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zoom RSS 「書を捨てよ、町に出よう」 ―かつて若者だった者たちも今は老いて

<<   作成日時 : 2013/02/04 00:10   >>

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突然だが、引用から入る。

「たとえ儲かっても」
と、賭博反対派の親父はいう。
「悪銭は身につかず、だ。働いて得たものではない金などは、決してひとを幸福にすることなどないだろう」と。
だが働いて得られる金がどれほどのものであるかは、プレス工をやっている友人たちでなくとも知っている。ぼくたちの世代のサラリーマン、労働者は、その月給の計画的配分によるバランス主義では、スポーツカーを一台手に入れることなど、とてもできるものではない。
それどころか。百科事典を全巻そろえることも、「マキシム」でカタツムリのスープをすすることも、リングサイドで西城正三の試合を観ることも出来ない。あたらしい靴を一足買うためにも、考えこんでしまわねばならない、というのが現実なのだ。だが、それにもかかわらず、銀座のクラブは、いつでも男たちであふれ、トヨタは車の量産を世界に誇り、
労働者の給料の六、七倍もする百科事典は、ベストセラーの上位にがんばっている。


これを読んで、若者たるところの我々はどう思うだろうか。若者にもっとカネを。若い世代はカネがなさすぎる。そう言われて久しいような気分になっている昨今では、「ですよねー」「あるある」と思うのではないだろうか。
しかし、奇妙な違和感も覚えるはずだ。

マキシム、って何?
西城正三…?

種明かしを兼ねて、この続きとなる文章を続けて引用してみよう。

そして、スポーツカーの展示会で生ツバを飲み込んでいる少年たちには、水前寺清子の「東京でだめなら名古屋があるさ」という歌があるばかりだ。

――寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」



ああ! これは昔の話なのだ!

そう、これは今から何十年も昔に書かれたエッセイである。1967年初出。自らを「戦後世代」と名乗り、このエッセイの中で親父たちの世代をコキ下ろしている寺山は、このとき”若者”だった。彼はもうこの世には居ないが、皮肉なるかな、彼と同世代の「かつて若者だった」戦後世代は、今や「ジジィ死ね」「老害わろす」と私たちにコキおろされる「親父」になってしまった。

要するに歴史は繰り返す、今言われていることは何も今始まったことではないのである。

戦後世代が若かった頃、彼らはカネがなかった。自由とは何か、会社につとめて結婚して毎日家に帰るだけの人生で本当にいいのかに悩んでいた。しかし時が過ぎてみれば、結局成ったものはといえば、かつて蔑んだ「つまらない」「堕落した」親父たちなのだ。笑ってしまう。笑うと共に悲しくなってくる。

どちらかというと早世した寺山は、そんな親父にならずに済んだ、というべきか。
著者のことはよく知らないので、何とも言えない。

しかしエッセイの中の彼は、とにかく不良に生きることを力説する。マジメにコツコツ生きてどうする、一点豪華主義であれ。バクチで全力でスって何が悪い。トルコ風呂のおねーちゃんにも人生がある。セックスは好きにしろ。戦争反対なんていってるうちは戦争はなくならない。なんとなく万事にケンカを売っているようで、しかしその口ぶりのよさと言い回しの巧みさに思わずニヤリとする。意見が合うことは多分ないが、小気味がよい。そんな文章なのだ。

このエッセイ集を開くとき、これは親の世代が若かった時分の話なのだと思いながら、体験したことのない過去を懐かしむような気分で読んでいる。安保だの学生闘争だの、月光仮面だのベトナム戦争だのと、私からすれば「歴史」でしかない単語がリアルタイムの出来事として次々と語られる。

世界は変わる。世界で起きている出来事も違う。だがそこに生きている若者の悩みなんて結局はおなじもので、若い世代は親の世代を疎んじて、「ジジィ死ね」と斜に構えてハミ出して生きようとするのである。



ところで最近では、書を捨てなくても町に出られるようになった。

それどころか文庫片手にカフェに出かけて半日そこで読書する、なんていうオシャレな休日の過ごし方もあったりする。駅前のドトールかスターバックスに行ってみればいい。iPhone置いてノートを広げた学生が、一杯300円ほどのコーヒーを置いてファッショナブルに自分の世界に酔っている。

今の世代は「書とともに町へ出よう」、いかに少ないお金で長時間を有意義に過ごせるか、を競う時代なのである。カネさえあればなんとかなるさ、とばかりに高いスポーツカーばかり追い求めていた物質消費主義の世代は、地球を蝕む悪しき思想の持ち主だということに、現在ではなっているのですよ。どう思いますか、寺山の親父さん。

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