、どちらが正しいのか、を議論することに意味はない。主人公もどちらの陣営にもついていない。心はサグントゥムにありつづける。そして過酷な旅の末に、彼は故郷へと帰ってゆく。相棒の象が、故郷であるインドを目指したように、だ。

このクライマックスが泣ける。
象のスールーが故郷のインドを目指したように、やがて年老いた象使いも故郷を目指すことになる。時間がスールーの額から十字架を外したように、象使いからは焼き印を消し去ってくれた。そして象使いと象は、同じものとなる。


主人公の少年は戦線を途中で離脱するので、ハンニバルの悲劇的な最期までは語られない。しかし英雄として悲劇的に死ぬことよりも、敗戦の屈辱の中で生き続けることのほうが難しい。

「彼は諦めてしまった」

と、老人の語る、その言葉の意味は重い。全体を通しての、この本のテーマは多分「生きる」ということなのだと思う。

老人は生きた。ハンニバルは生きることを諦めた。
最後に老人が、サグントゥムの廃墟から掘り起こして子供たちに見せた「宝物」も象徴的だ。確かにそれは生きるために必要なもので、最高の宝物だった。それがあるから、彼らはここで生きてゆける。戦乱の果てに荒廃した大地に、やがて再生が訪れることを思わせる希望を持てる結びになっていたのが、救いだったと思う。


*******

読み終わったあとでサグントゥムについて調べてみた。
バレンシアよりは小さいが、現在も「サグント」という名前でそれなりの人口を抱える都市として存在しているようだ。要塞の跡も残っているらしい。要塞の壁と、そこから見える海の風景は物語の中にも登場する。

してみると、象使いの井戸も、風景のどこかに今もあるのかもしれない。

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