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zoom RSS 現代エジプト人の人生がハードモードすぎて。現代エジプト文学集「黒魔術」

<<   作成日時 : 2013/06/09 00:10   >>

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「黒魔術」というタイトルは収録されている最初の作品からきている。サブタイトルは「上エジプト小説集」。
上エジプト、下エジプトという言い方は古代エジプトから現代に引き継がれている概念の一つで、上エジプト=ナイルの「上流」、下エジプト=ナイルの「下流」。ナイルは南から北へと流れるから、北を上にした地図では、いわずもがな上エジプトが「下側」になる。まあだからといってどうという話でもないのだが。

この小説集は、上エジプト、サイーディーと呼ばれる地方出身の作家たちによる作品集である。
舞台は大都会カイロだったり、ナイル中流の小さな村だったり。時代も現代のものがあれば、ナセル大統領の時代のものもある。ナセル時代は、さしづめ日本で言うところの「昭和」あたりの感覚か。この本は、テーマに沿って集められた作品集ではなく、訳者がエジプトで出会ったお気に入りの作品を集めてみたら作家が全員、上エジプトの出身だったので…という感じでタイトルを付けられた本とのことだ。


黒魔術―上エジプト小説集 (パレスチナ選書)
第三書館
ヤハヤー・ターヒル アブドッラー

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収録されている作品は以下の4本。

「黒魔術」
「ノアマーン・アブドルハーフィズの秘められた歴史」
「首飾りと腕輪」
「悪夢の問題」

「黒魔術」と「悪夢の問題」の作者は同じ。いずれもエジプトでは中堅どころの作家による作品だという。
雰囲気的に「黒魔術」と「悪夢の問題」は、角川ホラー文庫に入ってても違和感ない感じのホラーで気持ち悪い系の作品。救いがない。
「ノアマーン〜」は、くだらない内容を気取った文体で歴史っぽく書いてみた感じのおふざけ作品で、昔の村上龍みたいな感じ。
「首飾りと腕輪」は、ただただ虚しい。えっ…なんなの、どういうことなの… ちょおま、ここは孫娘だけでもハッピーエンドにしてやるべきだろ?! みたいな、文体や情景描写が美しいだけにオチに絶望を覚える、そんな話。

日本の文学作品を読んで、必ずしも日本人の生活の実態や心情が分かるわけではないだろう。
しかしエジプト人の書いたこれらは、ちょっとある意味人生の難易度高すぎで、日本の文学作品以上に精神力削られる感がハンパない。特に男女関係とか、夫婦についてとかがナチュラルにヤバい。そりゃねアラブ社会ですし。男性優位の世界ですし。でも… でもダンナって妻を殴るのが普通なんだ… とか、えっいま10歳の若妻が初産で死んだって言いました? とか、ダンナが原因で子供を作れないのに産まず女として離婚されちゃって再婚も許されないの? とか。

 これがエジプト人の人生なんか…
 キツいわ(汗

ある程度は予想していたが、ハードモードすぎた。エジプト文学にもきっと明るい話、ハッピーエンドの話はあるはずだよね? あるよね?;


ちなみに巻末に書かれていたことだが、現代エジプトでは小説の市場というのがないそうだ。
識字率があまり高くなく、本を買って読む習慣もあまりない。専業の小説家は滅多におらず、兼業で金にならない小説を好きで書いている人たちが多い。ベストセラーなどというものもない。これが、ノーベル文学賞作家、ナギーブ・マフフーズを生んだ国の実情らしい。
しかし思い当たるところが確かにある。エジプトでは、博物館の土産物屋いがいに本屋というものをついぞ見かけたことはないし、電車の中などで文庫本を広げる光景も見た覚えはない。小説というのがあまり読まれない国、ならばこれらの小説は、実は、大学生が文学サークルで発表している私小説のノリなのかもしれない。だとずれは、この淡々とした奇妙な残酷さにも理由がつくが…。

エジプトの民俗や地理、現代エジプト人の考え方がにじみ出ている、と、とある本で評されていたので軽い気持ちで手にとってみたが、これはなかなかの上級者向け。確かにエジプトの暮らしのちょっとした習慣や食べ物、生活ぶりなんかは面白いんだが…。

***********

欲を言えば、女性作家の作品も読んでみたい。そんなものがあるのなら、だが。
4本の作品の中で女性主人公のものは「首飾りと腕輪」だけだったが、自分がいちばん気に入った(そしていちばん滅入った)のは、これだった。しかし男性視点で書かれていることが丸わかりすぎた。

女性から見た現代エジプトは、どうなんだろう?

古代エジプト人の残した資料も、たいていは男性視点のものだ。文字を書けた大半が男性だったのだから仕方ないにしても、女性の肉声はなかなか伝わってこない。女性の書く現代エジプト小説でハーレクイン調のやつとか、あったりしないのかしら。あったらいいなあ。

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